父辰巳に問う

 ※ ※ ※


 父辰巳が仕事から戻ってくる時間を見計らって、藍子は実家に帰った。


「いらっしゃい。ただ、外で寿司を食ってきたから、夜ご飯は無いぞ」

「大丈夫。話をしに来ただけだから」


 出迎えてくれた父に対して、藍子は待ったなしで話を切り出した。


「やぶから棒に、何の話だ?」

「綾汰のこと」

「ほお? 綾汰が、どうかしたのか?」

「お願いだから、ショックを受けないで聞いてね」


 申し訳ない、と藍子は思いつつ、父に、東京での出来事を話した。

 罪悪感はあった。綾汰に対してもそうだが、父に対しても、だ。自分の息子が、姉に対して告白をしたなんて、にわかには受け入れたくない話だと思う。


 ところが、意外にも、父は普通の反応だった。


「そうか。綾汰が、お前のことを好きだと言ったんだな」


 なぜ父は平気でいられるのだろうか。自分が実の娘ではなく、綾汰にとっても実の姉ではないから、何も感じないのだろうか。


「お父さん。もしかして、何か知っていたの?」


「知っていたか、知らなかったか、で答えるなら、知っていたことになるのかな」

「綾汰が、どういうつもりで私のことを『好き』って言ったのか、お父さんにはわかるの?」

「俺に聞くよりも、綾汰本人に聞けば、一発じゃないか」

「こんな話、当の本人に聞けないわよ」

「それもそうだな」

「お願い、教えて。私、もうこんなの耐えられないよ。綾汰が何を思って、私のことを好きなのか、そのわけを知りたいの」

「いや、正直な話」


 困ったような表情で、父は頬を指で掻きながら、話し始めた。


「俺は知っていた。綾汰が藍子のことを好きなんだろうな、と」

「え? いつから?」

「静枝が亡くなった頃から、じゃないかな。一年経って、やっと新しい母親に慣れるか、というところで、静枝がいなくなって、幼いとは言っても二度も母親を亡くしたんだ、綾汰もかなり沈んでいたが……」


 父は、藍子を正面から見つめてきた。


「お前に、救われたところを、俺はハッキリと憶えている」

「私が? 綾汰を?」

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