第110話 ゲームマスター ㊴ 三人称
悪魔の所業を行ってきた
この事実に目を見開き言葉を失う高木刑事。
「本当に全く気付いてなかったのですか?そもそも高木刑事は当家の犯罪証拠を見つけようと、あの倉庫に忍び込んだのでしょう」
高木刑事も調査していた清白家と現状の関わりを考えなかったわけではない。
上司に禁止されたので独自調べになるが清白家の悪い噂は多く出てきた。だが、こんな狂気の殺人ショーを行っているなんて噂は当然なかった。
「まぁ、ゲームマスターの演技練習は頑張ったのでポンコツバカの高木刑事が気付かなくても仕方ありませんね」
清白 美優に至っては考えもしなかった。
見た目や口調が違うのも理由だが、何より正真正銘18歳の女子学生だからだ。
男子柔道部全員に勝利したり若手棋士4人に四面指しで勝利したりと、並外れて才を持っていようと、龍宝学園の生徒であることは事実。名門校の通うお嬢様が悪魔と思えるわけがない。
「高木刑事を殺したい理由はお気付きになりましたか?」
「…私が、
高木刑事がしたことと言えば、近衛 天晴の拉致監禁事件の調査。
しかし、
「はぁ~、ここまでも散々言ったのまだ分かっていないんですか…」
「警察官だろうと許可されていないのに権限を使って特定の人物、その家族を探るのはプライバシーの損害。高木刑事がやっていたのは事件の調査ではなく私への嫌がらせなんですよ」
デスゲーム型殺戮拷問ショーを企画したのは仕事だからだが、私情を言えば、
「高木刑事は私に喧嘩を売った。だから絶望の深淵へ突き落して殺すんです」
この一言に尽きる。
「
高木刑事は憎しみだけを原動力に無事の腕を伸ばし紅を掴もうとする。
「先に家族を巻き込んだのはあなたの方でしょう」
紅も憎しみの視線を向けて、伸ばされた腕をナイフで斬り裂く。
一刑事に探られたところで清白財閥への被害は有って無いような微々たるもの。だがどれだけ微々であろうと総帥の耳に入ったなら紅にとって憎むべき対象なのだ。
「では絶望の深淵へと落ちてもらいましょう」
既に高木刑事は絶望している。
ニートボールを見殺しにしてしまい、
愛し合ったオミズに裏切られ、
大切な妹が凌辱され、
憎悪が湧き溢れる相手に今から殺される。
これ以上の絶望など高木刑事には考えられない。
しかし、
「まだ裏切り者を発表していなかったでしょう。もうお察しかも知れませんが、裏切り者は高木刑事」
高木刑事は毛ほども察していない。これはどちらかと言えば観客への言葉。
「あなたは正義を裏切った」
「……悪魔が…
「これも順に説明してあげましょう。まず一つ目、警察の命令に従わなかった」
第三ミッションでのハチグレの「警察に対しての裏切り」はニアピンだった。重要なのは不法侵入や器物破損などの罪を犯した事ではない。
「警察を正義と言うなら命令には絶対に従わなければなりません。なのに禁止された当家を探っていた。ちゃんと証拠もありますよ」
紅が指を鳴らすと巨大モニターにどこかのオフィスが映る。
映る人物は2人、一人は高木刑事。もう一人はデスクに座る上司を思しき相手。
『どうして
『理由をお前が知る必要はない』
『それでは納得出来ません!」
『命令に従え。
という二人のやり取りが再生された。
「名前のところは規制音を入れさせて頂きましたが、この会話に覚えはありますよね高木刑事」
「……何故、
「警察から提供してもらいました。高木刑事の幼少からの情報も同じですよ」
「あり得ない…」
「あり得ますよ。デスゲームは国に認められているんです、そうでなければこんな大掛かりな殺人ショーなんて出来ません」
「バカな……」
「高木刑事の上司から伝言を預かっています「オレは何度も言っただろ、自分勝手な正義で動くなと。命令に従ない部下はいらん」だそうです」
それは本当に上司に何度も言われていた言葉だった。
高木刑事は憎悪と共にこう思っていた。
自分が死んでも、警察がこの悪魔に正義の鉄槌を下してくれる。
だが、その望みは絶たれる。
「二つ目、正義を騙った」
高木刑事が落とされる絶望はもっと深い。
「高木刑事は幼き頃、虐待を行う父親から自分達兄妹を救ってくれた警察官に憧れ、『法を犯す悪を捕まえ、弱きを助ける』正義の警察官と目指した。と、集めた情報にもあるのですが…これ、建て前ですよね」
道端で正義の話をした時から紅は疑っていた、いやほぼ確信していた。高木刑事が掲げているのは建て前で本心は別にあると。
根拠は初対面の時、女子学生の清白 美優に対して見下した言動をしていたこと。見下すというのは弱者と判断しているから。弱きを助けると言っておきながら無意識下で弱者を見下す。建て前と本心がズレている証拠。
そして、幼少時の虐待や過去に関わった事件、清白家を探るこのに固執した理由。多くの情報から紅が導き出した高木刑事の本心は、
「高木刑事は偉そうにしている相手を、警察の力で屈伏させたいだけでしょう」
「っ!?…」
まるで心をハンマーでぶっ叩かれたのようた衝撃を受ける高木刑事。
「あなたは子供を助けた警察官に憧れたんじゃない、父親を屈伏させた警察の力に欲したんです。そして警察官になり力を振るう為に正義を騙っていたんですよね」
気づかないフリをしていた自分の闇を暴かれ心が崩れ落ちていく。
相棒と同じ正義の為に死ぬという望みも絶たれる。
あまりにも深い絶望に耐え兼ね高木刑事は口にしてしまう。
「…だが、私が…結果的に、
「ええ、それは否定しませんよ。正義とは結果ですからね」
紅の正義を肯定する言葉を。
「ですが、正義か悪かを決めるのは結果を知った人々です。なので判定して頂きましょう」
紅は観客席に視線を向け、腕を大きく広げゆっくり回りながら語り掛ける。
「観客の皆様、お手元のボタンに注目ください」
全ての観客席には二つのボタンが設置されていた。電源が入り色が灯る。
一つは赤色。もう一つは青色。
「ここまで見て頂いた皆様に判定して頂きたいと思います。この狂瀾ショーを催した、ゲームマスター紅を正義と思う人は赤のボタンを」
赤色のボタンは紅。
「相棒も妹も助けられず、デスデッチに末横たわる高木刑事を正義と思う人は青のボタンを」
青色はボタンは高木刑事。
押下することで一票入ることになる。
「さぁ、今宵の正義がどちらなのか?皆様ご決断を!」
ドーム型になっている天井の一部が赤色に点灯する。観客が押下した色が反映されたのだ。
次々に色が増えていく。
そして、
赤一色が天井を埋め尽くした。
一人でも正義と思ってくれるなら、そんな望みさえも絶たれる。
「私が正義です」
まさに、絶望の深淵へと突き落された高木刑事に紅が馬乗りになり、
「では、裏切り者のポンコツバカに」
ナイフを振り上げる。
「正義の鉄槌を下しましょう」
”ブシュっ”
(………私が…悪……こんなのが…正義…)
”ザシュっ”
(…どうして……こんな目に…)
”ズシュっ”
(……どこで……間違え……)
”グシュっ”
(私は…ただ……)
滅多刺しにされ息絶えた高木刑事に、紅は仮面を付け直しゲームマスターとして宣言する。
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