第6話 はっ、張り切ってねーし





「べっ、べつに希海と一緒に学校に行けるから、張り切ってるとかじゃないからな!」


と言い訳がましく俺はつぶやく。



    ~10分前~



「お兄様、希海はまだ支度が終わっていないので少しだけ待っていていただいてもよろしいでしょうか?」


少し申し訳なさそうな表情を浮かばせながら俺に許しを請う希海。


当然俺の返事は決まっていて


「いくらでも待っといてやるから。そんなに急ぐなよ!」


と柄にもなく、希海を気遣って笑顔を送る。


すると、何かが予想外だったのか

うろたえたような声音で、返事を返してくる


「そっ、そうですか…

できるだけ早くすませますから。一人で行かないでくださいね!」



俺に念を押すような発言の後、すぐさまダイニングルームを飛び出す希海…


そんなに信用ないか?

約束したのに、先になんか行くわけないだろ。なんて少しショックを受けながら

バタバタと走り去る希海の足音を聞いていると、一つのことに気が付く

長閑と二人っきりだということに。


その状況が嫌だったからだろうか?

俺は気がついたら家の外に出ていた。



       ~現在~




希海は学校に行く準備をまだ済ませていなかったみたいで、かれこれ10分ぐらい庭で待たされている。


さっきはなんであんなに、急いで部屋を出てしまったのだろうと少し後悔してしまう。


長閑と二人きりの空間が嫌だったのは確かだ。しかし長閑の俺に対する罵倒はもう克服済みだ。(新たな欠点を見つけられなければ…)


ならばなぜだろうと記憶を思い返していると、一つの結論が頭に浮かぶ。

希海と学校に行くのが楽しみだったのか?

だから張り切って…

そんなこと考えていると急に自分が恥ずかしくなってしまい

自分自身に言い訳するように


「べっ、べつに希海と一緒に学校に行けるから、張り切ってるとかじゃないからな!」


なんて、言い訳がましくつぶやいてしまう。



いやでも本当に張り切ってるとかじゃないんだよ?

希海が出て行ったら、俺と長閑は二人っきりになってしまうから、

いくら克服したといっても、長閑の罵倒はやっぱり怖いから逃げただけだし…


姉である長閑と二人でいるとまた俺のメンタルはやられてしまうから、いち早く家を出ただけだし…

それだけのことだ…ホントだよ?





そんなこんなで十数分。


希海は一向に姿を見せない。何をしているのだろう?


少し不思議だがまあ、時間の余裕もあるし大丈夫だろう。


なんて楽観的に考えながら、たまには体でも動かそうかな。昔はスポーツもやってたし、なんて突然考えついた。


一緒に学校へ行くという約束もあるため、学校へ向かうという運動はできないので庭をぶらぶら

歩いていると中世ヨーロッパのお城さながらの風貌の邸宅に目を奪われる。


何度も見ているが慣れることができない。自分の家なのに…


「本当に大きな家だな。この国の首都である下平都、その中でも群を抜いての地価を誇る高級住宅街、通称【財閥家専用住宅地】なんて呼ばれている土地にこれだけ大きな邸宅を立てられるなんて、父さんが束ねる伊波財閥とはどれだけの権力を博しているのだろう?」



ふと疑問が浮かんだ。


俺は伊波家の養子だ、だから伊波財閥の詳しい事情については、何も説明されていない。


それどころか、養子として引き取られた理由でさえも、先日教えられたばかりだ

時間もあることだし。


俺が置かれている状況の整理を今一度しようと考えた。


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