第28話 ようこそ白猫亭へ part3
『やっと面子が揃ってきたな……一年がかりの計画も、最終局面に近づいた訳だが、後は……』
ホルストの組曲『惑星』が流れるロビーで、革張りのソファに深く腰かけ考えを巡らせていたジョシュアだったが、ガチャリと言う廊下の扉の開く音で我に返って顔を上げた。
そこにはブロンドの長い髪をひとつにまとめてアップにし、水色の生地にアサガオが描かれたレトロ調の浴衣に身を包んだ風呂上がりのアンが立っていた。
「…………!」
熱いお風呂で頬を薄紅色に上気させたノーメイクのアンは、同年代のヨーロッパの女性たちと比べるとずっと幼く見えるのだが、同時にどこか儚く神秘的な雰囲気を漂わせ、社交界で若きプレイボーイと呼ばれるほど浮名を流し女性慣れしたはずのジョシュアも一瞬言葉を失った。
アップテンポで勇壮だった『惑星』のメロディーが、スロウな木星(ジュピター)のパートへと移っていく。
雰囲気に飲まれかけていたジョシュアだったが、ハッと我に返ると立ち上がり、アンに近づきながら手を差し伸べた。
『え、えっと……少しは落ち着いた?アイスティーでも飲む?』
だがアンは一歩下がると、ジョシュアの差し出した手を振り払った。
『来ないで!まだ信用したわけじゃないんだからね!』
『落ち着いて。お願いだから、僕の話を聞いてくれないか?』
『近づかないでって言ってるでしょ!あんたもあの狼男やゴリラ男の仲間じゃないの⁈』
そう叫ぶと同時に、威嚇のようにジョシュアの顔寸前に右の上段蹴りを放ったアンだったが、足を滑らせてしまい、浴衣を豪快にはだけーーいろいろ全開にしたままーーひっくり返ってしまった。
あまりのあられもない姿に、ジョシュアは顔を背けそっと話しかけた。
『……大丈夫?』
『見たわね?見たでしょ⁈ヘンタイ!』
あわてて起き上がり、浴衣を整えながら顔を真っ赤にして訴えるアンに対し、必死で笑いをこらえ横を向いたまま答える。
『見ていないーーとは言い切れないけどーー大丈夫だよ』
『何が大丈夫なのよ!』
『……家族だからさ』
『家族?』
『ああ』
ジョシュアは改めてアンを正面から見つめると、微笑みながら日本語で話しかけた。
「初めまして、アンーいや、杏奈の方がいいのかな。
僕はジョシュア・ウォルズリー。
君の祖母、吉岡・ジョディー=華子の兄妹である
アーサー=太郎・ウォルズリーの孫だよ」
「太郎おじちゃまの……孫⁈」
「そう」
「そして、この『尾道白猫亭』を復元し、君に招待状を送った張本人さ」
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同時刻ーー山の四方から、この白猫亭に対して木々の間を縫うようにじわじわと接近し、包囲網を狭める迷彩服に身を包んだ複数のグループがあった。
「こちらギデオン。各隊応答せよ。発見できたか?」
リーダーらしき者のコールに、各隊から素早い返信が返ってくる。
「こちらサムソン隊、まだ確認できません」
「こちらマカバイ隊、同じく」
「こちらエフタ隊!ウィリアムズ曹長と思しき炭素片と、リック一等兵の所持品を発見!」
「こちらギデオン。エフタ隊、周囲の魔素の測定を急げ」
「こちらエフタ隊。リック一等兵の所持品からはウィリアムズ曹長と同タイプの獣化魔法の魔素の反応が測定されました。おそらくリック上等兵はウィリアムズ曹長により粛清されたものだと判断されます。炭素片の方からは……こ、こんな馬鹿な!信じられない!これはまるで……!」
「エフタ隊。報告を続けよ」
「は、はい!ウィリアムズ曹長と思しき炭素片から、信じられないほどの高濃度の魔素の残留が確認されました!それも……白魔法です!」
「白魔法だと……?」
各隊が息を呑む中、ギデオンと名乗るリーダーの冷静な指示が伝えられた。
「こちらギデオン。各隊に告ぐ。そのまま進行し、目標の邸を目指せ。付近に到着したら、そのまま待機せよ。決して独断で先行するな。相手はウォルズリー家の伝説の守護者である“はじまりの魔女”の可能性が高い。
現場の状況を確認の後、私の指示のもとで一斉攻撃を仕掛ける。殲滅戦になるだろうから、準備を怠るな!」
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