第10章 灰色の帰り路
第10章 1
日が変わってから降り出した雨はまるで止む気配を見せず、垂れ込めた夜明け前の空をどんよりとけぶらせていた。
霧雨に包まれた‘月の
気遣わしげに眉を曇らせた少女が見つめる先には、繊細な幾何学模様で囲われた大きな張り出し窓と、その枠に優雅に腰を下ろす女主人──セレナの姿がある。モノクロームに近い光彩の中、鮮やかな紫のドレスと銀波の髪が発する光輝は、さながら美しい絵画の一片のように、わずかな
端然と上げられた真白い面の中、澄み切った
その
『……姫様』
一旦小さく息を吐いた私民の少女が、ゆっくり視線を巡らせる。
窓辺よりも一段と光の落ちた空間の中……その瞳が映したのは、黒一色の軍装に身を包んだ長身の影。
部屋の隅で佇んだまま深く俯くルスランの貌を、伺う事は出来ない。それでも、彼が纏う刃物のような気配は、少女の胸を塞ぐのに十分たる烈しさを秘めていた。
昨晩、‘
しかし、彼とセレナの間に決定的な亀裂を入れる‘何か’があった事は、幼いその心にも分かりすぎる程によく分かった。
こちらも彫像のように動かぬ男を逸れた眼差しは、純白の石が敷かれた床を流れ、そして同じく白い天井近くに設けられた小窓へと行き着く。そぼ降る雨に濡れながら重い灰色の中に沈んだ空は、まるで今の彼女の……否、ここにいる全員のやりきれぬ心の
雨はまだ、止む気配を見せない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます