第66話 異世界でお馴染みのアレ④
ささやかながら心配したことが功を奏したのか、なんだかスーちゃんが寄ってきた。
これはもしや触ってみてもいいやつでは?と思ってそっと撫でてみると、嫌がられなかった。少しひんやりとして、気持ちの良い感触。あれだ、ウォーターベッド的な。癒される。
「ポーション飲む?」
スーちゃんの前に味なしのポーションを出して、見せる。
すると、スーちゃんはもごもごと動き出して、ポーションを瓶ごと中に取り込んだ。
瓶も?瓶ごといけるんだ?雑食ってすごい。
ポーションの瓶はしばらくスーちゃんの体内を漂い、やがてすべて溶けるように吸収された。
スーちゃんはとても震えている。
「おいしかったってー」
「うれしいって!」
「またちょうだいっていってるよ」
「そっか、良かった」
正直なところ、反応の違いがまったくわからない。
スーちゃんは、今度は大きく震え出した。
……あれ?体内に何か丸いものが増えてる……と思ったら、それをすごい勢いでペッと吐き出した。
吐いた……というか吐き捨てたけど、えっ大丈夫?
「あれ……これ魔石?」
拾ってみると、スーちゃんの体から出て来たのは魔石のように見える。
青い色をした魔石は、スーちゃんの体内に残る魔石と同じ形に見える。色も同じように見えるけど、それに関してはスーちゃんの体自体が青だから、正確にはわからない。
鑑定をすると、『スライムの魔石』とだけ書いてある。
「それあげるってー」
「お礼!」
「ありがとう、スーちゃん」
ぷるぷるぷる、とスーちゃんは震えて、今度は庭の雑草を食べはじめた。
スライムが魔石を吐き出すなんて、聞いたことがないな。というかスライムの魔石自体、はじめて見たしはじめて聞いた。
ちなみにムーちゃんもスライムで、何と庭にはスライムが四体いた。いつの間に。
最初はスーちゃん一体だったらしいけど、分裂して増えたらしい。
精霊さんが、スーちゃん、ラーちゃん、イーちゃん、ムーちゃんと名前を付けて、可愛がっているようだ。なんてわかりやすい名前なんだろう。
そしてスーちゃん以外の三体からも、ポーションをあげたら魔石を貰った。これも、どれも同じ形に見える。
スーちゃんが分裂して増えているのに何故か四体とも色が違うし、そのわりに魔石は統一で青色だし、謎の多い生き物だなあ。
その後も、庭にポーションを撒く精霊さんのお手伝いを続けた。
じわじわと広がっていく庭は、最早家の方が庭の付属物では?と思うほど。
スライムたちにあげるのもそうだけど、広い庭にいっぱい撒いたお陰で、在庫のポーションはとても減った。一安心だ。これで実験にも心置きなく失敗出来るというもの。
「疲れたし、みんなで甘いもの食べようか?」
そう精霊さんに問い掛けると、近くにいた精霊さんみんながキラキラと目を輝かせた。
「たべるー!」
「たべたぁい」
「クレープがいい」
「この間たべたやつー」
「クレープね」
それなら、すぐに作れるだろう。
バラ園で行ったお茶会を羨ましがった精霊さんと、先日クレープパーティーを開催した。
クレープをとにかくいっぱい焼いて、庭で好きな果物を入れて食べる、というシンプルなものだったけど、それがとても好評だった。
クレープは生地さえ焼いておけばあとはすぐに作れるし、それぞれの好みによって中身は自由に出来るしね。生地も足りなくなっても薄いからすぐに焼けるし。
「じゃあクレープを焼くから、食べたい果物を取ってきてもらっていい?」
「うん!」
「まかせてー」
「わあいクレープ!」
「生クリームがたまらんのです」
余程嬉しいのか、びゅんびゅん飛び回って精霊さんは果物の実る木のところへまっしぐら。
うんうん、精霊さんは今日もとても可愛い。
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