第29話:海辺の村で


トープには夕方になる前に到着した、大きな街なんで夕方になると門に行列が出来て、1時間以上待つのが日常なんだと。

最後の道のりは山道って聞いてたんだが、山と言うより丘だった、丘の上は平らになってたから台地だな。


トープ神殿はゲート神殿に比べればはるかに小さいが、途中の街に在った神殿よりはるかに大きい、ちょっとした学校なみだ、庭も400mトラックが用意できるほど広い。

広場の使用目的は不明、集会用か?


「 船乗りは信仰心の篤いあつい方が多いですからな 」


夕飯は神殿で用意してくれた、もちろん宿も。

今は神殿主催のチョットした晩餐会中? 規模の大きい夕食会とも言う。


トープ神殿の神殿長も猫獣人だった、王都と海の間の神殿長は全部猫獣人じゃないだろうか、信仰心が篤いそうだから魚の寄進目当てとか。

広い庭もネコの集会用だったりしてな、あとでドリーに聞いてみよう。


「 それにしても、王都からトープまでたった1日で来られるとは。 いやはや驚きですな! 」


「 いえ、まだまだですよ 」


俺は酒は飲まん、勧めるな。


「 1日でしたら魚の鮮度も落ちないでしょう、冷凍でなく生でも食べられますからな。 充分ではないですかな? 」


速度の基準が魚の鮮度なんだね、猫獣人。



んでだ、推定240kmを約8時間で走破した、休憩なんかを除くと6時間弱だ、時速にして約40kmの計算になる。

街へ出入りする時間も含んでるけど、それはクワップに向かう時にも発生するし避けられないし。

チルの実家のある工房都市クワップまでは馬車で14日、1日80kmとして14日で1120kmだから28時間掛かる計算、こっちにいられる3日間で走破しようとすると1日9時間以上走る必要がある。


仮に日照時間が12時間在っても、休憩時間が必要だから実際に走っていられるのは5~6時間だろう。

そうなると60km、余裕も必要だから70km近くで走らないと間に合わない、街へ出入りするラッシュの行列に巻き込まれたら、1時間なんてあっという間にロスするし。


「 目標は4時間なんですよ 」


「「「 !!! 」」」


みんな驚いてるけど、チルとコイネ、一緒に来た3人は平然としてる、実際に走ってるの見てるし不可能じゃないって判るはず。

休憩が長過ぎたし多すぎた、途中の街の神殿に寄らずに直行すれば1時間は浮く。


チルは「 またお散歩出来ます! 」って喜んでるし、コイネは魚に夢中だ、生の魚は初めてだって言ってたな。


「 目標達成ですね、マスター 」


「 そうだな。 初めてにしては上手くいったかな 」


結果は3日の道のりが1日になった、途中で凄いスピードで走ったけど、トータルでは3倍の速度で走ったに過ぎない。


でも、高速連続走行は30分ほどしか出来無かったが、体力の不安はなくなったのは大きい。

機力も充分持つし、チルも機力で助けてくれるからまだまだ余裕があるのも判った、大きな収穫だ。

盗賊や魔物に襲われた時の対処は未経験、基本的には逃げるし経験したくはない。


「 今夜休んだら、明日の朝早くに出発して・・・ 」


コイネのシッポがピンとなった。


「 王都に帰ろう。 で、またこっちに来てみようか 」


コイネのシッポがブワッと広がった。


「 もう帰るニャ? 来たばっかりニャよ? 」


「 冗談だよ、帰るとしても明後日だな。 明日はトープ見物するさ、せっかく来たんだし 」


ちょっと涙ぐんでたコイネのシッポが元に戻った、面白い。


_________________________



トープは港町だが、正確にはいくつかの港の集合体になってる、貿易港と数カ所の漁港だ。

大きな帆船も見える貿易港は、レンガ作りの倉庫が建ち並んでて他の国の工芸品も売ってるんだと。

でも俺たちは小さな漁港のある方に来てる、朝市の魚介類狙い。


新鮮な魚介類を扱う店と、焼いたり蒸したりした魚介類の屋台が立ち並ぶなかを歩いてる、コイネは両手に持った串焼きを食べながら歩いてる、もちろん俺もチルも食べてる。

チルもコイネも内陸から来たんで海を見るのが初めてなんだと、そりゃ生魚に感激するはずだ。


朝食は神殿が用意してくれた、マスターとエージェントが訪れるのは珍しいけど、たまには在るんだと。

この町を訪れたマスター全員が魚目当て、まぁ日本人だしな。


「 魚は別腹ニャ! 」


ネコが何か言ってるけど、朝食は神殿で食べたし魚も出してくれた、それに魚は別腹じゃない。


見たことがある魚介類が多いのはパラレルワールドだからだろう、小さな角があったり牙があったり、光ってたりするけど見た事がある魚ばかり、並んでる魚に季節感が無いのはスルーだ。

