第87話 出生の秘密
そんなことより。
「なんで貴方が命令できるのよ」
「船員なんだから、当たり前だ」
「そうじゃなくて、いや、それもそうなんだけど、そういう意味じゃなくて、どうして言葉が通じてるのってこと!」
「言語翻訳は、この船の機能の一部だ」
「言語翻訳?!」
そんなこと、書いてあったかしら。
身分証に送られてきたマニュアルには、この乗り物の操作方法や整備方法が載っているだけ。
目次にもそれらしきものは無い。
更に言うと、鈴ちゃんに関することもなにも無い。
ただ1行、〝詳しくは生体ユニットにお聞き下さい〟とだけ書いてあった。
生体ユニット……鈴ちゃんのことよね。
「それとな、そいつに名なんてものは無い。あるのは製造番号だけだ。〝スズ〟っていうのは研究員が勝手にそう呼んでいただけらしい。日誌らしきものにそう書いてある」
「日誌……貴方、読めるの?」
「わたくしに読めるわけがないだろ。生体ユニットに読ませただけだ」
「読ませた……」
日誌というよりは、観察日記だろうか。
製造番号11260号についての、つまり鈴ちゃんに関しての日記だ。
過去にも成功例はあったようだが、身体が耐えきれず、1年を待たずに死んでいる子が殆どらしい。
そんな中でも、比較的すくすくと育ったのが、この11260号だ。
この男が鈴ちゃんの父親、つまり精子提供者のようね。
たまたま魔力が通常より高かったらしい。
そして母親は検体の中から比較的魔力の高い者の卵子を選んだとある。
検体……つまり今の鈴ちゃん同様この中に入り、廃人になっているのだろう。
詳細は書かれていない。
2人の生殖細胞を掛け合わせた上で遺伝子操作を行う。
そしてある程度卵割が進んだらひとつひとつ分けて、更に遺伝子操作をする。
その中でも無事
そうして成長しても、魔力が規定値に達していないと廃棄される。
規定値に達していても、大きくなるにつれて細胞が魔力に耐えきれず、自己崩壊してしまう。
その中でも生き残った者にだけ、番号が振られる。
番号が与えられただけでもエリートだという。
そんな中のひとつが11260号、鈴ちゃんだ。
とりわけ魔力が高いにもかかわらず、身体の崩壊が起こらない。
試験管から人工子宮に移した後も、すくすくと育っていった。
番号を貰っても、生まれてこられる者もまた少なく、大半は流産するという。
当時の技術力を持ってしても、扱い切れていなかったということだろうか。
当然鈴ちゃんは無事に生まれてきた。
同じ受精卵から派生した兄妹は、全滅らしい。
新しく採取した男の精子と、保管されていた女の卵子を授精させ、鈴ちゃんと同じ遺伝子操作を施したが、1度も成功しなかったとも記されている。
そんな鈴ちゃんはロボットの両親と供に暮らしながら、英才教育を受けることになる。
無事に生まれてきた子たちも同様の環境で育てられたが、途中で身体が崩壊するか、精神に異常を
そんな中、綱渡りではあるが1年、また1年と成長した。
そして5年生き延びた個体は、鈴ちゃんが初めてとある。
5年……鈴ちゃんは5歳なのね。
それにしては少し背が低い気もする。
遺伝子操作の弊害かしら。
でも、パパとママがロボットなら、名前が分からなくても仕方がない。
必要も無いわ。
でも、この日記を見る限り、かなり感情移入してるみたいね。
やはり自分の遺伝子が入ってるからかしら。
そんな中、世界は2つに分かれた。
そしてここと入れ替わってしまった。
自分の娘のように可愛がっていたこの子を、どうしても助けたかったということか。
……? 変ね。
鈴ちゃんはロボットの両親に育てられたのよね。
ならあの受け答えはおかしい。
パパはテレビを見るのが仕事?
ママは分かんない?
どういう意味だろう。
もしかして、この研究員がパパだって理解してた?
それなら辻褄が合う。
自分の境遇を理解しているのかも知れない。
あ、少し擦れてるけど、研究員の名前が書いてある。
ということは、
なんて、悠長に読んでる場合じゃない。
「鈴ちゃんを今すぐ出して! 魔力が欲しいなら代わりに私が入るわっ」
「止めておけ。お前には無理だ」
「なんでよっ。私の方が魔力が高いわ」
「魔力の性質が違うんだ。お前の魔力はエネルギーになり得ない。仮になったとしよう。体調が万全であったとしても、スズの足下にも及ばないぞ」
「嘘……そんな風に感じられなかったわ」
「言っただろう。性質が違うと。この世界の魔力基準なら、スズは無いに等しいだろう。だが、この船の基準では、お前は一般人以下だ」
魔力の性質?!
そんなの、考えたこともなかった。
そんな違いを、感じることもなかった。
感じられるほど、前世で魔力に触れ合ってなかったとも言える。
「そもそもお前はこの船の制御方法を知らないだろ。スズでなければ、この船は動かせない」
「それとこれとは話が別よ。とにかく、鈴ちゃんを出して」
「いいのか? この船が動かなくなるぞ。お父様を探しに行けなくなるぞ」
「フブキに頑張ってもらうわ」
元々はバイクで行く予定だった。
でもモナカくんが現れて、予定が変わった。
「酷なことを言う。何年かかるか分からなくなるぞ。その間、お母様を待たせるのか?」
「それは……」
「この子はこのために作られたんだ。お前が気にする必要は無い」
「気にするわよ。こんな小さな子を犠牲にしてまで探しに行けないわ」
「人の形をしているだけの、制御機械だ。わたくしのゴーレムとなんら変わらんぞ」
「全然違うわよ!」
「とにかく、家に着くまでは出すことはできない。その後は、お前が決めろ。言っておくが、子供だからと馬鹿にするんじゃないぞ」
「物扱いしてる人に言われたくないわ」
家に着くまで?
それは無理よ。
都市間は結界で区切られてるの。
唯一行き来できるのが、環状列車なのよ。
それ以外だと、結界を無理矢理通ることになる。
そうした者の末路は、いつだって悲劇的だ。
……まさか、そうするつもり?!
そもそもそれができるものなの?
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