第20話 初音とデートそして…


 「ほら、ここに入りましょ!」


 手を引っ張られて、また車に乗せられて、着いた場所は水族館だった。


 手を繋ぐ必要はあったか? という言葉は飲み込み済みだ。


 「ああ、分かった」


 「随分、素直じゃん」


 「諦めたからな」


 「ふ〜ん」


 そう。また、手を繋ぎ出した初音の行動も諦めた。


 「はぁ…財布出すから離れろ」


 「そんなのいいわよ。今日は私が無理やり連れてきたのだから」


 そう言って、空いている右手を器用に使い…橙色のバックから年間パスと書かれたカードと、1枚のチケットを取り出した。


 「何で、チケットを持ってんだよ…」


 「前に、買ったのが出てきたのよ」


 年間パスを持ってるのに、チケットを買ったのが?


 「ほ、ほら! 早く行くわよ!!」


 「わ、分かったから引っ張るなー!」


 追求させない為か、凄い勢いで受付に迫り…空いていた為、待たずに入る事が出来た。


 「はぁ〜いつ来ても、やっぱりいいわね…」


 「何回も来てるのに飽きないのか?」


 普通飽きるだろ。


 「何を言っているの? 飽きるわけないじゃない」


 キョトン…とした顔で、俺を見つめてくる、その眼を見てると、俺が間違ってるのか? と…思わずにいられなかった。


 「ほら! まずはイルカを見に行くわよ!!」


 「分かったよ」


 「次はペンギンよ!!」


 「分かったよ…」


 「次はオットセイよ!!」


 「…おう」


 「次はサメよ!!」


 「………」


 コイツ…元気すぎるだろ…。


 サメが入っている水槽を見ると、次にお菓子や玩具 アクセサリーが売っているショップに歩いて行った。


 …俺の手を掴みながら。


 「ん〜…あっ! 新しいアクセサリーが売ってるみたい! 一緒に買お!!」


 そう言って、こちらに見せてきたのは青と黄色のイルカが2匹合わされば…尻尾がはみ出すハートの形になるペンダントだった。


 正直、付き合ってもいない女性と、一緒に買うのはーーー


 「これは記念だから、買わないなんて許さないから」


 「はい」


 怖…。何か凄い圧がきたんだけど。


 「ありがとうございました〜!」


 初音は早速、買った黄色のイルカのペンダントをバックに付け…上機嫌に鼻歌を歌たい、繋がっている腕をブンブンと揺らしていた。


 恥ずかしいから、勘弁してくれ…。


 「少しあそこで休憩しない?」


 「ああ」


 初音が指を差したのは、少し広めなカフェで、俺は素直に頷き、入店し…案内された向かいのテーブルに座った。


 「ご注文はお決まりですか?」


 「カフェオレとホットサンド」


 「俺はブランドコーヒーで」


 「かしこまりました」


 店員は頭を下げて、離れ…5分くらいで、注文した物を持って、戻ってきた。


 客は、それなりにいるのに早いな。


 それから、お互いに喋らず…初音がホットサンドを平らげカフェオレを一口飲むと、口を開いた。


 「ねぇ…アンタは、今付き合ってる人はいるの?」


 「…いない」


 そう言うと、初音の顔が明るくなったように感じた。


 それとは反対に、安曇の、顔は暗くなったように感じられた。


 この流れは、俺も知っている。


 実際に、俺も告白したから、次に言われる言葉も想像がつく。


 「それなら…さ、私と付き合ってみない? ほ、ほら! 私可愛いから損はないーー「無理」」


 「え…?」


 「いや、普通に無理だわ。俺はお前みたいなわがままで、人の領域にずかずかと入ってくる奴嫌いなんだよね。もう2度と俺の前に現れないでくれる?」


 「ッ!!」


 初音が泣きそうな顔で、立ち上がり…消えて行く背中を見続けた。


 終わった。


 あれだけ、言えば…もう、俺の前に現れる事は2度とないだろう。


 そう…2度と。


 そう思うと、頭の中に初音の泣きそうな顔を思い出し…胸が苦しくなったように感じた。


 大丈夫…大丈夫。俺を好きになったんだ…世の中には、俺何かよりも、イケメンで金持ちで、性格が良い奴だっている。


 俺なんか直ぐに忘れてーー


 「なぁ、アンタ…さっきは流石に言い過ぎじゃーーーー」


 何で最後まで言わないんだ? どうして


 視界がよく見えない。


 意識が朦朧もうろうとする。


 帰ろう…家に、疲れた。


 安曇は、ふらふらと体を揺らし、会計を済ませ…店から出て行った。


 安曇がいたテーブルに残ったのは、飲みかけのカフェオレとブランドコーヒー。


 他に、コーヒーの近くには

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