転生したらシンデレラ♂でした、舞踏会なんか行きたくないので家出することにします
まほりろ
第一章「王太子妃選びのダンスパーティー」
第1話「転生したらシンデレラ♂でした」
―主人公視点―
オレの名前は
いや普通の高校生だった、といったほうが正確だろうか。
十八歳の誕生日、車にひかれて死んだ。
それでいまは【シンデレラ】をやっている。
そうだれもが知ってるあの有名なおとぎ話の【シンデレラ】だ。
【シンデレラ】にはシャルル・ペローの話と、グリム兄弟の童話がある。
ガラスの靴、カボチャの馬車、魔法使いがでてくるのがペローの【シンデレラ】だ。
グリム兄弟の話では、実母の墓のそばに植えたハシバミの木にくる鳩が、ドレスと靴を持ってきてくれる。
靴は一晩目が銀の靴、二晩目が金の靴。馬車はなく、歩いて舞踏会にいかなければならない。
靴は偶然脱げたのではなく、王子があらかじめ床にピッチ《ヤニ》を塗っていたから。ピッチに靴がからめとられ脱げた。
多分、オレがいるのはペローの話の方。
なんでそう思うのかっていうと、実母の墓のそばにハシバミの木がないから。
だから十中八九、これはペローの【シンデレラ】だ。
シンデレラの本当の名前は「エラ」、実の両親が亡くなってから、その名を呼ばれたことはない……。
数日前、階段から落ちて頭をうったとき、前世の記憶をとり戻した。
だから、これからシンデレラの身に起こることも知っている。
「転生先がシンデレラでよかったじゃないか」っていま思っただろう?
たしかにシンデレラはちょっと継母と二人の義理の姉のいじめに耐えれば、魔法使いが現れて、ドレスとガラスの靴とカボチャの馬車を用意してもらえて、王子様とダンスを踊って、結婚して、ハッピーエンドだ。
「死亡フラグしかない悪役令嬢や、肉便器エンドしかないエロゲのヒロインに転生するよりは、遥かに幸せだろ?」読者のみんなはそう思っているのだろう。
そうだろう、オレも女だったらそう思う。
すてきな王子様に愛されて、結婚して、ハッピーエンド。まさにシンデレラストーリーだ。
オレの前世が男で、男の感覚で生きてるとかそういう問題でもないんだ。
前世が男でも、シンデレラ《女の子》として生きた十八年があれば、オレも王子様との結婚エンドを素直によろこべたと思う。
ガキのころ母親が何百回と読み聞かせてくれた、わりと好きなお話だ。
素直によろこべないのは、シンデレラの体にある問題があるからだ。
なんつうか、このシンデレラ…………男なんだよ。
性別が男、おちんちんがついてる。
あり得ない、なんでシンデレラの性別が男なんだよ。
さらさらの金髪ストレートに、サファイアのような美しい瞳、目鼻立ちが整った顔、雪のような白い肌、スレンダーな体格の美少女……ならぬ美少年。
なぜか義理の姉のお下がりのドレスを着せられている。そのせいか見た目は完璧に女、しかも本物の女よりも可愛い。
何年も同じ服を着せられているから服はボロボロ。ボロをまとっていても、育ちの良さと素の美しい顔は隠せない。
シンデレラ♂ちゃんは、可愛い男の娘なのだ。
前世のオレがシンデレラに「好きです」と告白されたら、何もかも差しだして尽くすレベルでシンデレラ♂ちゃんは可愛い。
☆☆☆☆☆
見た目は美少女、だが体も精神も男。
舞踏会なんか行きたくないし、王子様とダンスして結婚する、なんて冗談じゃない。
そこでオレは家をでることにした。
王子と結婚するかどうかは別にして、オレはこの家にいたくない。
シンデレラ♂ちゃんは心のやさしい子で、いじわるをされても継母と義理の姉を心配していた。
生まれ育った家に愛着もあった。
悪いが
根性の曲がった継母と、いじわるな義理の姉たちにこき使われて、残りの人生を終えるなんて嫌だ。
その上、あの三人は金遣いがあらい。
長年にわたる
あちこちから借金しまくり、シンデレラの父親があつめた調度品を売り払い、なんとか生活を
継母と二人の義理の姉は、舞踏会にいって王子様に
おとぎ話の
オレに言わせれば、義理の姉が王子様に見初められる可能性はゼロだ。
物語的に王子様が見初めるのが
なんというかあの二人、性格だけでなく顔もしぐさもブサイクなのだ。
長女のロジーナは魔女みたいなかぎ鼻をしているし、顔はそばかすだらけだし、ダンスが下手だし、料理の食べ方も汚い。
次女のマルグリートは、デブだし、鼻がつぶれているし、顔に大きないぼがあるし、歩き方が汚いし、なによりも体臭がきつい。腐った魚のような臭いがする。
シンデレラが舞踏会に行かなくても、この二人が王子様に選ばれることはないだろう。
王子様どころか、
継母はこの二人のどちらかが、本気で王子様のハートを
親の欲目ってすげぇ。
三人が
三人が現実に気づいたら、
継母は借金を帳消しにするために、
子爵家の当主は、金はあるが、女遊びが激しく、暴力的な性格で、ちびでハゲでブサイクだ。
継母が借金をしているのは、ほぼあの子爵からだ。
子爵が
あの子爵は
いじわるな継母なら、義理の娘を売りとばすぐらいやりかねない。
五十すぎの男色子爵に、愛人として売りとばされるなんて、冗談じゃない!
オレは王子様とも結婚しないし、変態子爵の愛人にもならない!
家を出て独立する! 継母と義理の姉からはなれ遠い国で幸せに暮らすんだ!
幸いシンデレラ♂ちゃんは、家事が得意。手先が器用で、針仕事は
この国の海の向こうには、ベレスフォード国がある。
ベレスフォード国の
衣服の製造業および流通業が盛んだ。
ベレスフォード国でなら、シンデレラ♂ちゃんの技術をいかせる。
家をでるのは舞踏会の当日。
継母と義理の姉たちがお城の舞踏会にでかけ、だれもいなくなった
ベレスフォード国行きの船のチケットはすでに手にいれてある。
市場の商人に頼み、チケットを譲ってもらった。
この商人はシンデレラの父親に恩があり、シンデレラの父親が亡くなったあとも、なにかとシンデレラを気にかけてくれていた人だ。信用してもいいだろう。
船のチケットを手に入れるために、ロジーナとマルグリートのアクセサリーをいくつか売り払った。
売り払ったアクセサリーは、もともとシンデレラの物だった。
シンデレラの父親が亡くなったあと、ロジーナとマルグリートがシンデレラから奪ったんだ。
ロジーナとマルグリートから自分の持ち物を取り返しただけだ。泥棒じゃない。
アクセサリーが無くなったことに、ロジーナとマルグリートもそのうち気づくだろう。
だがその頃には、オレは海の向こうだ。
ロジーナとマルグリートの悔しがる顔を想像すると、ちょっとせいせいする。
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