第141話 名を世界に刻みつける
「ちょっと待ってるのよ」
「待ってろって、何処に行くんだ?」
「通れるようにしてくるのよ」
「通れるように?」
エイルが1人で外に出る。
通れるようにするって、一体なにをするつもりなんだ?
新しいゲートでも作る……なんてことはないか。
そんなものを持ってきたような感じはしないからな。
モニターに映し出されているエイルに注目する。
するといつもの
まさかあれで結界に穴を開けるとか言わないよな。
そんな威力の高い武器じゃないぞ。
挿している
よく見えなかったけど、新型の
普通のヤツじゃ結界に対して影響が出るとは思えないからな。
それを結界に向かって構える。
そこから結界までだと100メートルくらいある?
そんなに射程長かったっけ。
ん? 構えたまま動かないぞ。
どうした。
お、
大丈夫か。
段々激しくなってきているじゃないか。
『エイル!』
『話しかけないのよ。気が散るのよ』
いやいやいや。
気が散るってなんだよ。
魔力を注げば誰でも使えるのが
放射光まで出てますます酷くなっているぞ。
漫画とかだと爆発する前兆じゃないか。
本当に大丈夫なんだろうな。
『マスター、信じて待とうよ』
『タイムはあれがなんなのか分かるのか?』
『1年、ずっとやってたからね。試験には間に合わなかったけど。でも最後のパーツを貰ったから試してるの』
『貰った? 誰に』
『それは内緒だよ』
『試すってことは、ぶっつけ本番なのか?』
『だって失敗したら辺り一帯が吹き飛ぶから……あ!』
『〝あ!〟じゃねーよ! そんな物騒なことを試しているのかっ』
『だ、大丈夫だよ。計算ではこの船のシールドなら無傷だから』
『船の心配なんかしてねーよっ! エイルっ!
『うるさい……のよ。細かいことを気にする男のよ……モテないのよ』
『細かくないぞ! エイルーっ!』
階段を駆け上がり、扉を開いて船外に出ようとした。
「ナームコ、そこをどけ」
扉の前にはナームコが待ち構えていた。
「ここをお通しすることはできかねるのでございます」
「いいからどけっ」
「この中に居る限り、兄様は安全なのでございます」
「エイルはどうでもいいっていうのかっ」
「比べるのもおこがましいほど兄様は高貴なお方なのでございます」
くっ、こいつがそれを言うと、俺がなにを言っても無駄だ。
そもそも俺は一度死んだ身。
つまり二度目の人生。
それに対してエイルは一度目の人生を謳歌している真っ最中。
むしろ俺の方が軽いんだぞ。
人生一度きりだから全力で生きているんだ。
二度目なんて……そうか。
エイルは今まさにそういうことなんだよな。
だったら止めるんじゃなくて。
「もう一度言う。そこをどけ」
「お断り……兄様。わたくしのために――」
ナームコはその先を言わず、突っ込み待ちをしているかのように横目でチラッと俺を見ている。
……が、俺はただジッと見つめるだけだった。
いつものようにふざけている場合ではない。
「……左様でございますか。お気を付けるのでございます」
「行ってくる。俺が出たらちゃんと閉めろよ」
「存じたのでございます」
ナームコが扉を開け、外に出る。
タラップを降りると、俺の言いつけが守られて扉が閉まった。
ゆっくりと歩いてエイルに近づいていく。
気づきもしない。
余裕なさ過ぎだろ。
そしてなにも言わずに背後に立ち、背中に手を当てる。
「! モナカ、船に戻るのよ」
「あれ、よく俺だって分かったな」
「こんなことするのはモナカしかいないのよ」
「無駄口叩いていないで、集中しろ」
「うるさいのよ……バカ」
「バカはお互い様だ」
「時子と鈴ちゃんはどうするつもりなのよ」
「どうもしないさ。2人で生きて戻るんだからな」
「……当たり前でしょ」
「ほら、その暴れ馬をさっさと制御しろ。大丈夫、俺が付いている」
「余計不安だわ」
「はっ、言ってろ。無駄口叩く余裕があるのか!」
「ふふっ、私を誰だと思ってるの」
「命の恩人様だろ。だから俺を殺すなよ」
「生殺与奪権は私にあるんだから」
「おいおい」
「だからあなたには〝生〟を与えてあげるわ」
「っはは。嬉しいねぇ」
さっきまで眩しいほどに輝いていた放射光が淡い光りに変わっていく。
放魔現象も次第に落ち着いてきた。
馬鹿話をして肩の力が抜けたってか。
魔力的なことはよく分からないが、無駄に放出していた力が
光の粒が集まってきているように見えなくもない。
魔力を感じられないのがもどかしい。
「どうなんだ?」
「だから言ったでしょ。私を誰だと思ってるの。世界よ、その名をここに刻みつけてやる! 私は科学魔具開発室主任――」
轟音と共に放たれたその一撃は、今までのどの一撃よりも高速で紫色の輝きを振りまきながら飛翔した。
そして結界に当たると吸い込まれるように消滅した。
……なにも起こらない?
「エイル」
「黙って見てなさい」
消滅したかに見えた一撃は、その一点から回りに伝播するように広がっていき、周囲とは明らかに色が変わっていった。
「船に戻りましょう」
「戻るって、通れるようになったのか?」
「当たり前でしょ」
「当たり前でしょって……あ、待てよ」
エイルはそのまま船へと歩き出した。
その後を追うように俺も歩き出す。
通れるようになったと言うが、色が変わっただけで穴が開いたようには見えない。
エイルは一度も振り返ることなく、船へと戻ってしまった。
通れると言うんだから、信じるしかない。
魔法のことなんて分からないからな。
でもひとつだけ聞いておきたいことがある。
「なあエイル、さっきなんて言ったんだ?」
「なんてって?」
「いや、科学なんとか室がどうのみたいなこと言ってなかったか」
「……言ってないのよ」
「いや、言ってただろ」
「忘れるのよ」
「忘れろって……」
なんだ、厨二的ななにかを言ってしまったとかか?
そもそも科学ってここだと物語の中の存在だ。
そんな脳内設定が溢れてしまうほど、感極まったってか。
可愛いところがあるじゃないか。
「うう、なんか寒気がしたのよ」
「病み上がりなんだろ。無理するな」
「してないのよ」
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