橋本隊員奪還作戦 3
ここは競馬場です。今はメインレースの真っ最中で、馬群が4コーナーを廻ったところです。
「よーし、そのままっ! そのままーっ!」
芋を洗うような満員の観衆の中に物凄く熱い声を張り上げてる男性がいます。橋本隊員、いや、橋本元隊員です。
先頭を走ってた馬がそのまま1着でゴールイン! すると思った瞬間、後ろから猛然と追い込んできた馬がゴール寸前で交わしてゴールイン!
「くそーっ!」
橋本さんは握りしめていた競馬新聞をコンクリートの床に叩きつけました。
たくさんの人が競馬場の中から掃出されてきました。その中に橋本さんの顔がありました。橋本さんは苦虫を噛み潰したような顔をしてます。
橋本さんはふと眼の前の看板を見上げました。パチンコ屋の看板です。橋本さんはなんとなくそのパチンコ屋の中に入っていきました。
ま、こんなときはたいてい負けるものです。橋本さんはしょぼくれた後ろ姿でパチンコ屋から出てきて、はす向かいの中華料理屋に入りました。
橋本さんが頼んだものは瓶ビールと餃子。あとは漬物。テーブル席でそれをちびりちびりとやり始めました。するとそこに、
「だいぶ負けがこんでるようですねぇ」
との声が。それは男の声でした。その声の持ち主が橋本さんと相対するように座りました。橋本さんはその男をあえて見ないように横を向いてコップにビールを注ぎました。
「ふっ、相席お断りだ。席はいくらでも空いてんだろ。あっちに行ってくれないか?」
男は50代後半から60代て感じの、いかにもそれらしい容姿でした。
「これだけ負けが込むと、懐が淋しくなるんじゃないですか?」
「残念。オレは元々高給取りだったんだ、金にはまだまだ余裕がある」
「テレストリアルガードて、そんなに給料がいいんですか?」
この男、橋本さんがテレストリアルガードの隊員だったことを知ってるようです。どうやらよからぬ存在のようです。
橋本さんは何事もなかったようにコップから唇を離し、ここで初めて男を見ました。
「そろそろ本題に入ったらどうだ」
「ふふ、じゃあ単刀直入に言いましょう。あなたが知ってるヴィーヴルのオーバーテクノロジーを我々に教えてもらいたいんですよ。もちろんそれなりの報酬は出しますよ」
男はついに本性を現しました。けど、橋本さんの顔色はまったく変わってません。
「ふっ、残念。オレに訊いたってムダだ。オレはただ機械をいじくってただけだ。中身がどうなってるのか、一度も見たことがないんだよなあ」
「でも、あなたはヘロン号を自由自在に飛ばすことができるんですよねぇ。ある程度仕組みを知らないとそんなことはできないんじゃないですか?」
橋本さんはついに顔色を変え、語気を荒げました。
「知らないと言ったら知らないんだ! あんた、もう帰れ!」
「ふふふ、そうですか。じゃ、出直して来るとしますか」
男は立ち上がりました。橋本さんは何事もなかったように、餃子にかぶりつきました。
満月の下、橋本さんはシティホテルの中に入って行きました。かなり安っぽいホテルです。橋本さんは自分が借りた部屋に入ると、どかっとベッドに仰向けに倒れこみました。
橋本さんは毎日毎日こんな怠惰な生活を送ってます。もちろん橋本さん自身、こんな自堕落な生活はよくないと思ってます。橋本さんは預貯金をかなり持ってますが、それもそのうち尽きます。
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