第14話 ドワーフの里へ

 勇者パーティーに所属するノルドは戦士である。

 彼らの大切な者を脅かす魔王は世界を滅さんがために存在する悪の存在である。

 勇者パーティーは世界の平和のために魔王と戦うのだ!


「うああああ手が千切れるうぅうう!!?」

「もっとだ! もっと回転力を上げるんだ!!」

「凄いぞ! 予想していた腕力を遥かに超えている!!」

「俺はいつまで回り続ければいいんだああああ!!?」

「お前の限界を知るまでだ!!」


 怪しい実験を受け、ノルドは彼らによって苦痛を受けていた。

 ノルドでさえも重いと思える程の棍棒を手に固定され、これまた怪しげな絡繰からくり仕掛けの装置に取り付けられて、その装置が回転する。当然その装置に括り付けられていたノルドはその場でグルグルと回転し、目を回していく。

 更には手に固定された棍棒は遠心力によって浮き、腕が千切れる程の重力を生み出し、拷問もかくやと思える程の光景だ。


 一体何故こうなってしまったのか。


 ノルドの回想はまだまだ続く……。



 ◇



 聖術についてノンナから教わり、そこからノルドのマナ制御の訓練が始まった。

 それから数日が経った頃ノルドは……。


「ふんぬううぅうぅうう……!!」

「便秘で苦しんでおる女子おなごかお主は!? 力むだけでそう簡単にマナを制御出来る筈もなかろう!!」


 そう、未だにマナの制御が出来なかった。

 力んで中腰になっているノルドにノンナが怒鳴る。

 体内のマナを知覚するにはリラックス出来る姿勢で内の眠るマナに集中しなければならないのだが、さっきから、いや数日も前からノルドは力むような姿勢でやっていたのだ。


「も、もう少しなんだ……! もう少しで動く……!!」

「マナじゃよな!? 腹の中に溜まってるアレじゃないよな!?」

「貴女もうちょっとツッコミの内容を変えた方がいいんじゃないかしら?」


 もう少しで体内のマナが動くと言ってもう数日も経っている。

 それに本人的にはその方がやりやすいと思っているため、いくらノンナが注意をしても目を離した隙にすぐにその体勢になっていた。


「楽な姿勢でやれって言うとるのに!!」

「でもなぁ……静かな状況だとサラの事思い浮かんでマナの事忘れるんだよなぁ……」

「頭の中桃色ばかりか貴様は!?」


 そう突っ込んだ瞬間、ノルドが首を傾げた。


「……? なんで桃色?」

「……え? いや、だって……」

「だって?」


 予想だにしない反応だ。

 普通なら焦って否定するか、開き直って肯定するか。

 サラの事が好きなノルドだったらそういう知識もあると思ったのだが、これは一体。


「……スゥー」


 ゆっくりと深呼吸をする。

 そしてとある考えに思い至り、冷や汗をかく。

 これは、マズいかもしれない。


「……いや、なんでもない」

「ねぇノンナちゃん、なんで桃色なの?」

「……」


 サラ、お前もか。といった感じでノンナが呆然とサラを見る。

 いやまだ確定したわけではない。

 まだ脳内桃色の意味が知らないだけで、普通に知識があるかもしれないと考えたノンナが試しに二人に質問を投げた。


「……話は変わるが、お主ら子供がどうやって生まれるか分かるか?」

「ぶーっ!?」


 この反応は二人ではなく、タイミング悪く水を飲んでいたノエルの反応だ。

 良かった。まともな知識を持つ人が少なくとも一人確定したとノンナは安心する。


「えーと……アレだよな?」

「うん、アレじゃない?」

『コウノトリが――』

「いや分かった何も言うんじゃない」


 この二人、色恋について知ってはいるものの性知識に関しては子供並かそれ以下だ。一体どう言う教育をしてきたのか、彼らの育ての親に会ったらぶん殴りたいと思ったノンナである。


