赤ン坊殺しの英雄 13

 それから何十分経ったでしょうか? シェルターの中の人々はみんな沈んでました。地上の家族のこと、地球の未来のことを考えると、心配で心配でどうしようもない雰囲気になってるようです。その中にあって眼光鋭い人が1人います。橋本さんです。橋本さんはベンチに座って支給されたペットボトルのお茶を飲んでました。

 その橋本さんの視線の先には大男がいます。大男は出入り口の観音開きのドアのノブを握りました。

「熱くない・・・ もう外に出ても大丈夫だな」

 大男はドアを開けました。それを見た男性2人が、

「外に出るんですか?」

「自分も行きます!」

 橋本さんもそれを聞いて、

「オレも行くよ」

 こうして4人が偵察に行くことになりました。


 4人が階段を上がります。大男が先頭で殿(しんがり)は橋本さん。橋本さんの脳裏には先ほどの恨みがあります。隙あらば大男をサバイバルナイフで刺し殺すつもりでいます。


 4人が地下1階の駐車場に入りました。駐車してあった車両はすべて燃えて灰のようになってました。男性の1人がそれを見て、ぽつりと言いました。

「こいつはひでーや・・・」

 橋本さんは自分が乗ってきたクルマを見ました。このクルマも灰のようになってました。橋本さんは愕然。

「ち、これ、6百万円もしたんだぜ・・・」


 4人が地上に続くスロープを歩いてます。いよいよ外の景色が見えてきました。

 外は灰色の世界。まったく色がありません。右側を見ると隣りのビルが倒れていて、道路をふさいでます。遠くにもいくつか倒壊してる、または倒壊しかかってるビルが見えます。それ以外のビルも外壁がすべて高温で焼かれていて、コンクリートが剥き出しになってます。すべての窓ガラスはなくなってました。熱風で熔けてなくなったのか、爆風で吹き飛ばされたようです。

 路上には何台か車両があるのですが、激しく燃えたらしく、原形をとどめてません。爆風で吹き飛ばされたらしく、歩道に転がってる車両もあります。またコンクリートなどのガレキも、ちょぼちょぼと散らかってました。

 男性の1人がつぶやきました。

「な、なんてひどい・・・」

 大男がそれに応えました。

「核兵器1発でこんなになっちまうなんてな・・・」

 大男は左手側を見ました。そこには交差点、四つ角がありました。

「よーし、あっちに行ってみよう!」

 4人は四つ角に向かって歩き始めました。


 4人が四つ角を廻りました。ちょっと歩くと、道路の向こうに数人の人影が見えました。それに最初のに気づいた男性の1人が、

「あ、人がいる!」

 男性は手を振り、

「おーい!」

 と、人影に大声で呼びかけました。すると人影はライフルのようなものを構えました。橋本さんはいち早くそれに気づき、

「バカ! あれは味方じゃないぞ!」

 光弾が飛んできました。大きく手を振ってた男性が、あっという間にハチの巣に。唖然とするもう1人の男性。

「ええ、敵兵?」

 大男もびっくりしてます。

「おいおい・・・」

「ちっ、逃げよう!」

 橋本さんは180度振り返り、全速力で駆け出しました。他の2人も逃げます。が、

「うがぁーっ!」

 その悲鳴を聞いて橋本さんは、横目で後ろを見ます。後ろでは胸を撃ち抜かれた大男が、倒れてる最中でした。橋本さんはそれを見て、ニヤッとしました。

「ふふ、手間が省けたぜ! ザマァ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る