侵略者を撃つな! 34

 基地内の廊下。1つのドアが開きっぱなしになってます。フィッティングルームのドアです。隊長はそのドアのすぐ横の壁をノックして、部屋の中に話しかけました。

「どうだ、日向?」

 すると部屋の中から、

「あ、隊長、すみません。背中のファスナー、上げてもらえませんか?」

 の声が。隊長がフィッティングルームに入りました。中では日向隊員がつなぎの隊員服に着替えてる最中。ほぼ着替え終えてますが、背中が大きく空いてます。隊長は呆れたという顔を見せ、

「いいか?」」

 と言うと、後方から日向隊員の左肩を左手で掴み、右手で背中のファスナーを一気にグイッと上げました。日向隊員は振り返り、

「あは、すみません」

「これくらい1人で着てもらわないと、あとあと困るぞ」

 隊長はふと日向の足下を見ました。日向は今靴を履こうとしてるのですが、それは日向がさっきまで履いてたスニーカー。隊長は上溝隊員を思い浮かべ、

「あいつ、シューズの説明もしなかったのか?・・・」

 次に声を発しました。

「あ、ちょっと待て」

 隊長は廊下に出ました。それを見て日向隊員は頭に?を思い浮かべました。

 隊長はすぐに戻ってきました。その右手には1組のシューズ、左手には1組のグローブがありました。隊長は日向隊員の足下にそのシューズを置きました。

「これが専用のシューズだ。履いてみろ」

「はい」

 日向隊員はそのシューズを履きました。隊長は今度は日向隊員にグローブを渡しました。

「これが専用のグローブ」

「はい」

 日向隊員は両手にそのグローブを装着しました。隊長。

「あとヘルメットていうものがあるが、お前は首が長いからな。特注するしかないか・・・」

 日向隊員は床に無造作に置かれた着替える前の衣服を抱え上げ、

「あの~ これ、どうすれば?」

「ついて来い」

 と言うと、隊長は廊下に出て、歩き始めました。日向隊員も隊長に続きます。

 歩く日向隊員の脳裏にさっきの上溝隊員の舌打ちが、何度も何度も再生されてます。これはたまりません。日向隊員は意を決すると、隊長に質問しました。

「あの~ 私、ここでも嫌われてるんですか?」

 隊長は「ああ、あいつ、やっぱり・・・」と思うと、立ち止まり、振り返ることなく応えました。

「上溝に意地悪されたか?」

 日向隊員も立ち止まりました。その眼に涙があふれてます。隊長の発言が続きます。

「上溝が嫌いになったか? 困ったなあ・・・ じゃ、テレストリアルガード辞めるか?」

 日向隊員はいくつかの顔を思い浮かべました。父方祖父母、母方祖父母、その他親戚・・・

 クラスメイトをイジメて自殺に追い込んでしまった日向隊員を引き取ってくれる人は、1人もいないような気がします。

 日向隊員はぽつりと言いました。

「私の居場所って、今ここしかないんですよね」

 隊長は応えません。日向隊員は言葉を続けます。

「ここもダメなら・・・ あは、私もあの世に逝った方がいいのかなあ?・・・」

 隊長は今度は振り返り、応えました。

「あの世にはいつでも逝ける。それまで少しは苦労してみたらどうだ。このままあの世に逝ったら、君はただの敗北者だ。敗北者で終わっていいのか?」

 日向隊員は唇を噛みながら考えました。そしてぽつりと言いました。

「・・・もう少しがんばってみます」

 隊長は振り返り、正面を見ました。その顔はちょっと笑ってるようです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る