第2話 証明
いつもの見慣れた日常の部屋に戻ってくる。
高校になってからは母との一件もあったため、オレは家族と距離を置きつつアパートで一人暮らしをしている。
しかしながら、今日はイレギュラーな一日。
オレ以外の誰も入ったことない部屋に初の来客者が訪れていた。
「相変わらず、質素な部屋だね!」
まるでオレの部屋に入ったことがあるかのような発言を平然とする彼女。
ついさっきまで謎の追手から逃れるため一緒にオレと全力ダッシュをしていたばかりであった。
とりあえず、オレの部屋が一番安全だということで一緒にここへ辿り着いた次第である。
ちなみにあの黒ずくめの大男の正体は謎のまま。
今となっては緊張感がほぐれたのか、彼女はリビングのソファへ腰をかけ、足をブラブラさせている。
とりあえず、オレはお茶を準備し、彼女の言葉に反応する。
「相変わらずって、はじめて部屋にあげたと思うのだが」
「そりゃ、この時代のシンの部屋に来るのは初めてだけどさぁ、どことなく一緒なんだよね」
何故か節々噛み合わない会話。
人と話す機会が少なかったためかコミュニケーション力が著しく低いオレであるが、それにしても色々と噛み合わない。
オレがお茶を差し出すと、そのまま彼女は両手でコップを持ち上げ、お茶を飲み出す。
落ち着いた時間がしばし流れる中で、オレは彼女の向かいに座り、次々と沸く質問を彼女にぶつける。
「この時代というのはなんのことだ?それになぜオレの名前を知っている?」
「ぶふっー。ちょっちょ、ちょっと待って」
オレの発言を聞き、お茶を吹き出し、咽せ始まる彼女。
足のぶらつきを止め、真顔でオレの顔をマジマジと見つめる。
「えーと、もしかして私とはじめましてって言うんじゃないよね?」
「あぁ、はじめましてだ」
いや、そりゃはじめましてであろう。オレの記憶では間違いないく見覚えのない顔である。
しばらく間があった後に、
「エェッぇ!じゃあ、なっなっ、なんであのタイミングで私を助けたのよっ!」
咄嗟に彼女は大声で慌てふためく。
「なぜと言われても……。偶然見かけて、助けろって声が頭に急に来たというかなんというか」
オレにも確かな理由が上手く伝えられず、しどろもどろになってしまう。
「マジでっ?」
「あぁ、マジだ」
オレの回答を聞き、何やら頭を抱え出す彼女。
「えっ、そんな偶然って……、っていうか、一緒に逃げ出したこともマズかったのかな」
何やらブツブツと独り言をつぶやいている。
どうやら彼女にとってもかなり想定外な答えだったらしい。
これはお互いに整理の時間が要するであろう。
そうこう考えているうちに、彼女は咄嗟にソファーから立ち上がる。
「あぁー、もういいわ!よく聞いてね」
何やら勿体ぶるように間を作るミカゲ。オレも彼女が口を切るのを待つ。
「私の名前はミカゲ、未来からやって来たの」
「未来?」
「そう。だからあなたのことも知っていたのよ」
彼女の発言に対し、嘘を真っ先に疑うが、何故かいつもの違和感がこない。
これは、まさかと思い、咄嗟にミカゲの額にオレの手を当てる。
「ちょっちょっと何するのよ」
オレの手を払い、慌てふためくミカゲ。
「熱でもあるのかと思ってな」
「いやいや、至って健康だわよっ!」
不満そうにほっぺを膨らます彼女。
「そうなのか」
「も〜じゃあ、分かった。今から未来から来たって証明してあげるわ!」
ミカゲは再びソファに腰を深くかけた後、あたりを見回し考え込む。
「うーん、そうだなぁ」
なぜかテレビのリモコンに手をのばすミカゲ。
「シンてさ、夕方アニメとか好きだよね〜」
「なっ、なぜそれを!?」
「割と可愛いとこあるんだよね〜」
さっきまでの緊迫した事態ですっかり頭から外れていたが、確かにオレはいつもこの時間帯に欠かさずアニメを見ている。
