第69話 フレデリックの誓いと求婚

 エイヴリル様のお部屋では、のんびりとした時間を過ごさせていただいた。

 久しぶりに故郷に戻ったような穏やかさだったわ。


 フレデリックの部屋に戻り、アンは退出した。

 取次の文官の所に、私が部屋へ戻った事を伝えに行ったのだと思う。

 私はセルマたち侍女に部屋着に着替えさせてもらった。部屋着といっても、フレデリックが戻ってくるのが前提なので、少しかしこまった服なのだけど……。

 いや、コルセットまでしっかりつけられてる。



「早かったな。母上は元気にしていたか?」

 フレデリックは、部屋に入ってきながら人払いをしていた。

「はい。お母様とはのんびりとした時間を過ごさせて頂きました。フレデリックはまだお忙しいのでは無いのですか? こちらでお茶でも」

「あ……いや。仕事は片付いた。お茶も今はいい。オービニエも拘束できたし、関わった商人や正規軍の者たちの処遇もあらかた決まったからな。アダモフ公国の方は……まぁ、今はどうしようもないが、今回の責任者を向こうからこちらに引き渡して来た」

 尻尾切り……だわね。仕方が無いわ。こちらの内部にも、味方が多そうだし。


「ただ、せっかくそなたがギャバンに無傷で捕らえろと言ったのに、商人や正規軍の責任者とそれに近い者たちは処刑せざるを得なくてな」

「それは……確信的な常習犯だったという事ですか?」

「察しが良いな。そういう事だ。今回はセシリアがまだ婚約者という立場だったから判断は俺がしたが、正式に王妃となって国政の場にも立つというのなら、次回からこの判断はそなたがしなければならない。そなたがこの前言っていた責任には、そういう事も含まれるからな」


『仕事を任せておきながら、わたくしには責任すら負わせてくれないのですね』以前私がそう言った後にフレデリックが飲み込んだ言葉。


 私の前にいたフレデリックが突然私の前に跪いた。

「フレデリック。何を」

 慌ててしまっていた。だって、国王を跪かせるなんて。


「俺と同じ道を歩くという事はこういう事なのだが。いや、この国を変えるための土台作りをするという点では、本当に茨の道になる」

 フレデリックは私を見上げて真剣な顔で言う。

「その上、俺達はその成果を見ることなく死んでいくだろうからな。だから、よく考えて返事をして欲しい」

「わかりました」

 なんだか重々しい雰囲気に私も真剣に答える。


「セシリア・ピクトリアン・グルダナ姫。そなたにウソを吐きたくないから正直に言うが、多分幸せには出来ない。最大限、努力はするつもりだが、難しいと思う。だけど、退屈だと思わない充実した人生を保証しよう」

 ちょっとまって、これって……。

「そして、そなたが欲しいという『俺の永遠』は、セシリア、そなたのものだ。俺は生涯セシリア以外の女性を愛することはない。一緒に闘えぬ女性はいらないからな」

 

『俺の永遠』はそなたのもの……その言葉が、今だけのものだとしても、私は嬉しいと思う。

 だって、フレデリックは私の心を蔑ろにしたりしない。だから、その後に続く

「俺と共に、茨の道を歩いてもらえるだろうか?」

 という言葉にも、私は考える事もなく答えることが出来る。


「喜んでそのお言葉、お受けいたします。フレデリック・アルンティル国王陛下」

 私はその言葉と共に、フレデリックの前に手を差し出す。

 その私の手を取って、手の甲に口づけを落とした。

 フレデリックは、私の事を幸せに出来ないと言ったけど、私は幸せだわ。


 そして、予定していた日時に盛大なる婚礼の儀が行われ、私は王妃になった。


 

 のちの人々が私の生涯を見て、不幸だと感じる人もいるかもしれない。

 でも、傍目にどういう風に見られても……たとえ苦渋に満ちた人生だったとしても、隣には常にフレデリックがいてくれた。


 それだけで、私の人生は幸せだったと言えるのだから……。


                                     おしまい



お姫様の恋が成就したところで、このお話は終わりです。

ここまで読んで頂いて、感謝しかありません。

ありがとうございました。

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