第一話 カフェ「兎の寝床」
気の進まない同窓会
おだやかな夜風が、犀川沿いの道を吹き抜けてゆき、頬と髪をさらりと撫でていく。夜の灯がきらめく川面を眺めながら、藍子は深くため息をついた。
これから、昔通っていた中学の同窓会に出席しないといけない。
連絡があった時、電話の向こうで、旧友の美鈴は「久しぶりに藍子スマイルが見られる」と声を弾ませていた。
他にも楽しみにしてくれているメンバーが何人もいる、とのことだ。
一〇年経った今でも、自分のことを慕ってくれている、かつての同級生達。それはとても嬉しくて、ありがたいことだと思う。
だけど……
「あああ、行きたくないなあ」
頭を抱えてしゃがみ込む。
藍子はすでに一杯やってきている。行きつけのバーで、テキーラベースの少し強めのカクテルを、クイッと。それがいけなかった。かなり酔いが回ってきている。
同窓会に出たくない理由はたった一つ。
確実に、弟の話が出ることだ。
その瞬間、自分はどのようなリアクションを取るべきなのか、ということを考えただけで、なんだかうんざりしてしまう。
「でも、そろそろ行かないと」
腕時計を見ると、同窓会の開始まで、あと五分。お店まで歩いていくと、ちょうどそれくらいの時間がかかる。移動しないといけない。
酔いが回ってふらつく足取りで、犀川沿いの遊歩道を後にした。
電飾看板がそこかしこで輝いている繁華街へと、足を踏み入れる。
大通りの交差点では、黒服達が会社帰りのサラリーマンに声をかけており、制服姿の女子高校生達がキャッキャッとはしゃいでいる。
さすが金曜日の夜、賑やかだ。
(ま、私は、平日も休日も関係ないんだけどね)
そんなことを考えながら、飲み屋が立ち並ぶ路地に入った。すぐに目的の居酒屋に辿り着いた。信号待ちで時間を取られたせいで、開始時間を二分過ぎている。
店の中に入ると、奥の座敷席に、懐かしい顔ぶれが集まっているのが見えた。
一〇年も経っているけど、意外と、みんなそれほど見た目は変わっていない。
中学卒業以来、一度も会っていなかった美鈴もあの頃のままだが、オシャレ度はグレードアップしていて、爽やかなパンツスタイルをバシッとスマートに決めている。
「藍子! うわあ、藍子だ!」
美鈴のはしゃいでいる姿を見ていると、この時ばかりは、藍子は同窓会に来て良かったかも、と思った。
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