第67話 フレデリックとセシリアの睦言
「あの日、クリストフ・ピクトリアンと一緒に死んでしまったかのようになっていた、そなたを見て……俺がどんなに……」
それ以上は、言葉にならないようだった。
ただただ、私を抱きしめてくれている。
フレデリックは、大人の男の人で、王族の居住区では私にも皆にも優しいけど、表の政治の場に立てば怖い国王陛下だ。国王である限りなにかあれば国を優先するだろう。
だから平気なんだと思っていた。私が自分の立場や国を優先して死んでしまっても。
私を抱きしめている腕が震えているわ。
フレデリックのこんな泣きそうな感じて私を抱きしめている姿なんて、想像もつかなかったの。
そういえば、死にかけた後目が覚めた時も、フレデリックは泣きそうな顔で部屋に飛び込んできたっけ。
あの時は、まだ愛されていたリオンヌ様が羨ましいと思っていて……。今も羨ましいけど。
だって、リオンヌ様は、もうこの心の下の方から湧き出てくるドロッとした……何か自分が汚いものにでもなってしまったような、嫌な気持ちと闘わなくて済む。
きっと、フレデリックを好きでいる限り、ずっと湧き出てくる。
本当に、人を好きになるという事は、こういう事なのだと知ってしまった。
「あの猛毒は、ソーマ・ピクトリアン国王から賜った物です。わたくしは、あの毒を焚きしめた時、意識が薄れていく中で、このまま死んでしまったら『私もここで死ねたら、フレデリックの永遠が手に入るのかしら……』と思っていました」
「俺の永遠?」
フレデリックが怪訝そうな顔をしてる。そうね、男の人には分からないかもしれない。
「人の心は変わってしまうでしょう? 今は好きだと言ってくれても、次の瞬間は違うかもしれない。それに、仕事があると愛が全てで生きることも出来ないでしょう?」
「それは、そうだが。だが、そなたも同じだろう? 俺と同じ場所で国政や制度改革に関わるのだから……」
あれ? そうだっけ?
「まぁな。感傷的になるのも分からんではないが。特にセシリアくらいの年齢ならな」
フレデリックからも、子ども扱いされた気がする。
私はぷくっと膨れてしまった。
「だから、そんな顔をするなって、まだ仕事が終わって無いのだから」
あ……仕事。長々と引き留めてしまったわ。
「……それで? 体調は治ったのか?」
「まだ急に動くと、ふらつきますが」
「そう……か」
なんで、がっかりするのだろう? フレデリック?
「さて、仕事に戻るか。これがあれば、あの事件は早々に解決しそうだからな」
抱きしめていた腕を、私の体からスルッと外す。何か少し寂しい。
「とりあえず、早く体調を治してくれ」
私の頭をポンとして、フレデリックは部屋を出て行ってしまった。
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