私の居場所 116

 真土灯里の質問に高浜さんが応えてます。

「デビューする気も何も、そういう約束で上京したんだよ、オレたちは。けど、いろいろと丸め込まれて、結局向こうが用意した曲でデビューすることになったんだ。

 その曲はゴールデンタイムのドラマの主題歌にもなった。そんなにお膳立てされると、その曲はヒットして当然だった。最高順位は9位だったから大ヒットとまでは言えなかったけど、幸先いいスタートとなった。

 けど、またいざこざが起きた。プロデューサーは2曲目も提示してきたんだよ」

 真土灯里は再び質問。

「2曲目も他人が作った曲だった?」

「あっ、その通り。

 君のお父さんは大爆発したっけな。オレたち他のメンバーも納得いかなかった。けど、プロデューサーに完全に拒否されてしまった。高校出たばかりのお前たちじゃ、ヒット曲は到底作れないだろって。自尊心も折られてしまったよ。

 結局2曲目もプロデューサーに言われるままレコーディングした。けど、その曲はぜんぜん売れなかった」

 真土灯里。

「ああ、父が言ってましたね。2曲目はタイアップが小さかったって?」

「ああ、その曲はCMソングに採用されたが、あんまりメジャーな商品じゃなかったせいか、反響は芳しくなかった。結局この曲は40位以内に入ることさえできなかった。

 けど、オレたちはこれはチャンスだと思った。事務所の社長にこう言ってやったんだ。オレたちはオレたちが作った曲じゃないと、真の実力は発揮できないて、ね。

 うちの社長はこの訴えを受け入れてくれた。3曲目は事実上オレたちのセルフプロデュースとなったんだ。オレたちは天国にも昇る気分になったっけな。

 でも、その曲はこれっぽっちも売れなかった。事務所もいろんなところに頭を下げてくれたらしいが、あの名物プロデューサーを切ったオレたちについてくれる企業はなかった。

 それからの真夜中のノックは悲惨だった。曲はぜんぜん売れない。コンサート開いても、人はまったく入らない。そのうちレコード会社からも所属事務所からも契約打ち切りの通知がきた。

 オレたちはプロデューサーの言う通り、本当に青かったんだろうなあ・・・

 そうこうしてるうち、プロデビューして2年目が近づいてきた。実はオレたちはデビューする直前、久領の両親と大事な約束をしてたんだ。丸々2年やって大成しなかったら、久領を親元に返すという・・・」

 オンラインの画面の中の久領さん。

「オレの両親はね、地元じゃ有名な建設会社をやってて、オレを継がせる気でいたんだ。だからオレのバンドデビューには反対だった」

 高浜さん。

「オレたちはどうしても5人でデビューしたかった。だからみんなで久領の家に行って、久領の両親にかけあったんだ。オレたちは粘りに粘って、2年で成功しなかったら久領を家に帰すという約束でなんとかOKをもらったんだ」

 久領さん。

「けど、2年やったけどぜんぜん売れなかった。ま、最初の曲はそこそこ売れたけどね」

 代官さんは苦笑して、

「ふ、あれはノーカンだろ」

 高浜さん。

「久領のタイムアップがだんだん近づいてきて、誰かがその話をぽつりと口に出すと、千石と代官もやめたいと言い出してね」

 千石さん。

「あんときのオレは、あまりにも売れないものだから、バンドに嫌気がさしてたんだ。これを機に音楽やめようと思ってね・・・」

 代官さん。

「右に同じく」

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