「……例え知っててもノルドの口からそう言う話は聞きたくないかなぁ」


 ノエルが頭の中で下の話をするノルドを思い浮かべたのか嫌そうな顔をした。

 ノルドとサラは純粋であって欲しい。そう願うノエルである。


『?』


 周囲が何やら頭を抱えているが、当の本人達は首を傾げたままである。

 まぁ、王都観光の際に一緒の部屋で宿に泊まったのに何も起きないどころか照れも恥もない時点で推して知るべしだが。


「墓穴を掘ったわね耳年増さん」

「ヒヒン!」

「うっさいぞそこぉ!!」


 ノンナが顔を赤くしてキングとヴィエラを追いかけ回す。

 羞恥なのか怒りなのか分からないがそんなノンナから逃げながらヴィエラとキングはニヤニヤと顔に笑みを浮かべて煽っていった。



 ◇



「あ! あれがそうじゃないか?」

「……何も見えんぞ?」

「あっ洞窟っぽいところがあるよ!」

「お主ら何なんじゃ?」


 ノルドとサラの驚異的な視力に呆れながら暫く馬車を走らせると、遠目だが僅かに山の麓に洞窟らしき穴が見えた。

 恐らくあれが次の目的地であるドワーフの里へと続く洞窟だろう。


「ドワーフかぁ……ガランドのおっさん、どうしてるかなぁ」


 ノルドがかつて出会ったドワーフとは、ラックマーク王国でノルドの装備を用意してくれたガランドというラックマーク王国の鍛治師だ。

 これから行くドワーフの里は、そんなガランドのような種族がいるのかなとノルドは内心期待をする。


 ――しかし。


「……待って? 何か様子がおかしいよ?」


 何かに気付いたノエルがドワーフの里の入り口である洞窟に指を指す。

 一行はノエルの言う通りに目を細めて洞窟の入り口を観察すると、何やら中から逃げ惑うようにずんぐりむっくりな外見をした人達が出てきたのだ。


「……何やら穏やかじゃないわね」

「ちと、中の様子を調べよう……その場の様子を表にガラヤ・ガラガ・ソラ


 この聖術は知りたい地点を目視しながら唱える事で、その地点の様子を脳内で知る事が出来る聖術である。

 そんな聖術を使ったノンナの脳内に、前方の状況が脳内に映し出される。そしてその光景を見たノンナが顔を引き攣らせながら状況を説明した。


「魔獣災害じゃ……!!」

『え!?』

「あの洞窟の中で馬鹿でかい魔獣がドワーフ族を追いかけ回しておる!! あと数分で地上に出るぞ!!」


 その言葉を聞いた一同は武器を引き抜き、そのまま真っ直ぐとドワーフ族へと馬車を走らせる。彼らにドワーフ族を見捨てるつもりはない。

 彼らが勇者パーティーだから? いや、勇者パーティー以前に困っている人を見捨てるような性格の彼らではないからだ。


「行くよみんな!!」

『おう!』


 ノエルの号令に一同が声を揃えて叫ぶ。

 そして、その次の瞬間。


『――!!』


 地面を揺らし、地中から巨大なが現れる。

 体表がまるで鱗のように無数の土塊が生えており、顔は口のみ。

 口は円形で、無数の歯がその円形に沿って生えていた。


「……穿壊魔竜ドラゴンズワーム


 その魔獣について知っていた様子のノンナが険しい顔でそう呟いた。

 そんな中、サラが一同を代表してノンナに質問をする。


「……何それ」

「遥か昔、魔王が魔人を生み出す前に、獣に瘴気を与えて生み出したのが魔獣。当時の人々は魔獣の繁殖力に滅亡の危機に瀕したが、当時の勇者の力によって何とか魔獣を減らし、魔王を倒して世界を平和に導いたという」


 だが魔獣は生き残ってしまった。そして各地に散らばりその驚異的な繁殖力で数を増やし、世界に根付いてしまったのだ。

 魔獣とは災害そのもの。

 動物とは違い、その体に人に有益な物はなく、尚且つ人と明確に敵対しているため、見かけたら必ず討伐しなければならない存在だ。


「そんな魔獣の中で莫大な瘴気を取り込んだ存在の事を魔竜ドラゴンと呼ぶ」


 魔獣の中の魔獣と呼べる強大な存在。

 一匹だけで国一つを滅ぼせる魔王と並ぶ災害。


「その一種が、あの穿壊魔竜ドラゴンズワームなのじゃ……!!」

「……あいつ、何かこっちを見てねぇか?」

「どうやら私達に狙い定めたようね」

「サラ! あの魔竜ドラゴンは魔人と同様お主の奇跡に弱い筈じゃ! ワシらに奇跡付与を頼む!」

「分かった!! 『あなたに愛を』!!」


 サラの奇跡によって各々の武器に魔の者に対抗する力が付与される。

 一同はドワーフ族を救うため、そして世界に仇なす災害を倒すために戦いを始めた。



 ◇



「あれ!? 回想ここまで!? ってか流れ通りならここってドワーフの里なのか!?」

「何だ今頃気付いたのか! さては此奴に入れた睡眠薬の量を間違えたか!?」

「さっき見たら魔獣が気絶する量の奴を入れちまったようだ!」

「何じゃこいつ、やはり化け物か!?」

「いや待てよ!? 俺を殺す気か!?」


 ぎゃーぎゃーと言い争う彼ら。

 回想はまだ続く……。

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