第18話:オークションの準備


いつもより少し早い時間、いつもと同じベッドに入る彼。

いつもと同じ様に彼の布団に潜り込み、いつもと同じ様に彼のお腹の前で丸くなる愛犬チル。


 「 お休み 」


いつもと同じ様にチルに告げる彼。

いつもと違うのは、『 ゲート 』 と心の中でつぶやいた事だろうか。


_________________________



寝た時と違う部屋、でも見た事が在る部屋。


「 ホントに来ちゃったよ 」


楽しくて変な夢だった、それが正直な感想だ。

ひょっとして来られるかもなんて、期待していたりいなかったり。


パラレルワールド---ホントに在るのか?

いや、あちらが夢でこちらが現実なのか?


なんて哲学的な事考えても意味ないし、チルと一緒に楽しむとしよう。

今日は、このまま寝るとして明日は何しようか?

それにしても、寝て起きてもう一度寝る事になるとはね。



「 マスター! お早うございます! 」


部屋に飛び込んでくるチル。


「 お早うチル。 約束通り、ちゃんと来ただろ? 」


「 はい! 」


「 さて、今日は何しようかね 」 


でも遊ぶ前に、商業ギルドでビックバードの清算を確認しないと。

任せっきりで、さっさと帰っちゃったしな。




「 お早うございます。 グレイ様、チル様、コイネさん。 こちらへどうぞ 」


商業ギルド受付嬢に案内されたのは、豪華な応接セットのお部屋。

依頼主に依頼の評価を貰ってから、冒険者ギルドへ提出するんだと。


「 お待たせしました 」


「 お早うございます、ギルバートさん。 先日は急に帰ってしまいまして、すいませんでした 」


「 いえいえ。 マスターの事情は皆が存じております。 お気になさらずに 」


「 ありがとうございます 」 軽く頭を下げておく、礼節は守らないと。



「 それで、ビックバード5羽の清算なのですが、状態がかなり良いと報告を受けました。 森の奥でしか狩れない魔物なのですが。 冒険者なら量を減らして急いで運ぶか、量を増やしてユックリ運ぶか。 急いで運んでも半日はかかりますからね 」


俺が運ぶと最短で40分だ。


「 運が良かったんですよ。 次々、獲物が見つかりましたんで。 運ぶのは馬車を引っ張っただけですし 」


「 そう言えば、馬車で森に入られたとか? 」


「 ええ、レンタルした馬車で30分程森の中を走りました。 手で運ぶより早いし楽ですから 」


「 森の中に馬車で入るのが楽だと? 」


「 機力を込めて引っ張れば、ほとんどの木の根も岩も乗り越えられます。 あんまり大きいと無理ですけどね 」


「 なるほど。 やはり、マスターの機力は凄まじいですな 」



ビックバード5羽のお値段は、肉で金貨148枚+魔石と羽根で35枚、合計で183枚。

肉は198円/100gは、なかなかの稼ぎじゃないだろうか。

鮮度が良い物を沢山運べば儲かんだな。


依頼に対する評価は最高のSを頂いたそうだ。 そっちは興味ない。



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「 それじゃあ、今回の取り分なんだが。 2人に50枚づつ、残りは日用品とか服を買おうか 」


