第29話 鶴の一声

 しかし人捜しというか、観光というか、これは完全にただの散歩だ。

 決して2人のデートに付き合わされたお友達じゃないぞ。

 相変わらず村人は脅えて逃げる一方。

 石を投げつけられないだけでもありがたいと思えるレベルだ。

 俺たち、そんなに怖く見えるのかな。

 見た目はそんなに変わらないと思うんだけど。

 エイルから見た俺は普通の人間だけど、機械から見ると鉱石だった。

 それと同じようなことなのかな。

 村人からは人に見えないのかも。


はじめさん」

「はい、なんでしょう?」

「俺たちって、人間に見えますか?」

「モナカくん?! なにを聞いているの」

「エイルから見た俺は人間じゃなくて鉱石なんだろ。それと同じようなことで村人が脅えているのかなってさ」

「それは……」

「鉱石?」

「エイルの使っているセンサーで計測すると、俺は人間じゃなくて鉱石と同じなんだそうです」

「どういうことですか?」

「どうもこうも、そういうものだと理解してください」

「はぁ……」


 その気持ち、分かります。

 俺も最初は理解できませんでしたから。


「とにかくはじめさんから見て、俺たちはなにに見えますか?」

「人間ですよ」

「本当に?」

「ええ、見た目は……ですが」

「見た目……ですか」

「はい。でなければ船を降りてきたときに心琴みことちゃんが――」

「俺がビビって手ぇ出さなかったとでも言いてぇのか、あ?」

「そんなつもりじゃ……」

「そう言ってんのと同じだっつってんだよ! おい、お前!」

「え、俺?」

「エモノはなんだ。剣か? 銃か? それとも魔法か? あ?」

「え……」

「白黒決着を付けようじゃねぇか」


 そう言うと、何処から取り出したのか剣の柄を握っていた。

 柄だけ? 腰の剣は使わないの??

 そう思った次の瞬間、赤く燃えたぎった炎の刃が現れた。

 魔法剣?!

 勢いよく片手で振るうと、火の粉が散った。

 そして俺に差し向ける。


「ほら、さっさと構えろよ」

「いやいや、知っていると思うけど、今武器は持っていないぞ。だから無理だって」

「ならこれを貸してやる。ほれっ」


 いや、ほれって投げられても困るって!

 燃えたぎった炎の剣が俺に向かって飛んできた。

 あっぶな!

 ギリギリでかわせたぞ。


サムライタイム、大丈夫だから刀を納めて大人しくしていろ』


 ただでさえタイムの説明が面倒くさかったのに、サムライ2人目に出てこられたら余計ややこしくなる。


殿マスター、この無礼者の相手をさせていただきたく存じるのでありんす。殿マスターがお相手なさるまでも無いのでありんす』

『いいから我慢しろ。大体お前が相手したら誰も勝てないだろうが。殺す気か。タイムだって我慢しているんだぞ。それに多分……』


 落ちた炎の剣を拾うと、元の柄に戻った。

 やっぱりか……


「どうした。さっさと構えろ!」


 あ、予備を持っているのね。

 再び取り出した炎の剣を俺に突きつけてくる。


「どうもこうも、見てのとおりさ。俺は武器が使えないんだ」


 ということにしておこう。


「ふざけんなっ!」

「ふざけてないさ。本当に使えないんだ」


 この世界の武器はね。


「手の内は見せねぇってか」

「そういうんじゃないよ。そうだろ、エイル。俺はお前が持っていた武器も使うことが出来ない。間違いないな」

「……ええ。間違いないわ」

はじめさん、持ち物検査でも武器は一切出てきていませんよね」

「はい、何一つ持っていませんでした」

「使えないから持っていない。そういうことなんです」

「嘘だ!」

「本当です」

「なら、貴様のそれはなんなんだ!」

「〝それ〟?」

「とぼけるなっ!」

「とぼけてなんか……なんのことを言っているんですか?」


 まさかタイムのことがバレたのか。

 ただのナビA.I.ということにはなっているけど。


「くそっ、俺は……ビビってなんか……くそっくそっくそっ!」


 なにをそんなにイラ立っているんだ?

 心琴みことさんにはなにが見えているんだろう。

 いや、もしかしたらここの人にしか見えないものなのか?

 だから恐れられている。

 そう考えるとはじめさんの〝見た目は〟というのにも納得がいく。

 俺たちには見えないなにか……

 抑える方法も隠す方法も分からない。

 ダダ漏れ……か。

 ここに居る限り何処に行ってもすぐバレそうだ。


「だったら素手で勝負だ!」


 なんでそうなる!


「うおおおおおお!」


 剣を投げ捨て、拳を振り上げて殴りかかってきた。

 いや、マジで勘弁してください!

 格闘用のアプリなんて1つも入れてないんだからさー。

 素人が敵うわけないでしょ。

 とにかく避けまくって逃げるしかないっ。


武闘派タイム、出てくるなよ』

『……』

『返事は!』

『……分かった』

「てめぇ、逃げるな! 戦えぇぇぇぇぇ!」

めてください」


 ひぃ! この人、剣技だけでなく格闘技もできるのか?!

 まともに組み合ったら勝てる気がしない。

 パンチもキックも鋭すぎる。

 小鬼ゴブリンなんて目じゃないぞ。

 早さだけなら魔獣オオカミの方が上かも知れないけど、連撃が鋭すぎる。

 魔獣オオカミは単発ばかりだったからな。


心琴みことちゃん、ダメだよ」

「るせーっ! 畜生、なんで当たんねぇんだ!」


 いやいや、当たっていますよ。

 右手で何度ガードさせられたことか。

 一発一発が重い。

 そして痛い!


「減俸1ヶ月!」


 そうはじめさんが叫ぶと、ピタリと動きを止めてしまった。

 そして……


「すまなかった。俺の……いえ、私の完敗だ」


 ええぇぇぇ?!

 俺、なにもしてないのに完敗とか……どういうことだ?

 しかも決め手が〝減俸1ヶ月〟って……


「あなた、強いわね」


 って、言葉遣いまで変わっているし。

 なにこの豹変。


「まさか最後までその手を離さないとは思わなかったわ」


 ああ、そういえば手を繋いだままだったな。


「せめてその手を離させたかったのですが……」


 それで後半は時子も狙っていたのか。


「浅はかでした。ごめんなさい。村長むらおさの言うとおりだったわ」

村長むらおさの?」

「ええ。あなたたちを見習えと。そうすれば足りないものが分かるだろうって」

「足りないもの……」

「それがなんなのか、私にはまだ分からない。でも2人の呼吸はピッタリだった。長年連れ添わなければ得られないなにかを感じたわ」


 いえ、まだ半年すら経っていません。

 そう感じたのなら、きっと時子のお陰だろう。


「改めて後日手合わせを頼みたい。いいだろうか」

「いえいえ、防戦一方で全く手が出ませんでした。俺たちに勝ち目なんてありません」

「そんなことはありません。あなたが本気を出せば私程度では手も足も出ません」

「買いかぶりすぎです」


 変なことになっちまったな。

 とりあえず、格闘用のアプリでもインストールしておくか。


「もー。そんな取り繕っても変更は無いからね」

「取り繕ってなんか……って、勘弁してくれよ!」

「できません」

「っちゃー」

「まったく。そろそろお昼ですね。一旦戻りましょうか」

「はい」

「あー運動したから腹減った! さっさとけぇるぞ」


 あ、もう元に戻っている。

 どっちが本当なんだ。

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