第626話 とある乗り鉄の人7

「目立ってるんで声のボリューム落とした方が良くないですか?」


何度も何度も僕は、聞く気はないが。やはり隣だから聞こえてきてしまう。話が頭の中に入ってきてしまうということを繰り返しつつ思いながら。何でこのお2人さんは車内ということを忘れたかのようにずっと普通に話しているのだろうか――と思っていると。やっとその言葉が出た!唐突にモデルみたいな男性の口から出たのだった。そうですそうです。モデルみたいな男性さんやっとですね。そうですよ。ここ電車の車内なんですよ。やっとその言葉が聞けた。四日市から乗って来たお知り合いさん遅かったけど――ナイス……うん。結構時間かかったけどナイスである。なんか周りの座席に座っていた人も一斉に頷いているように感じたのは――僕の気のせいかもしれないが。うんうん。やっとその言葉が出ましたよ。


なのだが――。


「マジか!がははははっ」


身体の大きな人。声のボリューム変わらず。むしろ――喜んではないと思うが……なんかさっきより楽しそうな感じになったのだった。


「……理解しているのだろうか――」

「……」


うん。四日市から乗って来たモデルみたいな男性がやっとボリュームに関して言ってくれたが――これは身体の大きな人……理解できているのだろうか?という感じで、モデルみたいな男性の人もちょっと呆れ顔――いや、もしかしたら慣れている?仕方ないと思っているのだろうか?まあそんな顔をしつつつぶやいていた。

まあ僕も今の雰囲気を見ていて――「あっ。こりゃ無駄だな」と思っていたのだったがね。うん。これは諦めて――ぼーっと外を――って、ふと僕が窓の外を見てみると。なんかビル群が近づいてますね。ビル群が見えるということはもう名古屋では?……あれ!?本当にここはもう名古屋の手前では?いつの間に!?だった。

慌てて僕はスマホで時間を確認してみると――15時30分を既に過ぎている。この僕の乗って来た特急の近鉄名古屋駅到着予定が15時37分……うん。特急券にも書かれているので間違いない。つまり――もう終点にこの電車は到着するらしい。通路を挟んで隣に気を取られすぎたからか。近鉄四日市駅を出てからは――桑名駅だけはちょっとだけ記憶にあるのだが。その他の事はない僕だった――うん。桑名名古屋間には鉄橋とかあったはずなんだが……名古屋にもう着いてしまったである。

ま、まあもう一度名古屋線は伊勢中川駅の手前まで乗るから――問題ないか。うん。


15時37分。近鉄四日市駅発車時点では2分の遅れがあったがその遅れはなくなっており。定刻通り電車は地下のホーム。近鉄名古屋駅へとゆっくり到着したのだった。


何が起こったというか。何故か他のお客さんの事が気になりすぎた僕。賢島駅から近鉄名古屋駅までは――電車に乗るのを楽しんだというより。隣の人に気を取られ続けたというか――まあいい。うん。まだこれからがある。この後僕は近鉄名古屋駅16時25分発のひのとり766列車に乗る。うん。これがメインだ。さすがにこの電車に先ほどの2人は――って、自然と僕は他のお客さんに付いていく形で車両の出口へと向かったのだが。なんか混んでいる。詰まっているな。と思ってふと後ろを振り返ってみると――反対側の出口は何故かガラガラで――先ほどの通路を挟んで隣に座っていた2人が歩いており。普通に車外へと出て行ったのだった……うん。みんな偶然かな?たまたま片方に集中したのだろう。電車からの出口は前と後ろに2カ所。たまたま片方の方に集中したのだろう。


「……」


現状――ちょっといろいろと思うことはあったが。とりあえず近鉄名古屋駅到着後僕はこちらでも少し散策をするために切り替えて歩き出す。改札を出てからは時間を気にしつつお土産を買って……お土産購入完了後はいざ!初ひのとりへと乗車するために僕は再度近鉄名古屋駅の改札を抜けて、特急ホームを目指したのだった。


僕が特急ホームへと到着すると、既にお客さんは結構待っていた。さすがターミナル駅。全員が全員大阪方面の電車に乗るのではないと思うが――などと思っていると。警笛が聞こえ。ちょうど深みのある赤色の車両がゆっくりと姿を見せたのだった。


「おぉ、やっぱりいいな」


これは……乗る前から楽しみすぎるである。今までもひのとりの車両を見たことは多々ある。でも乗るのは初めてだ。ひのとりを見た瞬間僕は先ほどまでずっと頭の片隅に何故か登場してきていた身体の大きな人たちの事は綺麗さっぱり忘れていたのだった。だって――これはヤバいだろ。うん。早く乗って車内探索もしたいし。とにかくいろいろみたいしくつろぎたい。ここからはたった2時間強の旅なのでね。

その後僕はワクワクでひのとりの車内へと乗り込み――僕が乗り込んでから数分後。近鉄名古屋駅16時25分発のひのとり766列車はゆっくりと大阪難波駅を目指して走り出したのだった。

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