第30話ゴールデンウィーク最終日

ヒロさん達が帰って店に戻ると旭さんが近寄って来てコソコソと告げた。

「私が上手く説明したから話合わせろよ。」

「了解です。」


元刑事・・・詐欺師の如く見事に嘘を付いていた。

「まさか!昔フードコートにあった倒産した店舗の嫌がらせだったんですねー!びっくりしましたよ。」

「巻き込まれと言うか逆恨みですよね!」

マネージャー陣達が口々にそう言っていた。


あー。そう言えば俺がこの店に転勤して来た頃にブルロモールに家賃が払えずに倒産した店舗があったね・・。


良く思いついたものだ。


やっぱり、旭さんは敵に回したら怖いなあ。


その日の夜はジュンと従業員入口までだけど仲良く帰り、本日はいよいよゴールデンウィーク最終日!!


明日から2連休する!

勿論、ジュンも休みを取って貰った。


どんなに忙しくても笑顔出るなあ。


もう、御意見も怖くないし。

余程の事が無い限りクレームはその場でだいたい解決するものだ。


と・・・思っていたのだが。


何時も通り店舗前の行列整理を始めた。

今日も客席は混みつつあるなあ・・。



って!!何故?!居るぅ!!!!


昨日、帰ったんじゃないのか?!!


このファミリーや学生がメイン客のフードコートの客席に・・派手な浮いた服着た4人組。


何のつもりだよ。あの捨て台詞は何だったんだ!

顔見せるなって言った癖に。

参ったな。


俺とガチっと目が合った。


ニヤリと微笑まれて苦笑い。


バレない様にチラリと隣のジュンの店を見た。

たこ焼き屋も繁盛していてまだヒロさんの存在に気づいて居ないっぽい。


あまり露骨に教えるのもなあ。


しかし、何しに来たんだよ。


突然、ゲイだと暴露されたらどうしよう?


わー。別にカミングアウトしても良いが・・。ちょっと考えよう。


一先ず、直接クレームの可能性も考えてアルバイト達のポジション変更するか。


「かなり忙しくなりそうだからトレーニングを辞めてポジション変更します。」

レジは高校生だけど評判の良いベテラン勢。

後はお渡し係を旭さん、商品の取り揃え係を大野さんにしてっと。

厨房は式見さんが纏めてくれる。


「良し、最終日セールス取るよー!」


俺も気合い入れ直し!


様子を見るが動く気配は無い。


見たくはないが時折、目が合うのが嫌になる。


昼食ピーク第1弾が終わりかけ。少し行列が減った。


客席が空いたらまたピークは来るだろうな。


その時、あれは?アイちゃんか。

立ち上がって此方に向かって来た。


そしてうちの店に並んだ。


その姿を見て漸くジュンは気づいた様で・・かなり焦った顔を見せた。


大丈夫、何とかする。


レジは雪城さんの所か。彼女なら安心。


俺も他のお客様に目を配りながら接客を伺う。


大丈夫そうだな。


ミスなし。


商品お渡しもスムーズだった。アイちゃんは特に俺に話しかける事も無く席に商品を持って去って行った。


何がしたい?


意図不明のまま・・昼ご飯ピークは終了した。


俺は休憩。疲れた。精神的に疲れた。


まだ居るし。このままスルーしたいが店に居ない間に何かあったら困る。


自店舗でハンバーガーと飲み物を買い今日は社員食堂には行かずにフードコートで食べる事にした。


少し離れたが彼等が見える位置の席に座った。


はぁ。此方から話し掛けるのも何かなあ。

そう思って居るとジュンがたこ焼き持参で俺の席にやって来た。


「アキラさんお疲れ様。何かめちゃくちゃ疲れたんだけど。」

「同じく。全く意図が解らん。」


お互い溜息。

こんなフードコートで昨日みたいなトラブルはごめんだ。


様子を見ながら半分くらい食べた所でヒロさんが立ち上がった。


「ジュン。来るよ。」

そう言うと仕方ないと言った顔で頷いた。



「やあ、来ちゃった。」

席の横に立ちヒロさんは嬉しそうに微笑んだ。

全然、可愛くない・・・。


「どうも。」

「はい。」

俺達は何と言ったら良いのやらと当たり障りの無い返事をした。


「やっぱりさあ!見て見たかったんだよね!アキラの仕事姿。」

それだけ?

その為に?


「いやー。大濠君もさ!良いね!営業の時よりイキイキしてた。アキラは言うまでもなくカッコよかったよ!」


褒められている?


「ありがとうございます。」

「どうも。ありがとうございます。」


出方が解らないし話も合わせて良いのか。


「つれないなあ。兎に角さ。見たかったんだ。もう、東京に帰るよ。夕方の飛行機なんだ。」

彼は俺達の顔を交互に見てニヤリと笑った。


「もし、帰省する時は俺の店に寄ってよ。サービスするからさ。」


そう言われて返答に少し困ったが。


「そうですね。寄ります。」

ジュンが営業スマイルでヒロさんに答えたので俺も頷いた。


「うん。来てくれよ。じゃ、それだけ。」

ヒロさんはフッと笑い、此方を見ていたガールズバー3人組を手招きした。


「帰るよ。」

はーい!アイちゃん達も昨日の不安そうな顔は無くスッキリした?と言った顔で此方にやって来た。


「須佐さん。ちゃんと謝りました?!」

ユウちゃんに言われてヒロさんは焦った表情でシーっ!!と言うなと言うように指を立てた。


「もう!私達は言いますよ!」

そんなヒロさんに呆れた様に彼女達は頭を下げた。


「御迷惑かけてごめんなさい!」


ほら!須佐さんも!と促されヒロさんは頭を下げた。


「行動や暴言の数々。悪かったな・・。大濠君には特にすまなかった。」

素直な感じは全く無いけれど。


俺達は3人とヒロさんの謝罪に頷いて本心では納得はしていない所もあるけれど。

「もう、大丈夫ですよ。」

「俺も。水に流します。」

そう答えて苦笑した。


これが彼等の本来の目的だったのだろう。


「じゃ、本当に。さよなら!」

今日のヒロさんの捨て台詞。


「お気を付けて。」

2人で頭を下げて見送った。


結局の所・・・。

屈折しまくった人だったな。


もし、ジュンより先にリアルにヒロさんに出会って居ても。


好きにはなってないなあ。


彼等がエスカレーターに乗ったのを確認して溜息を付きながら座った。


「あー!!終わった!」

「アキラさん。ごめんね。」

何でジュンが謝る?


「大丈夫だって。サービス業歴が長いから日常も他人には気を使うし。勘違いさせた俺が悪いんだよ。」


「それはお互い様だね。」

ジュンも営業長いみたいだからなあ。


「職業病だな。2人の時は素でいられるから良いね。」

「本当にそれはホンマに思う。」


残りのハンバーガーを食べて休憩終了。


ガチ疲れ。食べた気しないし。


でも!!

「明日は2人で休み満喫しよう。」

「うん!」

その為なら頑張れる!



今夜は1度着替えを取りに行ってからジュンが我が家に泊まりに来る事にしている。


明日は遠出するか?家でまったりも良いな。


ワクワクしながら残りの就業時間を頑張った。

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