第44話 後は任せた勇者は帰る

 その後、俺はハジメーノ王国軍と連合国軍をどちらも戦闘不能した。

 具体的には双方とも念動魔法で浮かせっぱなしにした。


 浮遊魔法を使ってもいいのだが、こっちは浮くだけで体の自由が効くんだよな。

 念動魔法は相手の全身を拘束できる。


 ということで、戦争にならなくなったので、一時停戦となった。

 戦場で得た情報を持って帰ってくると、もうすっかり夜である。


「あー、めんどくさいめんどくさい。他人が起こした戦争に関わってると、無駄に一日が過ぎてしまう。俺は勇者村をもり立てたり、カトリナとイチャイチャしたりで忙しいのに」


 ぶつぶつ言いながら、瞬間移動用のポイントにしていた対策室へと現れる。

 すると、突然俺が出現したので、周囲にいた連中がビクッとした。


「う、うわっ! 勇者殿か!」


「トラッピア陛下ー! 勇者殿が戻ってこられましたぞー!」


 トラッピアが陛下になっている!

 父王をクーデターで引きずり下ろしたのだから、まあ陛下か。

 女王トラッピアなんだな。


 向こうから、トラッピアが走ってきた。


「ショート! よく帰ってきたわね!! で、どうだったの?」


「ショート、怪我はない?」


「ショートー! 帰ってきた、そこはあたしをハグしなきゃでしょ!」


 カトリナは優しいなあ。

 あと、ヒロイナが放し飼いになってるぞ!

 あの危険人物をなんとかしてくれ!


 女子たちと、対策室の重鎮たちに囲まれ、俺は戦争の状況について説明した。


「停戦させてきた。だが、あれだな。連合国の国民が戦争を望んでるから、こりゃあ何回も起こるんじゃないか? この国は分かりやすい悪役にされてるから、魔王との戦いで溜まった鬱憤晴らしに利用されてるぞ」


「国民が……? 各国が統一してそういう意思を持つのはおかしくない? 誰かが先導しないと……」


「この新聞が先導してた。各国へ送られた支援物資に入ってたそうだ。支援物資の送り主は不明らしいが」


 新聞を前に、トラッピアとこの国の連中が、ああだこうだと騒ぎ始めた。


「よし、じゃあ状況は終了! 俺は帰宅! じゃあな!」


「あ、ちょっと待ってショート! やはり女王の傍らには最強の剣が必要だと思うのよ!」


「ショート! ずっと昔から、あたし、ショートの事が好きだったの! ねえ、今こそ昔の思いを叶えよう?」


「うるさいぞ!? 背筋がゾクゾクするからやめなさい!」


 俺は女子二名を振り払い、カトリナをお姫様抱っこした。


「ブレイン! 俺の背中に掴まれ!」


「あ、はい」


 ブレインがトコトコやって来て、俺の背におぶさった。


「で、さらばだ諸君」


 俺は彼らに告げると、瞬間移動魔法を使用した。

 今度の移動先は、城門だ。

 ここに降り立った時、ポイントを設置しておいた。


 そして、そこから浮遊して高速移動しながらの帰還となる。


「初めまして、ブレインです。ショートの奥様だとか。いやあ、どうも。ショートがいつもお世話になっています」


「いっ、いえいえ、こちらこそ! 勇者村はいいところだから、ブレインさんもきっと楽しく暮らせると思うよ!」


 ブレインとカトリナが、俺を挟んで挨拶している。

 やはり、ブレインは勇者村向きだな。


 この男は賢者と言うだけあって、それなりに広範な知識と、多種多様な魔法が使える。

 いろいろな仕事のヘルプ要員として活躍できるだろう。

 こいつほどの男が、王都の片隅でほそぼそと暮らすのはあまりにももったいない。


「というかブレイン、トラッピアからリクルートされなかったのか?」


「りくるーと? ああ、勧誘のことですね。実はトラッピア陛下の取り巻きの方々が猛反発しまして。自分たちの仕事が取られると」


「ははあ……。有能なやつを排斥しようとしたのだな。よくあるよくある」


 どっちにしろ冷や飯喰らい確定だったわけか。

 では連れてきて正解だったな。


 一時間ほどのんびり飛ぶと、勇者村が見えてきた。

 完全に真夜中なので、灯りも消えている。


 上空から見下ろすと、俺たちの家の近くに、建てかけのログハウスがある。

 フックとミー夫妻用の家だ。


「家も自分たちで建てているんですね。僕はですね、新たに建築学を学んだのでお手伝いできますよ」


「ほんとか! 家造りは元大工のブルスト一人がやってたから助かるなあ」


 勇者村へと降り立つ俺たち。

 詳しい話は明日にしよう、という事になった。


 大部屋に行くと、ブルストがぐうぐう寝ていた。


「ひとまずここで寝てくれ。お疲れー」


「お疲れさまです」


「また明日ね、ブレインさん」


 ということで、その夜は気疲れからか、俺は深く深く爆睡したのだった。

 あの二人が並ぶと、本当に体が持たない。

 もう王都には行きたくないな!


 朝になり、ブレインを仲間たちに紹介した。

 ブルストは、助手ができたと大喜びである。

 フックとミー夫妻の家造りも急ピッチで進みそうらしい。


 そしてクロロックが、ブレインと出会ってしまった。


「ほう、様々な知識を持つ賢者ですか」


「ほう、多様な知識を持つ学者ですか」


「ワタクシの専攻は農学でして。畑を耕し、肥料を作っていますよ」


「肥料……。興味があります」


「ありますか」


「やらせてもらえますか」


「是非」


 あっという間に意気投合した二人が、肥料をかき混ぜに行ってしまった。


「あの二人、キャラが被ってるよな」


「キャラ?」


 俺の言葉に、首をかしげるカトリナなのだった。


 かくして、万能お手伝い要員の賢者ブレインを仲間にしたぞ!


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