第76話 食中り注意

 でもこの魔人、まるで小さい頃に1度だけ会ったことがあるおじさんみたいだぞ。

 そんなん覚えているわけないだろって話。

 ……実際どうなんだ。

 というか、普通に人間と変わらなくないか?

 意思疎通もできるし、危険な雰囲気が微塵も感じられない。

 これなら魔人になるメカニズムとかの調査に協力してもらえるんじゃないか?

 聞いていたのと随分違うぞ。

 殺さなきゃ殺されるんじゃなかったっけ。


「エイルちゃんらしいというか……んー、しょうがないなー。危ないから下がってて。あと、その物騒な武器をしまってくれ」

「モナカ、時子、しまうのよ」

「あいつの言うことを聞くのかよっ」

「しまうのよ」


 ダメだ。聞く耳持っちゃいない。


「安心していいよ。エイルちゃんに危害を加えるつもりはないから」


 それってつまり俺たちにはそのつもりがあるってことだよな。


「しまうのよ」


 オウムかよ。


「分かった」

「その子もだ」

「……タイム」

「マスター、いいの?!」

「エイル様のご命令だ」

「分かってるじゃないのよ」

「エイルさん……」

ドローントンボもなのよ」

「エイルさん!」

「タイム、我慢しろ」

「う……」

自動地図記録オートマッピングは機能できるんだろ。場所だけは把握しておいてくれ』

『……うん』

「はーい、じゃあちょっと待っててね」


 魔人は立ち上がると、瓦礫の山からひとっ飛びで下りてきた。

 距離にして数メートル。

 こっちは丸腰だというのにこの距離は……

 ところが魔人はクルリと背中を向けると、正面に手を伸ばした。

 そして例の黒い塊を発生させたかと思うと、瓦礫の山を吸い込み始めた。

 周囲の空気も流れ込んでいくのが感じられる。

 なのに身体は微動だにしない。

 前回同様、着ている服が引っ張られる感覚だけがある。

 時子も似たような感じらしい。

 服が引っ張られているだけで、身体はおろか髪の1本すら吸い込まれちゃいない。

 精々風で髪が少し揺れる程度。

 どうなっているんだ。

 対照的にエイルは脚を踏ん張って吸い込まれないようにしている感じだ。

 短い髪が踊り狂っている。

 ヤバいな。

 エイルを抱きかかえて、吸い込まれないようにしないと。

 おおっ、これは……結構な力で吸い込まれているじゃないか。

 引き寄せられる……


「ああごめん。少し強かったかな。でも大丈夫。もう終わったから」


 そう言うと黒い塊が消え、エイルも引っ張られなくなった。

 そして瓦礫の山は綺麗に無くなっていた。


「さ、こっちだよ。ついておいで」


 更地になった場所に歩いて行く。

 特になにかがあるように見えない。

 エイルが平然と魔人の後についていくので、もう後を追うしかない。


「ここを降りてくれ」


 なにか建物があった跡地だろう。

 その床に下へ降りる階段があった。

 魔人は少し離れたところに立ち、降りていくように促している。

 エイルは足を止めることなく、降りていった。

 そしてそれに続いて降りようとしたら、[サイドステップ]が発動した。


「チッ、勘のいいやつだ」

「なにしやがる」

「〝なにしやがる〟? おかしなことを言う。お前を殺そうとしただけだ」

「くっ、やっぱり罠か」


 エイルが降りていった階段の入り口が音を立てて閉まった。

 くっ、これじゃタイムを行かせることも出来やしない。

 黒埜くろのを抜いて身構える。

 ……襲ってこない?

 黒い塊から瓦礫を1つ取り出すと、椅子代わりに腰掛けた。


「ふう。勘違いするな。この先にデニスさんが居るのは本当だ。感動の親子の再会を邪魔するなんて、無粋だろ。俺たちはここで遊んでいればいいのさ」

「お前と遊んでいる暇なんか無い!」

「寂しいこと言うなよ。エイルちゃんに名前を忘れられた悲しいおじさんと遊んでくれても罰は当たらないだろ」

「お前は誰なんだ!」

「エイルちゃんに聞いてくれ」

「覚えていないんだろ」

「それを言うなよー。マジで凹むわー」


 自分でそう言ったばかりだろうが。

 しかし、さっきの不意打ち以降、なにもしてこない。

 むしろ隙だらけにも見える。

 エイルに忘れられていたことは、本当にショックなようだ。

 だからといって警戒を緩められないけど。


「目的はなんなんだ」

「……はぁ、さっき言っただろ。もうボケたのか」

「エイルとお父さんを会わせるため……とか言うなよ」

「他に目的なんかぇよ。だからこの先は俺の欲求を満たす為だけの行動だ」

「お前の欲求?」

「ああ。俺たちから見たら、人間は美味そうな飯くらいにしか見えなくなる。だから殺して食う」

「ならなんでエイルは殺さなかったんだ」

「めっちゃ我慢したぜー。過去一我慢したぜー。お前たちが居なかったら我慢しきれなかったかもなー。だから感謝してるんだぜー」

「どういう意味だ」

「お前ら……凄くマズそうなんだよ。食ったら腹壊しそうな勢いでな」


 失礼なヤツだな。


「ほら、こいつもお前らは不味くて食えねぇって言ってやがる」


 例の黒い塊を出して見つめ、1人ウンウンと頷いて納得している。

 黒埜くろのを避けたり俺たちの身体が吸い込まれなかったことも関係しているのか?


「その辺に転がってる瓦礫より不味いって、お前ら終わってるぞ」


 それはそれでどういう味覚しているんだよ。


「特にお前らの武器と小っこいの! 不味いとか腹を壊すとか、そういう単純なレベルじゃねぇ。糞だ糞! 糞はどう料理しても糞だっと……不意打ちは卑怯じゃないか。話はまだ終わってなかったんだが」


 気付いたら黒埜くろので斬りかかっていた。

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