第27話 精霊の愛し子⑦
「うまい……」
精霊王様の声だ。
ポーションを飲みはじめてからずっと無言だったけど、お口に合わないというわけではないようだ。良かった。
「いや、壱弦のポーションはこれまでも食べていたが……」
精霊王様にとっても、このポーションは飲むものじゃなくて食べるものなのか。確かに食感はあるけどね。
「どうした壱弦。これは……やばいぞ……」
そして美味しすぎると人は語彙力を失うらしい。正しくは人じゃなくて精霊王様だけど。
でもやはり料理スキルSの威力は半端ない、ということのようだ。
「料理スキルSの女の子が作ってくれたものを思い浮かべながら作ったんですよ」
「なるほど。うまい」
そう頷きながら、精霊王様はどぼどぼと自分のコップにポーションを注ぐ。精霊さんの飲むペースもとても早い。
結構いっぱいポーションを作ったつもりだったけど、どんどん減っていく。精霊王様と精霊さんの勢いは本気で、とどまるということを知らない。
……全部飲み尽くすのでは?
まあ魔力は有り余っているし、もう一回作ればいいか。
満腹になった精霊王様は、本当に無邪気な子供のように目を爛々と輝かせている。
精霊さんも満足したようで良かった。
「壱弦」
「はい」
「お前には、オレを名で呼ぶことを許可する」
「はい?」
よくわからないが、すごいことなのだろうか。
精霊さんは、すごーいと言いながら飛び跳ねて拍手をしている。
「ノヴァ、と呼ぶといい」
「ノヴァ様」
「うむ」
教えてもらった名前を呼ぶと、満足そうにノヴァ様は頷いた。
「あと、オレは今日からこの家に住むからよろしく」
「……はい?」
「生活費として、薬草その他を提供しよう」
精霊王様って、人の家に住むものなんだろうか。いや本当、どういうことだろう。
拒否権はなさそうだし、ノヴァ様のことは勿論好きだからいいかなとは思うけど。
「あの、毎日ポーションを作るわけじゃないですよ?」
「構わん。その時は壱弦の手料理を振る舞うといい」
「あんまり上手ではないですが……」
「それも構わん。オレも精霊も壱弦が作ったものだから好きなのだ。まあ、あのラタトゥイユなどは特別美味かったが。それに、お前の側は居心地が良い」
「そうなんですか?」
「ああ。我ら精霊と本質的に相性が良いのだろうな。魔力が美味いし、波長も合う」
僕が精霊さんのことを無条件で受け入れていたのも、そういう要因があってのことなんだろうか。
精霊さんが人間ではないとはいえ、会話をするのも側にいるのも苦ではなかった。
ある日急に嫌われるのでは、という心配も、驚くほどしていない。
「あっでも部屋数が」
この家は、小さい。一人で住むのに買ったものだし。
精霊さんなら小さいし浮いていたから気にならなかったけど、ノヴァ様は子供サイズの人型。それに王様だというのに精霊さんと同じ扱いには出来ないだろう。となると、一部屋必要になる。勿論ベッドやソファーなどの家具もだ。
「ではこの作業部屋の隣に、一部屋作ろう。なに、空間を弄ればすぐだ」
流石精霊王様。規格外だ。
家の外に急に部屋が目に見えて増えたら驚くけど、中だけ広く出来れば気付く人はいない。安心だね。
というわけで、同居人が一人増えた。
ちなみにポーションは見事に飲み尽くされたので、もう一回全種類作ることとなった。
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