第2話 現実は甘くない
大嫌いな体育の授業は、厄介な創作ダンス。
万丈さんと組むことになったけど、ダンスに使う曲やどう踊るのか。なにひとつ決まらなかった。
まあ、初日だからしょうがない。
それよりも今は給食。待ちに待った給食の時間。空腹を満たせば不安も消えるはず。
本日のメニューは
ワクワクしながらお弁当の
ナムルは冷たくても美味しかったけど、春巻きは皮がふにゃふにゃ。でも、具材の食感が一つ一つキリリッと立って、味付けもしっかりしてるから食べ応えがある。
口の中に広がるうま味や、中華の香りがたまらない。
「柏原さんって、幸せそうに食べるのね」
「ほへ?」
モグモグしながら顔をあげると、万丈さんがいる。
「創作ダンスの曲ぐらい決めておきたいから、いいかしら?」
口の中がいっぱいだから小刻みに首を動かして、お茶を流し込んだ。
「万丈さん、給食は?」
「もう食べたわよ」
「早いね」
「そりゃそうよ。小さすぎるでしょう、ここのお弁当は。あれぐらいなら、あっという間にごちそうさま。あと二つか三つほしいわね」
まったくもってその通り。
小学校の給食なら自由におかわりができた。
それなのに中学校では一人分ずつランチボックスに詰めた給食。ご飯の量は選ぶことができるけど、大盛りなんか選べない。
宮ちゃんたちは「給食の量が多い」っていうから、私も「そうだねー」と満たされないお腹をさすりながら笑っていた。
だって、ただでさえみんなと違う体型だから、これ以上『違う』を増やしたくなかった。
いつもみんなと同じことをいって、同じ物を見て。ズレないように、迷惑にならないように。面倒くさいけど、人とは違うが怖かった。
万丈さんにはそれがない。
「万丈さんは、すごいね」
「そうかしら?」
「だって、私は……」
ぽっちゃりをいじられても、ヘラヘラ笑って傷だらけの心を誤魔化していた。
まわりの目が気になって、振り回されて。酷い言葉に傷ついても、ニコニコ笑って平気なふりをする。それが私。
でも、万丈さんは堂々としていた。
早乙女さんに『ぽっちゃり、なめるなよ!』と言い返して、給食も好きなようにガッツリ食べる。とても自分らしく素直に。
なんだろう。
急に胸の奥が熱くなるのを感じた。
「よし! 創作ダンスの曲を決めて早く練習しよう。がんばろうね」
残りのお弁当をガツガツ食って、飲みこんだ。
万丈さんと一緒ならもう早乙女さんたちに笑われない。
今回の創作ダンスは絶対にうまくいく!
そういえば、どこかのぽっちゃりさんがキレッキレのダンスを披露して同級生の鼻を明かす。そんな動画を見たことがある。
最後に勝つのは私たち。チームぽっちゃりだ!
ワクワクが止まらなくなったけど、それは儚い夢だった。
現実は苛酷で、ちっとも甘くない。
もともと運動神経が皆無な二人。
振り付けは動画を参考にして完成したけど、お腹のお肉が邪魔をして柔軟な前屈ができなかった。
ジャンプをすると「体育館がゆれた」だの「床が壊れる」って、早乙女さんたちがいちいちうるさい。
それでもがんばって練習を続けたのに、なかなかうまくいかない。
そのうち私たちのことを『どすこいダンス部』だと笑ってきた。
あまりにも酷いときは先生が注意してくれたけど、早乙女さんたちはまったく気にせず笑ってくる。
くやしくて、悲しくて、繊細な心はもうバキバキに折れそう。
酷く落ちこんでいると万丈さんが一枚のプリントを差し出してきた。創作ダンスのグループ名や見所、反省点を書く欄がある。
「これ、次の体育の時間に提出してくださいって」
次の体育といえば来週。創作ダンス発表の日だ。
曲や振り付けは一生懸命考えてきたけど……。
「グループ名、考えてなかったね」
「柏原さんはどんなグループ名がいい?」
「んー、二人のイニシャルなんてどうかな? 柏原の『
「カバ?」
「違うわよ! そのまま『
「名字がダメなら、名前にする?」
「そうね、それがいいかも! 聡美の『
「あたしは百葉。『
「だあぁーッ、全然、まったく、ダメじゃん」
頭をガシガシかいてうなだれてしまったけど、万丈さんはじっとプリントを見つめてつぶやいた。
「ねえ、グループ名はあたしが好きに決めていいかしら?」
「どうぞ、どうぞ。私にはネーミングセンスがないみたいだから、万丈さんが決めて」
「ありがとう。それじゃ、このプリントも適当に書いて提出しとくね」
「どうぞ、どうぞ」
もう投げやりだった。
一生懸命がんばっても早乙女さんたちに笑われる。
どうせなにをやっても笑ってくるから、その日だけ我慢すればいい。
いつだってそうだった。
これからも……。
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