寄生虫の心配は無いらしい、鑑定持ちが選別して魔法使いが殺虫?するんだと、地味に便利だ。


「 マスター、モモにお土産買って帰りたいです 」


「 そうだな。 ばあちゃんに干物なんかも買ってこうか 」


「 神殿にも欲しいですね! 」


誰が代金を払うんだろう、神殿全員分だともの凄い量になると思うんだが。

運ぶの俺だし。


「 ドリー。 あんまり大量だと荷馬車に載らないぞ? 」


「 干物だったら大丈夫ですよ。 軽いから量も運べますし、長持ちしますから☆ 」


金はある、じゃなくて金貨はあるから、金額は気にならないけど問題はそこじゃない。

俺に支払わせる気マックスの犬獣人が気になる、ホントに神官長なんだろうか。

俺もチルも世話になってるから、お土産は用意するけれども。


「 どれくらい用意すれば良いか判らないから、ドリーが注文してくれるか? でも、荷馬車の積載量は超えるなよ 」


「 心配いりません、大丈夫ですよ! 」


いくつかの店舗の干物を買い占めて支払いは俺、同行してたトープ神殿の神官が、神殿から荷馬車を呼んで運んでくれるって。

箱詰めも積載もやってくれるみたいなんで、全部お任せだ。

どう見ても積み残しが出そうなんだが、それに肉を買う必要はあったのか?



買い物と食べ歩きで気が付けば昼食の時間になってたんで、近場でお勧めの食堂で昼食。

まだ食べるのかよ、って思ったが入るもんだな、最近運動してるから腹も減るのか。


「 どこに行っても魚が一杯ニャ! 最高ニャ 」


「 楽しそうで良かったよ 」


「 王都に帰った時が心配です 」


「 そんなこと無いニャ、王都に 『 おい! クリスんとこの船が浜辺に上がったぞ! 』 」


食堂に飛び込んで来たおっさんが叫んだ。


「 それでクリスは! 」

「 無事なのか!? 」


おっさんは黙って首を横に振った、ダメだったって事だよな。


「 奥さんに連絡はしたのかい? 」


食堂の奥からエプロンをしたおばさんが出てくる、食堂のおかみさんだな。


「 村長と奥さんには、別の奴が知らせに行った 」


「 じゃあ、あたしたちに出来る事はもう無いね・・・そこにいるのは神官様じゃないのかい? 」


「 ええそうです。 ゲート神殿で神官長をしておりますドリーと申します 」


綺麗なお辞儀と共に自己紹介するドリー。


「 ゲート神殿の神官長! ちょうどいい、クリスの弔いをお願いできないかい? 」


「 構いません。 私がお送り致します 」


_________________________



後ろの1/3が無い小型の帆船(漁船らしい)が、砂浜に打ち上げられてる、その前でドリーが踊ってる。

ドリーは僧侶みたいな服装をして、上に宝石が付いた杖を持って踊ってる。

服装は西洋風なんだが、踊ってるのは神社の神楽に似てるんで、俺が見てるとちょっと違和感が在る。


ドリーの周りには村の人達が居てドリーと船を見てるんだが、涙ぐんでたり手を合わせてる人がいるんでこれは葬式だな、亡骸は無いみたいだが。


「 マスター、終わったようです 」


村人たちに一礼したドリーが、こちらに向かってユックリ歩いてくる、後ろでは漁船に火が放たれた、火葬か。


「 だな 」


「 お待たせしました。 滞りなくお送りできたと思います 」


「 お疲れ様ドリー。 今のがここの葬式になるのかな? 」


「 ええ。 海で魔物に襲われても、船だけが帰ってくることが在るんです 」


徐々に火が回っていく漁船、そのそばで立ちつくしてるのは奥さんだろう、お腹が大きい様に見える。


「 そんな時は浜辺で船を燃やして、死者を送るんです 」


「 なるほどな 」


「 先ほどの食堂に移動しましょう、火が消えるまでそちらで待機になります 」


「 了解した 」


俺達は歩いて食堂に向かう、まだお日様が元気な時間のハズなんだが、何となく頼りない気がした。

こちらの世界にも死は存在するらしい、チョット調子に乗ってたかな。

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