第4話「『シンデレラ』の王子様はサディストでした」
ダンスホールを出て迷路のような城内を抜け、連れてこられた場所は庭園だった。
赤や白のバラの花が咲く壮麗な庭園。
王子様のあとについて、複雑に入りくんだ庭を歩く。
庭園のすみにある開けた場所に連れてこられた。
そこには、大きめなベンチが設置されていた。王子様にうながされそこに座る。
ベンチは大きくて頑丈で、ひらひらしたドレスを着ていても座ることができた。
庭園にほかに人影はない。
「それで、ボクをだまし女の振りをしてボクと踊った理由はなんだ? 正直に話せ」
月明かりに照らされた王子様の表情は冷たく、声は鋭い。
「それは……」
絵本の王子様は、もっとほわほわした性格のやさしい人だと思ってた。
シンデレラが男だと分かっても「なにか事情があるんだね」と言って、にっこり笑って許してくれるような、海のように心の広い人。そんな王子様を期待していたのだが、それはオレの幻想だったようだ。
シンデレラが男な時点で、絵本の世界観が狂ってるんだ、王子様が冷淡な性格でも仕方ない。
オレの前世の母親は、絵本の王子様、特にシンデレラの王子様に憧れていた。
オレが幼いころ、母はシンデレラの絵本を繰り返し読み聞かせてくれた。
絵本の他にも、シンデレラのアニメや映画を死ぬほど見せられた。
オレがペロー版【シンデレラ】と、グリム版【シンデレラ】の違いを知っていたのもそのためだ。
前世の母は、常々シンデレラの王子様のように、気品高く、紳士で、やさしく、穏やかで、聡明で、民を大切にする君子であれ、とオレに教えてきた。
当時三歳だったオレは、母親の言ってることの意味もわからず、うんうんとうなずいていた。
五歳のとき、女の子のスカートをめくって泣かせたとき母は泣いていた。
そのとき、絵本の王子のような生き方はムリだと早々にあきらめた。
つうか現実世界の平民のオレに、絵本の世界のキラキラ王子様になれって言う方がむちゃだ。
中学生になったオレが、友達とエロ本の貸し借りを始めると。
母親は【シンデレラ】の絵本を読みながら、「絵本の王子様はオナ〇ーも、う〇ちもしないわ、どうしてこんな子に育ってしまったのかしら」すすり泣いていた。
いや母さん、三次元の男に絵本の世界の王子様を重ねるなよ。
人間はう〇ちをする生き物だし、年ごろの息子がオ〇ニーするのは生理的なことだ。
シンデレラ♂に鷹のように鋭い視線を向ける王子様を見て、絵本の王子様もそんなに完璧ではないんだなぁと思った。
今オレの目の前にいる冷血な王子様を、前世の母親にも見せてやりたい。絵本の王子様だって、一皮むけばこんなもんだと教えてやりたい。
その話はさておき、いまオレは男だとバレて大ピンチだ。
「ボクに男とダンスを踊らせ、恥をかかすせるつもりだったんだな?」
「一国の王子である、このボクを
「違います」
王子様がオレのアゴをつかみ、上を向かせる。
「ならその秀麗な容姿をいかし、ボクを誘惑する気だったのか?」
王子様がオレの手を取る。
「ボクはおまえが、貴族の
心臓がドキリと音を立てる。
「最初はボクもその美しい容姿に
手で女か男か分かるって、すごいなこの王子様。
「そしてこのがさがさした手に触れすぐに分かった、これは何不自由なく育った者の手じゃない、使用人の手だと」
王子が
真実を見抜かれ、オレの背筋を冷たい汗がつたう。
見た目だけなら完璧美少女のシンデレラ♂ちゃんを、一瞬で男だと見破った男。
コ〇ンくんもびっくりの観察力と洞察力!
魔法使いのおばさんも、シンデレラを舞踏会に送るなららドレスや靴の他に手がすべすべになるハンドクリームぐらい、サービスでつけてくれればいいのに。
絵本のシンデレラは毎日家事をやらされていたのに、手ががさがさじゃなかったのだろうか?
お姫様のドレスに、荒れのひどい手は不釣り合いだ。王子様に変に思われる。
それとも絵本の王子様はどんくさくて、気づかなかったのかな?
そう言えば絵本のシンデレラは、手袋をしていたような……? 手袋をしてたからバレなかったのか? じゃあオレはなんで手袋をつけてないんだ?
どう考えても魔法使いのおばさんのミスだ。あの人、ぽわぁとした感じの人のだったからな……。
☆☆☆☆☆
「答えないなら、ボクが言ってやろう」
「…………」
「おまえはどこかの貴族の
王子がオレのアゴをつかむ手に力をこめる。
「違います……オレは……!」
たしかに屋敷からは逃げだしたかった、それは否定しない。
だけど、舞踏会に来たのはオレの意思じゃない。
オレは外国に行ってお針子として独立したいんだ!
