第654話 ダイヤ変わる

「じゃ、七菜ちゃんおやすみー」


海織の元気な声が七菜の部屋の前で響く。まあ多少声のボリュームを落としているので良しとするが――声をかけられた方はと言うと……。


「——早く帰ってください」


疲れ切った表情である。何があったかは俺にはもちろんわからないが――海織が大変ご迷惑をおかけしました。と先に言っておいた方がいいだろうか……ということで。


「すぐ引き取ります。ほら海織帰る。クレームが来たから」


俺はニヤニヤ楽しそうにしており。またまだ少し髪の濡れている海織の腕を引っ張り回収する。はい。回収です。


「ホントですよ。加茂先輩。しっかり捕まえておいてください。逃げ出さないようにしてください」

「すみません。ホント」


現在は大学から帰って来てからしばらく後の事である。後輩に怒られている俺というか――まあいいや。うん。とりあえず夕食までは俺の部屋に居た海織と七菜。その後海織と七菜が七菜の部屋へと移動しまして、まあ今の2人の様子を見るからに――まず風呂には入っているだろう。でもそれだけにしてはあれから結構時間が経っているので――風呂に入る前にも何かあったと考えるのが普通だろう。七菜の疲れ方からしても――だからな。いろいろあったみたいで、ついに限界が来たらしく。少し前に俺のスマホに『加茂先輩。早急に彼女さんを迎えに来てください。早く』というご連絡があったため。俺がお隣さんへと海織を回収しに来たところである。

ちなみに先ほどから触れているが2人とも風呂上り――という感じで、うん。どちらも茹でタコではないが――まあ長風呂でもしていたのかね。何かあったのかは聞かないが。うん。まあそんな状況である。


「やっと静かになります」


最後に聞こえた七菜の声。うん今日は大変だったらしい。おかしいな。お酒は夕食時に出てないはずなのだが……酔っぱらいみたいなのが居たのかな――ねえ海織さん。である。そして俺は海織を自分の部屋に。


「はいはい。海織入る」

「いや―。楽しかったよ」

「それは良かったのですが……ね」


俺は靴を脱ぎながら先に室内へと入っていた海織に再度声をかける。


「ホントもう。七菜に迷惑をかけない大学帰りで疲れてるみたいだったし」

「いやいや、楽しかったよ?それに七菜ちゃんも楽しんでいたし」

「海織は楽しそうだけど――七菜は――どうなんだ」


先ほどの様子からでは100%以上迷惑がっていたようにしか俺には見えなかった。


「七菜ちゃんも楽しんでたけどねー。恥ずかしくなったんだよ」

「つまり海織が何かした。100%海織が悪いという事ですね」

「かわいい声で鳴いてたよ?」

「ないていた?」

「鳥が鳴くの鳴くだね」

「——いや、ちょっとわかんないっす。うん。ってか。海織。何してるのか」

「聞いちゃう?聞いちゃう?ちょっと七菜ちゃんに聞こえるように電話でもしながら話そうか?」


ニヤッと顔を近づけてくる海織。うん。迫ってきた迫ってきた。ホント楽しそうだな。である。


「聞きません」

「えー、こちょこちょ楽しかったよ?」

「勝手に話さない」


なるほど。七菜はそれで俺にヘルプを叫んできたとみる。っか。先ほどの2人の様子から勝手に想像すると――このお方。お風呂でなんかしたな。うん。あっ。変な想像はしてませんので。はい。とりあえずまあ困ったお方というのがわかりました。はい。被害者多数ですよこのままいくと。七菜も外れだな。うん。俺の横に来ちゃうとか。


「あっ。そうそう楓君」

「次は何ですかね?」


すると海織が本棚へと向きを変えながら話しかけてきた。


「七菜ちゃんが言っていたから、お風呂の前に調べたんだけどね」

「うん?何を?」

「電車のダイヤ変わるんだって」

「うん?」


海織に言われてふと考える。あー、そうかそうか。大学から帰って来る時に七菜が見ていたのはそれか。そういえばそんな声も聞こえたような聞こえなかったような……などと言うことを思い出した俺だった。


「これは楓君知らなかった様子だねー。珍しいね。楓君がこういう情報をキャッチしてないのは」


何だろう。勝った。というのだろか。満足気な表情をしている海織。が。俺にも言い訳はある。


「——最近誰かさんたちが賑やかですからね。自分の事がすべて後回しになるくらいに――」

「なんか酷い事言われたー。だから今日は楓君を抱き枕に寝ようかなー」

「——それいつもでは?」


うん。いつも。というのはおかしい気がするが――何故か起きると捕まっていることが多々あるんだよなー。まあそれは置いておいて。本棚のところで今の時刻表を手に取る海織の横に移動する。


「まあでも、ダイヤ変更もそろそろあるだろうとは思っていたけどね。最近なかったから。ってか。いつもはここまでボロボロにならない時刻表がボロボロですからねー」


俺はそう言いながら使いこまれた時刻表を見る。うん。ホント今回はよく活躍したというか。うん。この本があったから海織と会ったような――うん。そうだな。俺これを間違って大学に持っていったところから始まったな。って、もしかしてこの本。結構大切にしてあげないといけないのでは?既にボロボロだが――うん。保管必須な気がして聞いた。今更だが――ね。


ってか。マジでボロボロここまで使ったこともなかったかと思う。あっボロボロで言うと、前に中古で買ってきた古い時刻表はボロボロだが――うん。これは綺麗な新品で買ってこれですからね。うん。今回のはマジで使ったである。


俺はしばらくそんなことを思いながら海織の手にある時刻表を見ていた。

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