「「 ・・・・・・ 」」


「 ん? どした2人とも 」


「 マスターと居ると、あっという間に金貨が貯まっていきます 」


「 そうなのか? 無理して稼いでいる訳じゃ無いんだが 」


「 普通の冒険者は違うにゃ! 」


「 マスター。 普通の冒険者は、節約して、我慢してお金を貯めるんです 」


「 ビッグバードはあんなに簡単に狩れないないにゃ! 」


「 その通りですな 」  出たなギルバート。



「 弓でも魔法でも届きません。 近づけばすぐに逃げますから、剣や槍では落とせません 」


「 銃があったからな、相性が良かったんだよ 」


「 ギルドとしては大歓迎ですよ。 狩って来て頂ければ、どんどん購入させて頂きます 」


チルとコイネの指名依頼にしたいんだと。

手が空いたら、狩りに行けばいいらしいんで承諾した。



俺達は商業ギルドに口座を開いた。

何十枚もの金貨を持ち歩くのは、不用心だし重いからな。


金貨の出し入れは、冒険者カードが在ればどの商業ギルドのどの支店でも可能なんだと。

地味に便利だ。


俺もオークションに備えて、口座を用意しておくことになった。

とりあえず金貨を数枚入れておく。

俺は冒険者カードを持って無いんで、商業ギルドのカードを作った。



「 グレイ様。 オークションに、ご出席をお願いしたいのですが? 」


さぁ帰ろうかというタイミングで、ギルバートがおかしなことを言ってきた。


「 出席する必要って在るんだっけ? 」


「 義務では御座いませんが、一言挨拶して頂ければと。 ワイバーン(仮)は、今回の目玉商品の1つですから 」


「 出ないという選択肢は? 」


「 オークションには、王族も出席すると聞いております。 お顔を売るには良い機会ではないかと 」


「 王族か~。 貴族ってだけでも気をつかって面倒なのに、その親玉か~ 」


出来れば出たくない、堅苦しいのは性に合わないし、目立つのも苦手だ。



「 国王様はきさくな方なので、心配ないかと思いますが 」


「 国王がそうでもな、周りの貴族がうるさいんじゃないか? ”国王に対してけしからん” とか言い出しそうなんだよな 」


「 その点もご心配なく。 マスターの皆様は、この国の法の適用外となっております 」


「 治外法権か 」


「 ええ、不敬罪も御座いません 」


チルには俺が居ない間の後ろ盾が必要だ、国王に顔を見せておけばメリットはあるだろう。

デメリットもあるだろうけど。


「 出席・・・・・・しましょう 」


「 ありがとう御座います。 これで、オークションが盛り上がります 」


「 その代わり、面倒な事は無しで! 」


「 承知しております 」


ギルバートがすげー笑顔になったんだが。

オークションが盛り上がれば、利益も上がりそうだし我慢する。


そう言えば、こういうケースでは王様に献上するんだっけ?


「 国王様へ何も献上してないんだがした方が良いのかね? って言うか、今からでも間に合うのかね? 」


「 献上された方がよろしいでしょう。 時期は少々遅いですが、しないよりはよろしいかと 」


ギルバートと相談して、肉200kgを献上する事にした。

神殿とのバランスを考慮して、革も少々。 こちらはギルバートにお任せだ。


オークションの日は、神殿までお迎えに来てくれるんだと。

出席者は俺とチル、コイネは居なかった今回はお留守番。

ギルバートは普段の服で良いって言ってたけど、それなりの服を用意しないと。

俺なんか神殿が用意してくれた服のまんまだし。


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「 ほら、行くぞ 」


冒険者カードに記載されてる金貨の額を見て、にゃんだかにゃな~、にゃんだかにゃ~と、まだブツブツ言ってるコイネを引きずって冒険者ギルドに移動する。

依頼の完了報告はコイネに任せて、俺はチルと外で待機、中に入ると気持ち悪くなるんだよ。



服飾通りは、冒険者ギルドのある大通りを挟んだ反対側。

オークション用の服を買わないと、それに財布とかバックとかも欲しい。

金貨の入った袋をポケットに入れると、重みでズボンがズレる。


「 どの店から見ますか、マスター 」


「 そうだな。 最初に服、そのあと財布とバックが欲しいな、バックは肩から掛ける様なやつ 」


「 では、服屋からですかね。 あと、水筒も要りませんか? 」


「 買っとくか。 2本は要るんだっけ? バックに入れとくのと、腰からぶら下げておくやつ 」


こっちの世界の冒険者は、バッグの中の水筒から飲むんだと。

最悪の場合は荷物を捨てて逃げるんで、捨てる可能性がある水筒から先に空にするんだそうだ。


「 チルとコイネも新しくしたらどうだ 」


「 今なら余裕がありますし、まとめて買えば値切れますし 」


「 交渉にゃら任せるにゃ! 」  では、任せたにゃ。



近くに在った雑貨屋で、先に水筒を購入。

バックに入れとく大きめと、ベルトに付ける小さめを全員分。

コイネが交渉してくれたが、適正価格が判らないんで、得したのか損したのか不明。

チルは凄く安く買えたって喜んでる。


水に革の臭いが付くのが嫌なんで、革製の水筒はパスした。

衝撃に弱いみたいだけど、臭い水を飲んで体調が悪くなるよりいい。


俺とチルは弾が入ったポーチも付けてるから、腰回りが賑やかになった。



「 次は服だな。 オークション用と、あと街の中で着る服も欲しいか 」


「 街の中ですか? 」


「 街の外に出ない日もあるだろ。 何時もごつい服だと、肩がこるからな 」


チルとコイネは、冒険者っぽい革の鎧を着てる。

俺は神殿が用意してくれた服で、それなりに良い服らしい。

同じデザインだけど、何着もあったから毎日着替えてる。


「 マスター肩がこったんですか? マッサージなら毎日でもしますよ? 」


「 んじゃ、帰ったらお願いできるか 」


服に関係無く肩がこるんだよな。


「 はい、マスター! 」



なんて事を言いながら服飾通りを歩いてたら、ばったりエリザベートとモモに会った。

そう言えば、服飾系の仕事をやるって言ってたな。

コイネの目には、まだ光が戻って無い。


「 ばあちゃん、久しぶり 」 


「 エリザベートと呼んでくれるかい。 エリザでも良いけどね 」


「 ・・・・・・エリザとモモ、久しぶり 」 なぜだろうテンション下がる。



「 それで、今日はみんなで何してるんだい? 」


「 服を見に来たんだ 」


「 服が欲しいんだね。 じゃあ、良い店を紹介するからついといで 」


「 助かるよ、ばあcあ---エリザ 」



案内されたのは、ばあちゃんともう1人のばあちゃんが働いてる店。

お金が貯まるまでは自分の店じゃ無くて、他の店で働く事にしたらしい。


3人分の服と下着を買ったら、金貨21枚だった。

ばあちゃんが紹介してくれた店は、そこそこ高い店だったみたい。


それにしても、服が高いな。

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