私の居場所 90

 日向隊員が身上げると、 そこには隊長がいました。

「え、隊長?・・・」

 隊長はドアノブを握ってます。

「これでいいのか?」

 日向隊員は苦笑。

「はい」

「お前も大変だな」


 病室。開いたドアから日向隊員と隊長が入ってきました。日向隊員は相変わらず両てのひらでペタペタと歩いてます。隊長はそれを見て、頭の中がもやもやしました。日向隊員はベッドに向かいます。

 ベッドの脇には踏み台が置いてあり、日向隊員はその台を両てのひらで踏みしめ、ベッドに上りました。

 ベッドの上にはエレキギターが立て掛けてあり、日向隊員はそれを掴むと弾き始めました。隊長はそれを見て呆れました。

「おいおい、いきなりギター弾くのか?」

「あは、昨日真土さんからミュートの仕方教えてもらったんですよ。忘れないうちに覚えておかないと!」

「はぁ?・・・」

 それを聞いて日向隊員は、隊長が質問してきたと判断しました。ま、実際は、

「何考えてんだよ、こいつ」

 という意思表示だったのですが。

「例えば3弦を弾くとします」

 日向隊員はコイン|(ピック)を右手で持つと、左手で3弦を押さえ、コインで3弦を爪弾きました。

「アコギだったらこのように単純に3弦だけを弾けばいいのですが、エレキギターだとそれじゃダメなんです」

 日向隊員は再び3弦をコインで爪弾きました。ピーンという乾いた音が病室に響きます。

「一見すると3弦だけしか鳴ってないように聴こえますよね? けど、実は他の弦も鳴ってるんですよ。共鳴ていうやつです。

 あは、ここじゃ音を出す(アンプにつなげる)ことができないから、説明しづらいなあ・・・

 電気的に音を拾ってしまうエレキギターだと、共鳴した他の弦の音も拾ってしまうんですよ。そこで全部の弦をミュートしないといけないんです。

 ミュートていろんな方法があるんですけど、私はセーハでやることにしました」

「はぁ、制覇?」

「いや、制覇じゃなくってセーハですよ。眉毛ていう意味です」

 日向隊員は左手人差し指で全弦触れて、

「こーやって人差し指で軽~く全部の弦に触れるんです。そうすれば雑音が出なくなるんです」

 ギターに興味がない隊長は、もうちんぷんかんぷん。呆れたって顔になってしまいました。けど、日向隊員はギターを弾くことに夢中で、そんな隊長の表情に気づかれずにいました。

 隊長は、

「ちょっと意地悪でもしてやんか・・・」

 と思うと、日向隊員に話しかけました。

「お前、テケテケという都市伝説、知ってるか?」

「え?・・・ なんですか、それ?

 あ、そう言えば聞いたことある! 日本に初めてエレキギターが入ってきたころ、みんな、エレキギターのことをテケテケと言ってたって!」

 隊長はまたもや呆れました。

「お前、そんな古いこと、よく知ってたなあ。なのにテケテケを知らないのか? ちょっとスマホで調べてみろよ、テケテケを!」

「え~?」

 日向隊員はスマホを持つと、テケテケを検索。すると・・・

 スマホを見てる日向隊員の顔色が急に変わりました。隊長はそれを見て、ニヤッと笑いました。

 日向隊員が見ているスマホの画面には、腰から下がちぎれたように無くなってしまったセーラー服の少女が、両てのひら、もしくは両ひじで地面を踏みしめ突進してくるイラスト、または写真が多数載ってました。

 そう、それは先ほど日向退院が廊下を歩いてた姿そのものなのです。

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