第43話 礼詞が笑った!?

「で、でも」

 そんなことはないと、ずっと思い込んでいた礼詞には難しい内容だ。

 それに、目標を見失う気持ちにもなる。

「あのさ。お前は何と戦ってんの?」

「えっ?」

 躊躇う礼詞に、路人はクリームのなくなったコーンを突きつけながら訊く。それに、何を言い出すんだと礼詞は怪訝な顔だ。

「そうやって俺ばっかり気にしているけど、研究って、俺との戦いなわけ?」

「・・・・・・」

 そんな問いを投げかけられるとは思っていなかったのだろう。礼詞の目が大きく見開かれる。

「そりゃあ、同じ分野で戦っている限りはライバルだ。でも、同じものをやり続ける必要なんてどこにもない。それなのに、お前は俺を気にし続け、自分の可能性を潰すのか」

 いきなり教授モードで説教を始める路人に、暁良は呆れてしまった。しかし、こうやって正面から向き合える瞬間を見逃さずに、適切な言葉を投げかけるその手腕には、素直に凄いと感心する。

「可能性を、潰すなんて」

「お前は俺より出来る。少なくとも、プログラミングは完璧だ。俺は・・・・・・その点は逃げ続けてしまったからな。もちろん解ってるよ。出来ないって言い訳していることは。でも、お前のように完璧に出来るとは思っていない」

「・・・・・・」

 ううん、認めるのは難しいみたいだな。黙り込んだ礼詞に、暁良も路人も難しいなという顔をする。

 しかし

「お前は、今回の対決で自らプログラミングまでやるのか?」

 そう礼詞が問い掛けてきて、暁良はやったねと思わず親指を立てる。

「そうだ」

 路人はすかさず頷いた。

「そうか。それが、完璧でなくてもか?」

「ああ。ひょっとしたら動かないかもしれない。それでも、やる」

 路人の断言に、礼詞はようやく顔を上げると、ぎこちなく笑った。

 あ、あの仏頂面のハシビロコウの礼詞が笑った!

 暁良は思わずスマホでその顔を写真にしてしまう。

「おい」

「いや、穗乃花お嬢様に見せないと」

 注意してくる礼詞に、いいじゃんと、本当は翔摩たちに見せびらかすつもりだったが、その場で穗乃花にメールしてみせる。

「いつの間にお嬢様のメアドを?」

 それに、路人は何で知ってるんだよと唇を尖らせる。

「この間、たまたま会ったんだよ」

 で、暁良は説明するのが面倒なので大幅省略する。メールを送ると、すぐに穗乃花から電話が掛かってきた。

「凄いわね。どうやったの?」

 穗乃花は開口一番、そんなことを訊く。

「やったのは路人ですよ。取り敢えず、対決は行われるみたいです」

 暁良は苦笑しつつ、ともかく決まったことだけを告げた。すると、穗乃花はくすっと笑う。

「やるんだ」

「みたいですね。どっちも完璧じゃないことを証明するために」

「あらあら」

 楽しそうに笑う穗乃花は、心底ほっとしているようだった。それは二人が仲直りしてくれればいいと、そう考えていたからだろう。

「あのぅ、本当にどっちかと結婚する気あるんですか?」

 だから、思わず暁良はそう訊いてしまった。

「あるわよ。ふふっ、対決の日を、楽しみにしているわ」

 穗乃花はそう言うと電話を切ってしまった。

「なんて」

 電話の間黙っていた路人だが、明らかに不機嫌な声で訊いてくる。そんなに嫌いなのかよ。

「対決の日が楽しみだって」

「ふん。まあいい、まだ遊び足りない! 行くぞ!!」

 取り敢えずの解決を見出せたと、路人は暁良と礼詞の手を取ると引っ張る。

「はしゃぐなって」

「お、おい」

 注意する暁良と、戸惑う礼詞。でも、今までと違って礼詞はその手を振り払うことはしなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る