私の居場所 120

「寒川さんだっていつもギターを弾いてるんだ。寒川さんがいつも弾いてるギターはアコギだけど、真土さんのエレキギターを聴いたらびっくりするするぞ、きっと!?」

 日向隊員はそう思うと、タブレットで動画投稿サイトに入りました。自分と真土灯里と明石悠で行ったストリートライヴ。その映像がここにあるのです。ライヴを見てたオーディエンスがあげたようです。

 日向隊員はニヤッとすると、タブレットに触れました。映像開始。

 1曲目が聴こえてきました。日向隊員は再びタブレットに触れ、音量をあげました。印象的なギターの音色。寒川隊員はその音声を聴いてはっとしました。すぐに心臓がドクン、ドクン。呼吸も速くなりました。

 流れてきた曲はI Was Born To Love You クイーンの名曲です。真土灯里にとってこの曲は、彼女と彼女の父親真土勝之をつなぐきずなのような曲。別の言い方をすると、真土灯里のテーマ曲。ライヴの1曲目は必ずこの曲でした。

 しかしです。寒川隊員にとっては忌まわしい曲でした。これはダメだ! 寒川隊員は両手で机をバーンと叩くと、立ち上がりました。日向隊員はそれを見てびっくり。

「ええーっ!?」

 寒川隊員は立ち上がると、引き分けの自動ドアを開けました。その背中から不機嫌なオーラがあふれ出てます。

 自動ドアが閉まりました。

「ちょ、ちょっと待って!?」

 日向隊員は慌てて寒川隊員を追い駆けました。


 地下廊下。自動ドアが開き、日向隊員が飛び出してきました。

「寒川さん!」

 寒川隊員は背中をこちらに向け、佇んでました。その背中からは相変わらず不機嫌なオーラがあふれ出てます。日向隊員は寒川隊員に歩き寄りながら、

「私、何か悪いことしましたか? もし何か悪いことしたなら謝ります!」

 すると寒川隊員は近づいて来る日向隊員の気配を感じ、

「来んなーっ!」

 その怒声に日向隊員は、思わずびびりました。

「ええ!?・・・」

 寒川隊員は思いました。何やってんだ、オレ? 日向にはなーんの関係もない話だろ? けど、あの曲をまた流されたら、オレ、たまんねぇんだよなぁ・・・

 日向があの真土勝之の娘に出会ったときから、なんとなくこんな日が来るんじゃないかと思ってたが・・ こうなったら全部話さないとダメか?・・・

 寒川隊員は振り返ると、日向隊員の眼を見ました。

「日向、オレの昔話を聞いてくれるか?」

「あ、はい!」

 寒川隊員は視線をずらし、

「オレは中3のときに初めて尾崎豊の曲を聴いた。あの頃のオレは毎日毎日ダラダラと暮らしてたが、尾崎の曲を聴いてものすごい衝撃を感じた。まるでハンマーで殴られたような気分になったんだ。

 尾崎の歌を全部覚えないといけないと思ったオレは、アコギを買って毎日毎日練習した。中学校を卒業するころには、すべての尾崎の曲を弾けるようになってたな。

 高校生になるとオレは軽音部に入った。その軽音部には元々強いリーダーシップを持った部長がいたらしいが、そいつが卒業したせいか、方向性が定まってなかった。オレが尾崎をやりたいと言ったら、その通りにしてくれたよ。

 そのうちオレたち軽音部はライヴにも出るようになった。客は最初はまばらだったが、次第に増えていき、2年に進学するころにはフルハウスになってたな。すべてが順調だった」

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