第2話
今パーティー会場に居る者のうち、何人が知っているのだろう。二十数年前の王家に起こった隠された醜聞を。
「……あやつは昔からなんでも私と同じことをやりたがった」
妻と子供達との晩餐の席でつい呟いてしまったのはいつの事だったか。……確かカルラ嬢とアルフレードの婚約が決まったせいでクラウディオからそっぽを向かれていた頃か。
先代国王、つまり私の父には息子が二人と娘が二人居た。国内事情が安定していたこともあり、王女……姉達は二人とも他国の王族へと嫁いでいったため、しばらく会っていない。残ったのは王子二人。私は王太子として、未来の国王として厳しく育てられたが、弟は母である先代王妃が何かと甘やかしていた。私の容姿は肖像画を見る限り先代、先先代国王の若かりし頃とよく似ていたが、性格は先先代王妃…つまり母とっての姑に似ているのだそうだ。そして、ご多分に漏れず二人は非常に仲が悪かったらしい。自分の産んだ息子ながら姑の影を感じた母は、私が成長するにつれ疎んじる様になっていった。そして、その分自分に良く似た性格の弟にベッタリとなったらしい。
本来第二王子ともなれば第一王子のスペアとして同じ様に帝王学を学ぶべきだが、嫌がる弟に母は必要ないと一刀両断。長年支えてくれていた婚約者を捨ててまで選んだ母に頭の上がらなかった父も強くは言い出せなかったらしく、そのため弟は幼い頃から好き勝手し、随分と使用人を困らせていた。
私と弟は四歳離れている。今ならともかく子供の四年差は大きい。にも関わらず弟は私のやっている事をなんでもやりたがった。帝王学も最初から拒否していた訳ではない。
歳が四つも違うのだから、内容が別になるのは当たり前なのに、弟は講師に私と同じ内容を教えろと強要したらしい。四年先に進んでいる内容が初めからわかるわけがない。それを弟は講師の教え方が悪いと断じ、講師の変更を要求。弟に甘い母達は何度か変更を命じるも、結局同じことの繰り返しで最終的には『この子には帝王学など必要ありません』となった訳だ。
帝王学だけではない。剣も最初から私と同じ大きさ重さの物を持ちたがった。教える騎士達が随分と困っていたのを覚えている。仕方無しに言うとおりに持たせてみたが、当然まともに振れる筈もない。転んで擦りむき泣き喚いた後はすぐに投げ出してしまった。
勉強も剣も投げ出した弟は、それ以外にも私がわざわざ遠国から取り寄せた本を読みたがったり(他国語で書かれているのでほぼ読めず、投げて破損させたり悔し紛れなのか落書きをされた)、将来の側近候補として交流していた貴族子息達を、私ではなく自分につけろと騒いだりもした。
極めつけは……学園に入ってからだった。王立学園は三年。当然四歳差があれば同時に在籍することはない。入学してやっと落ち着いて勉学に励めると思いきや、「兄上と同じことを学びたい」と、母に泣きつき、当時の学長を脅して特例を認めさせ弟が入学してきたのだ。優秀な王子だから、と。
母はそれを「なんと向学心に溢れた」と絶賛していたらしいが、私に言わせれば他の貴族達に示しがつかないと思う。忠臣達に話を聞くと、苦労が絶えなかった様だ。心の中では早く父に譲位しろと思っていたと。
そしていざ入学してみれば、予想通り授業についていけなかった。たちが悪いのが歳は周りよりも四歳下なのに身分は私を除いて一番上だった事だ。嫡男ではなく、将来も定まっていない上に穀潰し扱いされていそうな頭の悪い貴族子息達にチヤホヤされて、いつの間にか学園で問題児集団のリーダーに祭り上げられていた。
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