第48話 狂戦士アンと白猫ノーラ

 囲まれたシールドを叩きながら必死で叫ぶアンの目の前ジョシュアの体は膝から崩れ落ち、地面へとゆっくりと倒れ込んで、ピクリとも動かなかった。

「ジョシュ!嫌よ、ジョシュ!」


「……今のは上出来だ。危いところだったよ」

 焼けただれた姿の怪物がゆっくりと起き上がると、ジョシュアを見下ろしてぼそりと呟いた。

「何よあいつ……不死身なの⁈ジョシュ、起きて!早く逃げて!」

 アンの叫びも虚しく、怪物は意識不明のジョシュアの身体を片手でつかむと、顔の前まで軽々と持ち上げてぶらぶらと揺さぶった。

 半分以上が炭化した顔の中でぎらりと鈍い輝きを放つ両眼には、ジョシュアに対する力強い憎悪がはっきりと伺える。


「やめて!ジョシュから手を離して!」

 なんとかジョシュを助けようと激しく暴れるアンだったが、流石に防御結界の中でも最強クラスの金剛結界オリハルコン・シールドはビクともしない。

「ふん。命知らずの若者の勇気ー蛮勇と呼ぶべきかな?ーにふさわしい結末を用意しよう」

 怪物は焼けて肉がそぎ落ち、巨大な牙がむき出しになっている口を大きく口を開けた。


「やめて!お願い!やめてってば‼︎」

 泣き叫ぶアンをちらりと横目で見ると、怪物は引きつった笑みを浮かべ冷たく言い放った。

「強者のエサとなるのさ」

 まるでフライドチキンを頬張るようにジョシュアの体を両手で持つと、鋭い牙で噛み付いた。

「ぐわああああああー!」

 あまりの激痛に意識を取り戻したジョシュアの口から、大量の血とともに悲痛な叫びがこぼれ、体が激しく痙攣するのがアンにも見えた。

「嫌あ!やめてー!!」


「食事を彩るのにふさわしい、いいBGMだ。すぐには殺さない。ゆっくりと噛み砕き、血肉を味わせてもらうよ」

 怪物がジョシュアをくわえた顎に再び力を込めようとしたその時、衝撃音が辺りに響いた。


「やめろって言ってるだろおおおおおっ!」

 そこには、あらゆる衝撃や魔法攻撃にも耐えるはずの金剛結界オリハルコン・シールドを粉みじんに打ち砕き、鬼神の形相で仁王立ちするアンの姿があった。


「これは……!あの結界を内側から破壊するとはー」

「おおおおおおおおおお!」

 驚いた怪物の言葉が終わらないうちに、野獣の咆哮のような叫び声とともに一直線に突っ込んだアン右の拳が、ジョシュアを抱える怪物の腹部に炸裂した。

「!!!!!」

 一撃で胴体がえぐれ、大量の肉塊が飛び散った。

『な、なんだこれは……』

 あまりの衝撃に茫然とし声も出せず、怪物は地面に座り込みくわえていたジョシュアを落とした。

 だが、アンは負傷したジョシュアに見向きもせずに怪物に襲いかかる。

「ウオオオオオオ!」

 叫びながら繰り出すアンの攻撃は凄まじく、反撃する猶予も与えぬまま一撃ごとに怪物の肉体を破壊してゆく。


『こ、こんなまさか!狂戦士バーサーカーとして覚醒したのか?血が混じり、雑種化したはずの個体が先代アーサー並みの能力ちからを秘めていたとは!』

 唸り声をあげ、血まみれになりながら容赦無く攻撃を続けるアンに恐怖を覚えた怪物は、なんとか逃れようとするが、アンはその体を万力のような握力でつかんで離さない。

「た、助けてくれ、お願いだ!」

「死ねええエエエエー!」

 アンの全身を包むオーラが炎のような深紅から怒りのあまりドス黒く変化し、怪物を真っ二つに引き裂こうとしたその時、鋭く力強い声が響いた。

「そこまでよ!」


 一匹の白猫が、怪物とアンの間に突然現れると美しいオッドアイでアンを見つめて諭すように告げた。

「アン、もう充分よ。冷静になりなさい」

「ジャマをするなああああー!」

 怒りの形相で白猫を殴りつけようとしたアンに、白猫の強烈なビンタが炸裂した。

 バチーン!!

 一瞬、星が飛んで目が回ったアンだったが、その衝撃で我にかえった。

「……え、ええ?あれ?」

「少しは目が覚めた?」

「ウソ!あなた……まさか……アーサーおじちゃまと一緒だった、白猫のノーラ⁈」

「そんなことは後。先にジョシュアを助けるわよ」

「あー!!ああ、そうだ!ジョシュ!!」

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