夕方アニメも特に誰かと関わらなくて楽しめる娯楽の一つだ。映画同様にかなりの作品を鑑賞している。
だが、誰にも明かしたことのない趣味を彼女に言い当てられてしまうことからも分かる通り、やはり彼女とオレは何かしら関係があるのであろう。
部屋のテレビの電源をそのままつけるミカゲ。
「あ〜、やってるやってる」
どうやらちょうど番組が始まったようだ。
いつも火曜日のこの時間帯には「突撃戦隊スペースレンジャー」が放送されている。
しかも、前回は山場のバトルで終わっていたところだったので続きが気になるところだ。
だが、先ほどまでの事態を考えると、どうもそっちの方が気にかかってしまう。
「こんなのんびり見てていいのか。そのさっきのヤツとかは大丈夫なのか」
「大丈夫、大丈夫。シンの部屋なんてこの時代のヤツらからしたらノーマークだし。しばらくゆっくりしましょ」
オープニングが始まり、オレもテレビを見るためにミカゲの隣に座る。
集中して見ていると隣から密かな笑い声が溢れる。
「どうした?」
「あっ、いや、やっぱりシンはシンだなって」
「どういう意味だ?」
「この番組シリーズホント好きなのよね。大人になってもずっと見てるし」
「いや、この番組はだな、ただの子ども番組ではなくて」
「ハイハイ、それも何回も聞いたわよ。ただの子ども番組じゃなくて、勧善懲悪をテーマにした大人にも刺さるテーマなんでしょ」
「なっ…、その通りだ」
まさに言おうとしていたことをおうむ返しのように彼女から離され、声が出なくなってしまう。
番組ではオープニングが終わり、本編が始まる。
ミカゲもテレビに視線を向ける。
「あーこれ見た見た!そうそうこの話でヒロイン死んじゃって主人公闇落ちしちゃうのよね」
「はっ、んなバカな話」
そうこう話していると、ヒロインが刺されるシーンが急に訪れる。
「なっ!?」
「でしょ〜」
先ほどから驚きのあまり、短いリアクションしか取れないでいるオレ。
「まさか、番組関係者か」
「いや、なんでそうなるのよ。だーかーら、未来であなたに何回も見せられたのよ」
ここまで来るとやはり彼女の言うことを信じてみたくなるものである。
一つ気がかりなことを彼女に尋ねる。
「未来ではその、オレは、キミの友人だったのか?」
友人というものがどういうものか分からないが、それらしい思いついた言葉で質問をしてみる。
「友人というか何というか……」
なるほど、友人ではないのだな。
「嘘はつかなくていい、オレにはどの道分かってしまうから」
「いやそうじゃなくて、えーと、その、もっと大事な人って、いうかなんというかね……」
語尾に連られて弱々しく話す彼女。
「えっ」
彼女からの予期せぬ言葉に上手く反応できずにいると、
「あぁぁー、もう!そういうことは察しなさいよ」
ソッポを向くミカゲ。
「えーと、察しろというのは」
再び、色々と戸惑っているとまた何かを思い立ったように立ち上がるミカゲ。
「まぁ、未来から来たってことは信じてくれたようだし、ヨシとしましょうっ!」
「あっいや、信じたというかなんというか」
ミカゲは言い淀んでいるオレの言葉を遮り、
「というか、お腹空いたでしょ。せっかくだし、ご飯作ってあげる!」
「まだ聞きたいことが色々とあるのだが……」
「とりあえず、込み入った話はあとあと!」
オレの話を聞かず、楽しそうに冷蔵庫を開けるミカゲ。
なんだか彼女の言われるがままな感じになっているが、彼女と話していて別に悪い気はしない。
目の前で笑う彼女は眩しく、色あせていたオレの時間を変えようとしていた。
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