第33話 ダンジョンにて新発見
ついにダンジョンである。
いやはや、ファンタジーといったらダンジョンでしょって感じなのに、今まで存在してるのかすら気にしてなかったね。
レベルとか経験値とかあれば意識したかもしれないけど、残念ながらそこまでゲームじみた異世界ではないのよね、ここ。
まあ、レベルとかあったら、私その地点で出会える魔物を余裕で倒せるようになるまで次に進まないタイプの人間だから、永遠にあの森から出なかった可能性あるけど。
ローグスさん曰く、ダンジョンというのは城の地下に広がる巨大な迷宮だったり、遺跡を守るための迷宮だったりするらしい。
今回見付けたのは、後者だろうと。
遺跡ごと山に飲み込まれちゃったんじゃないかって。
ダンジョンってだけでもテンション上がるのに、遺跡ときたらもう、楽しみすぎる!
オーパーツとかあるんだろうか。
うーん、楽しみ。
ダンジョンに行く前にモーキュのお店に寄って、役に立ちそうな魔道具をいくつか買ってみた。
いい魔石が採れたら買い取るという言葉に見送られながら、お店を出る。
「そのダンジョン固有の魔物なんかもいますよ、たぶん」
「おお、いいですねその特別な感じ」
ただダンジョン固有となると、もし食材になり得る魔物が見付かったとしても、安定供給はできないかもしれないってことだよね?
それは問題だなあ……プリオ亜種みたいに、なんとか養殖(?)できればいいんだけど。
いや、出会う前から捕獲量の心配してどうする。
「とりあえず、行くわよ! いざダンジョンの味見へ!」
「おー!」
元気よく返事をするホックと、ちょっと何言ってるか分からないですって顔してこっちを見るみんな。
い、いいじゃん! 味見だもん!
サビたちの案内でダンジョンの入り口まで向かう。
草木をかき分けて(たまに食べつつ)進むと、山肌にぽっかりと空いた穴が見えてくる。
人ひとりがようやく通れそうな穴だ。
といってもホックとかが通るのは大変だけど、私はみんなの中じゃ身体が小さい方だから余裕で通れる。
穴から中に入ると、意外にも広い空間が広がっていた。
洞窟的なのが続いているのかと思ったら、綺麗にカットされた石が敷き詰められた立派な通路だ。
その一部分に穴が空いているわけだけど。
「ちゃんとした入り口じゃないんだね」
「本当の入り口がどこにあるのかも分からなかったからな。とりあえず掘った」
「いいね!」
うんうん、力技でゴリ押すところとかちょっと私に似てきたかもしれない。
無理やりやってどうにかなるなら近道が一番だよね。
左右を見ると、片方は真っ直ぐ続いてて、片方は少し進むと右に曲がれるみたいだった。
おお、これはマッピング欲が掻き立てられる!
私は空けた穴の周辺に散らばった土砂を床に薄く伸ばし、そこに指で魔法陣を描いた。
その上に手帳からちぎった紙を数枚置いて、一枚の大きな紙にする。
「な、なにその乱暴な魔法陣……ななななんでそれでちゃんと発動するの……」
「コーリリアもやってみたら? 意外とできるよ」
「ででできないよっ!」
完成した大きな紙に、マッピングをしていくことにする。
なんだけど、どの辺の位置から描き始めたらいいんだろう。
悩んでいると、ローグスさんが紙の右下辺りを指差した。
「この辺りから始めるといいと思いますよ」
「おお、ありがとうございます」
私は買ったばかりのペンを片手に、紙にマッピングしながら進んで行く。
レベリングの話からお察しかもしれないけど、私は完全にその階層をマッピングしてから先に進みたいタイプなので、行き止まりがあると嬉しくなる。
むしろ行き止まりがなくてどんどん進めちゃうと、道を間違えたかなあと不安になるタイプである。
魔物はといえば、コウモリみたいなやつが何匹も出てくるだけであんまり美味しくない。
可食部が少ない上に筋張っていて、食材にはできないのだ。
またしても目がいっぱいあったから、目玉が増えたら嫌だなと思ったけど、そういう特殊な効果はないようだった。
二階に進む階段を見付けたけど、まだ一階を全部回ってないのでスルーする。
歩けるところは全部歩いた結果、どうにも隠し部屋がありそうな気配がした。
このダンジョンは全体が綺麗な正方形を描いているようなのだけど、その一角に空白の正方形が浮かび上がったのだ。
まあ、本当に何もないのかもしれないけど、ローグスさんは空洞があるって言ってるし。
リオンが任せてと言わんばかりに先頭に立ち、何もない壁に向かって手を翳した。
「点と点を結び、表と裏を繋ぎ、此の手に入口を、此の手に出口を、風抜ける回廊、光射す庭、遮るものはなく、妨げるものなし。開門!」
見る間に立派な門が構築される。
周囲と同じ素材の、意匠の見事な門が。
ゴーレムでぶち破ればいいかなとか考えていた私を殴ってくれ。
「すごいすごい! さーて、隠し部屋の中には何があるかな〜……って、わお」
門から中を覗き込んだ私の目に飛び込んできたのは、大量の魔物たちだった。
種族もさまざま、おびただしい数の目がこちらを見る。
モ、モンスターハウスってやつかぁ!?
