第20話 結婚って、人生の一大事じゃないのか?
しばらく気まずい空気が流れた。しかし、その間も路人ががつがつとスイーツを食べ進めたため、唯花も悠馬もまた気持ちが緩んだようだ。そして二人揃ってプリンを食べ始める。
「路人。あんまり食うと太るぞ」
が、それでもまだまだ大量のスイーツが載っている状態だ。暁良はそれほど好きでもないがと、マカロンを食べつつ注意する。
「それは大丈夫。どうやら痩せの大食いと言われる種類に入るらしく、昔から食べ過ぎても太らないね」
「――いや、たぶん消費カロリーがでかいんだろ」
どうだろうと悩んだ末、暁良はそう言っていた。一度考え出すと複数のことを同時に考え、そして同時にやっているのだ。これは脳みそが大量の砂糖を消費していると考えるほうが妥当だ。
「ああ、そうかもね。ふむ。新しい発見だ」
路人は暁良の説に納得と笑顔だ。そしてならばもっと食べないとと、今度はジャンボパフェに手を伸ばす。
「しかし何事も適量ってもんがあるだろ? 将来糖尿病になっても知らないぞ」
「それまでに薬が開発されているはずだ!!」
どんな希望的観測? と、暁良は呆れるしかない。
が、路人が力一杯言い切ったのが面白かったようで、二人がようやく笑った。
「ほら。二人だってそう上手くいかないって思ってるぞ」
「ええっ。これだけテクノロジーが発展したっていうのに? 医学も同じように発展してるでしょ?」
路人は違うのかと、本気で驚いている。これに悠馬はまたイメージと違うと悩んでいるような顔だ。一方、唯花はそんな路人に好意的な目を向けている。
「まだまだ治らない病気はいっぱいあるんだよ。ったく」
お前のその抜けた所もなと、暁良はぼそっと言ってしまった。それに路人はしっかり聞こえない振りをしてくれる。くそっ、こういう時だけ都合のいい大人だ。
「変な人」
そしてそこに、こっそり呟かれる唯花の言葉。そう、路人は変人だ。
暁良はだろっと、ウインクしておく。
そうやって、しばらく距離を縮める努力が続くのだった。
その頃。家庭とは何かという謎の問いに陥っていた会議室では、これからどうするかについて話し合われていた。
「で。問題はすでに路人が知ってしまったということだ。ということは、一応は見合いの席を設けるしかないだろ?」
違うのかと、穂波は紀章を見た。最も避けたかった事態だと、紀章は渋い顔だが頷くしかない。
「ええ。相手方の顔もあります。それに、ええ」
色々と言いたいことはあるが、ここは飲み込むしかない。そんな紀章の葛藤が、今の返事に現れていた。佑弥は少し溜飲が下がる思いだった。
そもそも、佑弥があの科学者狩りをして路人と礼詞を困らせようと考えたのは、この紀章に端を発している。
紀章は基準が何かとあの二人なのだ。それは最初に教えた二人であり、今の飛び級制度の象徴のような二人だ。比較されることは仕方ない。
しかし、こちらも難関を突破し研究者になったという自負がある。それを無視されるのは我慢できない。そういう感情からだ。
「そこでだ。まあ、見合いはしましょう。しかしこちらが無理と言うのに、相手のお嬢様が納得するかという問題がある。どんなボケでもいい。結婚すると言いかねないというのは、先ほどの議論でも解ったところだ。相手が要求することは、自らの地位と権力に見合う頭脳。これだけだ。そこで」
穂波はにやりと笑い、今度は礼詞を見た。礼詞はもちろん、嫌な予感と顔を引き攣らせる。
「どうだ? 別居前提。家庭は築かないことが前提。書類上だけ結婚するとなった時、お前は判を押すか?」
「――」
賢明にも、礼詞はすぐに答えを述べなかった。穂波の言っていることは無茶苦茶である。
「つまり体裁だけ?」
仕方ないなと、瑛真が代わりに質問した。ともかく、沈黙していても気まずくなるだけである。
「そうだ。まあ、相手は政治家だから、付き合いに参加させられることはあるだろう。しかし、忙しい科学者だということは解っているから、無理に参加させられることもないはずだ。だから、結婚しているという事実だけでいいはずだ」
ううむ。それでいいのか。その場にいた誰もが思った。
だってそうだろ? 結婚って、人生の一大事じゃないのか? それを書類上の手続きと割り切れるのか?
「それは、一色博士では駄目なのですか?」
またまた仕方ないと、瑛真が次の質問に移る。その場合、路人でも問題ないように思えるが。
「ああ。それは駄目だ。あいつは一般家庭ってものに憧れがあるからな。書類上でなんて納得できないはずだ」
さすが、そこは母親。息子の思考は解っているわけだ。
というか、憧れているのを知っているならば、少しは叶えてやれよと佑弥は思う。何だか同情してしまうことの連続だ。
「しかし、路人も自らそれが出来るとは思っていない。よって結婚なんて考えたくないと思っているんだ。あいつに書類上と言っても無理だな」
そしてさらなる駄目押し。
おい、止めてやれ。息子が可哀想だよと、佑弥はどんよりしてしまう。
「――ま、まあ。見合いの日取りを決めますか?」
あまりの言い分に、紀章も話を次に移そうと思ったようだ。思わずそう訊く。
「ああ。そうだな。私も同行しよう。それと赤松。今のことをよく考え、その日までに返事をするように。他の男を探すのも大変だからな。残りは、城田か宮迫になるが。宮迫だと若すぎるし」
「――」
「――」
呼ばれた二人は、俺たちも巻き込まれるのかよと固まった。拙い。これは何としても礼詞に頷いてもらわないといけなくなった。二人はじいっと礼詞を見てしまう。
そして肝心の礼詞は
「……」
ただいまフリーズ中。何も考えられない状態に陥っていた。
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