第17話 旧王都の塔と『第七教団』

 不思議な素材でできた〝塔〟の中を、注意深く進んでいく。

 調査もされていない未発見の迷宮ダンジョンであると同時に無色の闇に連なる場所なのだ。

 警戒は十分にしなくてはならない。


「『無色の闇』と違って、歪みはないんすね」

「ああ。感じはないな」


 ネネの言葉に、周囲を見回す。

 内部は〝塔〟と同じ、くすんだ白磁のような材質でできており触れるとひやりとした感覚がある。

 また、光源は不明なものの周囲はうっすらと明るく、灯りは必要なさそうだった。


「先行警戒に出るっす」


隠形の外套ヒドゥンマント】を羽織ったネネが、音もなく迷宮ダンジョンの先へと駆けていく。

 その間、俺は内部をじっと観察していた。


「どうか、した?」

「異界の気配がするのに、異界の影響がみられないのが不思議に思えて。なんだか、安定してるって言うか……」

「言われてみれば、確かに。そう、かも」


 俺の言葉に、レインは頷く。


「見た目は普通の迷宮ダンジョンに見えますが、やはり精霊は異常性を示しています。やはりここにも【深淵の扉アビスゲート】があるのでしょうか?」

「どうだろう。そもそも、俺たちは下に向かえばいいのか、上に向かえばいいのかどっちなんだ……?」


 フィニスにおける〝塔〟――『無色の闇』は、下にしか進めなかった。

 登り階段が壊れてしまっていたからだ。

 しかし、地上から高くせり出している以上、この迷宮ダンジョンは上にも下にも行けるのではないだろうか。

 さて、マリナと『第七教団』はどこにいる?


「上だと、思う」

「そうね。だってあいつら、アタチたちより上の入り口を使ってたもの」

「そうだった。くそ、頭をぶつけすぎてバカになったか? 俺は」


 俺たちはこの〝塔〟に地下空洞部分から侵入した。

 しかし、『第七教団』は『旧王都ジョウ・ココ』の地上部分にせり出した入り口を使っていたではないか。

 あの地響きが起きた瞬間、〝塔〟はさらに上の伸びたのだから、上に向かわなくてはならないのは必然だ。


「『無色の闇』の事もありますし、思い込みがあるのかもしれませんね」

「上に向かって進む迷宮ダンジョンは『ヴォーダン城』以来か」

「そうなりますね。今回はかなりたくさん登らないといけなくなりそうですが」


 シルクの言葉に、レインとジェミーがあからさまに表情を曇らせる。

 魔法を使う人間は、運動不足になりがちだからな。

 階段と聞いて苦手意識が表に出るのもわかる。


「戻ったっす!」


 景色の隙間からふわりと姿を現すネネ。

 【隠形の外套ヒドゥンマント】があるとはいえ、まったく気配を感じさせないなんてさすがだ。


「登り階段を確認してきたっす。道中のルートも掃除完了っす!」

「罠と魔物モンスターの種別はどうだった?」

「罠はなかったっす。魔物モンスターについては、道中で死体を見てもらったほうが早いかもっすね」

「わかった。じゃあ、行こうか」


 俺の言葉に頷いたネネが、ハンドサインで進行を示す。

 先行するネネの背中を追うことしばし、複雑なルートを進んだ先でネネが立ち止まった。


「こいつっすね。強くはなかったっすけど、見たことないやつっす」


 先行警戒を担う以上、ネネは魔物モンスター知識も豊富だ。

 どう避けるか、不意打ちで殺せるか、仲間に何がいたかをどうしらせるのか……サポーターの俺でも舌を巻くほどに、彼女の知識は深い。

 そんなネネでも、見たことがないという魔物は細長い楕円形をした魔物モンスターだった。

 大きさは俺の腕くらいで、長さも俺の腕くらい。

 毛はなく、鱗もなく、赤黒い色をした表皮をもっていて、片側にギザギザした刃が並んだ口がある。

 短めの大蚯蚓ワームといった風情だ。


「こいつ、空を飛んでたんすよ」

「このなりで?」


 想像が難しいな。

 そして、想像したくない感じだ。


「すぐに叩き落としたっすけど、音を立てないので結構ヤバいかもしれないないっす」

「ああ、それは危険だな。気を付けるとしよう」


 音もなく空を泳ぐのなら、確かに危険だ。

 不意を打たれて首にでも噛みつかれたらことだしな。


「階段はこっちっす。魔物モンスターはもういないと思うっすけど、一応警戒を」


 ネネの言葉に頷いて、くすんだ白の迷宮の中を進む。

 広さの規模はそれほどではない。見た目通りか、少し広いくらい。

 異界の気配も少ないように思えたが、ちりりと頬が小さく痛み俺はその気配を察する。


「……待て、誰かいる」


 ネネが振り返って小さく首をかしげる。

 おそらく、これは俺にしかわからない感覚なのだろうな。


「出てこい、不意打ちはなしだ」

「……」


 曲がり角の影から、『第七教団』のローブを纏った人影が姿を現す。

 ショートスピアと丸盾で武装したそいつはすっぽりとフードを被っているうえに、顔全体を覆うマスクまでつけていた。


「お前たちの目的は何だ! マリナをどうするつもりだ!?」

「貴様に話すことなどない。我ら家族は、待ち望んだ場所へ行く」

「わけのわからないことを!」


 俺が拘束魔法を放つと同時に、槍を構えた信徒が突っ込んでくる。

 だが、赤魔導士の早撃ちについてこれるものではない。


「ぬ、く……」


 〈麻痺パラライズ〉と〈拘束バインド〉の効果を受けた信徒が膝をつく。

 以前の俺なら抵抗レジストされていたいたかもしれないが、今の俺には〝淘汰〟が染みこんでいる。

 異界の気配を纏う人間にだって、弱体魔法を付与可能だ。


「動くな! 話を聞かせて――」

「ぐ、ぶ……ぉぁ」

「! おい、どうした?」


 俺の言葉が終わる前に、信徒がごぽりと血を吐いて倒れる。

 もちろん、死に至るような魔法はかけていない。


「ダメっすね、死んだっす。おそらく、自害するための魔法道具アーティファクトか何か仕込んでたっぽいっす」


 脈を確認したネネが小さく首を振る。

 それを聞いて、少し前に考えていた違法魔法道具アーティファクトの出どころに思い当たる。

 もしかすると、あの推測は当たっていたのかもしれない。

 なにせ、自害する魔法道具アーティファクトなどというものはおよそ違法な物だからだ。


「こんなことをする連中がまともとは思えない。行こう、マリナのところへ」

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