第3話 迷宮探索と初戦闘
「ボルグルだ……!」
背丈は俺の腰ほど。
毛むくじゃらでどこか猿に似た人型の魔物が三体、小部屋にたむろしていた。
すでにこちらの灯りに気が付いていて、向こうも臨戦態勢をとっている。
「先制しますッ」
シルクの放った矢が、鋭い風切り音を立てて坑道内を飛ぶ。
それは狙いたがわずボルグルの胸に深々と刺さった。
相変わらずいい腕だ。
「ぎゃっぎゃ!」
奇妙な叫び声をあげて、ボルグルがこちらに駆けだす。
……が、控えていたマリナも飛び出していた。
マリナが振るうのは、やや短めのバスタードソード。リーチと攻撃力、取り回しの良さを少し小柄な彼女なりに上手く調整してあるようだ。
さて、俺も仕事をしよう。
まず、マリナに向けて三種類の<身体強化>の魔法を放ち、そのまま指をひるがえして二体のボルグルに<
足元を滑らせて隙を作るだけの単純な魔法だが、近接戦闘中にこれをもらえば致命的なことになる。
そう、今しがたマリナに斬り捨てられたボルグルのように。
「お見事」
「ううん、今の、ユークの魔法だよね? すっごいラクチンだった」
「そりゃ結構。しかし、強くなったな。驚いたよ」
ボルグルはどこにでもいる下位の
だが、飛び出しのタイミングや体捌き、後衛に危険が及ばないようにするための位置取り……どれをとっても、かなり良かった。
スポットで参加するならBクラスのパーティでも戦えそうなくらいだ。
「えへへ、ありがと。でも、先生の言う通りに訓練しただけだよ!」
「先生はよせって。さぁ、魔石を回収して進むぞ」
死体となったボルグルの胸にナイフを入れて、手際よく魔石を回収する。
魔物が体内に持つ魔石は、各種
冒険者の収入源の一つだ。
「手際、いい」
魔石の回収をまじまじと見ていたレインが、そうポツリともらす。
「慣れてるからな」
「ボクたちじゃ、こうはいかない」
「そうなのか? ま、今後は俺が中心でやるから、余裕がある時に一緒に練習してみよう」
「うん」
ボルグルの魔石を回収した後、再び先頭に立った俺は、注意深く坑道を進んでいく。
しかし、俺達は特に問題なく二階層に進む階段へたどり着くことができた。
日頃の行いがいいからだろうか。
「ダンジョンアタックのルーティンはどうなってる? 階段ごとに休憩か?」
「うん。損耗報告も一緒にしてる」
なるほど。俺が教えた通り、基本に忠実にやっているようだ。
しばし、壁に背を預けて一息つく。
「武器、防具ともに破損なし。体力も十分!」
「使用した矢は回収。損耗なし」
「ボクも、損耗なし」
「俺も損耗ほぼなし。魔力も十分だ」
定期的な損耗チェックはダンジョンアタックにおける重要なルーティンだ。
するパーティとしないパーティでは、不測事態に陥るリスクがまるで違う。
ちなみに『サンダーパイク』ではほとんどしなかった。
俺が尋ねるまで申告がないなんてザラだ。
「さ、それじゃあ行くか」
【看破のカンテラ】をかざしながら、階段を下りていく。
普通、ダンジョンというのは潜れば潜るほど
『ペインタル廃坑跡迷宮』でもそれは同じで、地下二階になれば徘徊する魔物も少し強力になる。
そう、階段を下りた瞬間……出会いがしらに襲って来たコイツらのように、だ。
「
つるはしやスコップを持った死人たちが十数体、階段を下りたばかりの俺達を取り囲んでいた。
「レイン!」
シルクが呼びかけると、すでにレインは祝詞を上げ始めていた。
錫杖を何度か地面で打ち鳴らしつつ、朗々と祈りの言葉を紡ぎ始める。
「マリナ、ユークさん、カバーを!」
自らも細剣を抜き放って、シルクが叫ぶ。
「オーケー!」
「まかせてくれ。<
範囲化した強化魔法をばら撒く。
これくらいしておけば、多少の攻撃では致命傷とはなるまい。
次に、腰のポーションホルダーから聖水を抜き出して、レインの周囲に撒く。
低位のアンデッドなら、これだけで足止めが可能だ。
「とああ!」
にじり寄る
<
さて、俺も中衛として働かねばな。
腰の
そうこうするうちに、レインの祈りが完成した。
「シャンっ」と錫杖の音が響くと同時に、柔らかな光が広がって
光が収まった頃には、もう動く
「さっすがレイン!」
「時間、かせいで、もらったから」
普段は控えめなレインだが、あの規模の<
軽く指を振って、レインに<
こういう出会いがしらの遭遇戦は斥候がいれば減るんだが……。
「……? ね、ユーク。いま、何かした?」
「ああ、<
俺の返事に、レインがぽかんとした顔をした。
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