「食材大量! 大事に倒しましょー!」
言うまでもなく、みんな行動に移っていた。
私とコーリリアは門の方に下がり、覚えたての空中転写で結界を張った。
役立たずは役立たずらしく、自分の身だけは守らないとね。
まさか大量の魔物がいるとは思わず、罠を張ったりもできなかった。
もし二階にも似たような隠し部屋があったら、門を作ってもらう前に罠を張ろう。
それにしても、開けた門はすぐに閉じれるのだろうか。
もしできるなら、中を確認して宝箱とか財宝とか遺物とか大事そうなものがなかったらすぐ閉じて、適度な温度で燃やし尽くしたら楽だよね。
自動的に蒸し焼きになっていい感じがする。
なんてことを考えていると、もう既に生き残っている魔物は少なくなっていた。
リオンは詠唱の隙を狙われないように上手いことホックの陰に隠れて戦っている。
ホックは文句を言いながらも、リオンに向かって行きそうになる魔物を優先的に倒しているようだった。
何だかんだでいいコンビじゃん。
サビとセリもお互いの背中を守るように魔物たちを斬り伏せていた。
無駄な動き(私にはどこが無駄なのかちっとも分からない)をする度にローグスさんの
そんなローグスさんはといえば、相手の方を見もせずに拳でぶん殴っては撃沈させている。
どうなってんだ、あの拳。
結界を張りはしたものの、私たちの方に魔物が向かってくることもなく、戦闘は終了した。
私はいつものように焼くための魔法陣を描き、その間ほかのみんなは血抜きと解体だ。
たまに、正しい手順で解体しないと腐ってしまう魔物とか、そういう難しいやつがいる。
でもその手のやつは刃を入れるポイントに魔力が固まる性質があるらしくて、魔力の具合を見ながら解体すれば問題ないんだそうだ。
ローグスさんって、ほんとに何でも知ってるな。
「あなたのおじいさまはね、それはもう好き勝手にするんですよ。それで何かある度にどうにかするのは我々でした。この手の知識は、大体がフィヴィリュハサードゥの尻拭いで得たものですね」
「おじいちゃんが大変ご迷惑をおかけしました」
「巡り巡ってまた役立てていますからね、いいんですよ」
解体されたそばから私が焼き、コーリリアが一口大に切って私の口に放り込む。
もぐもぐ食べながら感想を呟くと、その音声を拾ってペンが手帳に自動でメモしてくれるのだ。
たまに知らない単語(前世で使ってた固有名詞とか)が出てくると止まっちゃうけど、一回書き方を教えてあげると、二回目からは学習して書けるようになっている。
どういう原理なのかさっぱり分からないけど、便利すぎるでしょ、モーキュは天才だ。
所有者登録した私にしか使えないけど、私の魔力を勝手に吸い取ってインクに変換してくれるお陰でインク切れの心配もない。
すごすぎるー。
魔道具師は寿命の長い種族が多いらしいから、きっと高い技術力を必要とされるんだろうな。
それにしても、三十種類くらいの魔物を食べたのに、全然当たりがこない。
どうやって増やしたらいいか分からない魔物に当たりがこないことを喜ぶべきなのか……。
でもこんなに頑張ったのに一つも成果がないというのも悲しい。
残り少なくなったまだ食べていない肉の山を、期待の眼差しで見つめた。
透明なジェルっぽいものに包まれた、薄い黄色の肝。
軽く火を通したそれを食べた瞬間、私は立ち上がった。
これは!
め、め、明太マヨ!
嘘だろ、これ一個で明太マヨ!?
私は慌ててカバンから
まごうことなき、明太マヨ……。
トリキの明太マヨはむね肉だからちょっと違うんだけど、ささみ明太マヨも好きなのよね。
サビがそわそわとこっちを見ていたから、一口食べた残りをあげた。
ホックが何か言いたげにこっちを見たけど、気にしない。
散々一つの料理をみんなで食べてるじゃないか!
「これは、ささみわさび焼きとは違う刺激だな。まろやかだが、後からじわりと辛みが出てくる。俺はささみわさび焼きの方が好きだが、こっちも美味いな」
「ささみ明太マヨだよ。ローグスさん、これって何の肝ですか?」
「それは確か……マルボログスの肝ですね。覚えていますか? でっぷりとした小型の魔物で、頭皮が捻れて伸びたような短いツノを持っています」
「あー、はい。見ました。あれってここにしかいないってことはないですよね?」
「ええ、マルボログスは割と色々なところで遭遇した記憶があります」
「よっしゃー!」
明太マヨなら米を見付けた時におにぎりにもできるし、焼き鳥以外にも使い道がある。
メインの肉や野菜ではないけど、嬉しい発見だ。
残っていた肉たちも喜びの勢いのまま食べ尽くしたけど、結局その肝だけしか新発見はなかった。
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