貴族の愛人になるなんてゴメンだ!
「思いがけず王子であるボクの目に止まり、大満足といったところか?」
絶対零度の笑みを浮べた王子が冷たく言い放つ。
「違うんです! オレは舞踏会になんか行きたくなかったんです。でも、魔法使いのおばさんが現れて無理やり……!」
オレの言葉を聞き王子がくつくつと笑う。
「つくならもう少しましなうそをつけ、魔法使いなんかいるわけがないだろ?」
「うそじゃありません!」
まあ魔法使いが現れて、魔法でドレスと靴をだして、カボチャを馬車に、ねずみを馬に、トカゲを
「まあいい、望みを叶えてやる」
オレの体が反転したかと思うと、王子様にベンチに押し倒されていた。
「
王子が凍るように冷たい目をしたまま、口角を上げる。
背筋がゾクリとした。こんなに冷徹な目をする人を見たことがない。
「プラチナブロンドの髪、青く輝く瞳、雪のように白い肌、整った目鼻立ち。そこいらの貴族の娘より見目麗しい、黙っていれば女で通るな」
王子がオレのアゴをつかみ、顔を左に向けたり、右に傾けたりする。
王子様はシンデレラ♂ちゃんの顔を、じっくりと観察した。オレとしては蛇に睨まれた蛙状態。
「やめてください……!」
「両親には政略結婚させられそうになり、『花嫁は自分で選ぶ』と言えば舞踏会を開かれ。玉の
王子がニヤリと笑う。この王子とことん性格がひねくれてんな。
結婚相手をそんな理由で決めていいのかよ。
王子の顔が近づいてくる。このままじゃ、オレ《シンデレラ♂》のファーストキスがうばわれてしまう!
「……離して!」
抵抗するが、
そうこうしている間に王子の顔が間近に迫り、唇に触れる。
シンデレラ♂《オレ》のファーストキスは、ドS王子様にうばわれてしまった!
前世ではファーストキスどころか、女の子と手もつなげずに死んだ。
美少年に生まれ変わったのに、女の子として育てられ女に異性として見てもらえなかった。
独立したら継母や義理の姉とは正反対の、従順な性格の可愛い女の子とつき合おと思ってたのに……!
オレのファーストキス返せよ……!
王子様の舌が唇をわり、口内に侵入してきた。
オレは歯くいしばり抵抗する。
だが王子様はオレの歯列を攻め、歯のガードをこじ開け、舌を中にねじ込む。
あっという間に、舌をからめとられてしまう。
唇をはなしたとき、銀の糸がひいていた。
「やめてください! 人を呼びますよ!」
キッと王子をにらむ!
「いいぞいくらでも呼べ。衛兵はボクの部下だ」
王子が氷のような笑みを浮かべる。
「大勢に見られながらするのが好きなら、いくらでも助けを呼ぶんだな」
王子がせせら笑う。
こいつマジで性格わりぃ~~!
王子様が、シンデレラ♂のドレスの
「いやだ! はなせ!」
今まで王子様だと思って敬語を使ってきたが、もうやめた!
目の前にいるのは、オレを犯そうとしてるやつだ!
シンデレラ♂ちゃんの、お上品な話し方は止めた。
こっからは素でいく!
「ほう、ガラスの靴か? 珍しいものを持っているな」
王子がガラスの靴にふれる。
十二時になるまで脱げないと思っていた呪い靴、いやガラスの靴は王子の手によりあっさりと脱がされた。
売り払って旅の
☆☆☆☆☆☆
このまま行けばドS王子と結婚か、継母に女たらしの中年子爵に売り飛ばされるかの、究極の二択を迫られる。
なんとかして今からでも逃げださないと!
自室に戻り、荷物を持って家をでようとし
継母に舞踏会のお姫様=シンデレラだとバレて、
さすが血のつながりがなくても母親、舞踏会に現れたお姫様の立ち居振る舞いから、舞踏会に現れたお姫様がシンデレラだと見破った。
王子といい、継母といい、洞察力はんぱない!
こうなったら、
絶対に屋根裏から逃げ出して、ドS王子との結婚エンドも、女たらしの中年子爵の愛人エンドも
走ってでも、泳いででも他国に行って、独立するんだ!
金持ちの男と結婚するのがハッピーエンドじゃないってことを証明してやる!
オレは友人のネズミたちに協力してもらい、ネズミたちにヤスリを持ってきてもらった。
屋根裏部屋からの脱出するために、窓にはめられた
ネズミたちには、歯で鉄格子を食いちぎってもらう。
明日の朝までには必ず逃げだす!
☆☆☆☆☆
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