第52話 セシリアの外交とギャバン陸軍大臣の訴え

 私が自分のお部屋に戻り、また婚礼の準備を進めている間に、二週間の謹慎処分が解けた。

 また私は表の職務に復帰した。外交も私の単独で……補佐に護衛を兼ねたアルベールと、文官達がいるけど……行っている。


 以前より仕事が少ないのは、王宮内のかおり草に注意を払わなくて良くなったのと、「婚礼の準備を本格的に始めて下さらないと間に合わなくなってしまいます」と懇願してきた女官たちのおかげである。

 同じ婚礼前なのにフレデリックがのんびりしているのは「軍事大国の国王の婚礼衣装など軍の礼服で充分だろう? さっさと採寸してもらって終わったぞ」と言う事なのだそうだ。羨ましいわ。



 今日は先日行った外交の報告をするために、フレデリックの執務室に来ていた。

 私が報告をしている途中で、フルマンティ宰相が入室の許可を願い出てる。

「ああ。入れ」

 そうフレデリックが言って許可を与えると、入室してすぐに

「国王陛下に申し上げます。ギャバン陸軍大臣が謁見を願い出ておりますが、いかがいたしましょうか」

 ギャバン陸軍大臣は近衛騎士を筆頭に下は民間兵まで統べる大臣で、王宮内で大人しくしていればいいものを現場に出たがる変わり種だ。


「今すぐにか?」

 フレデリックが宰相に訊いている。

「はい。急ぎ、指示を仰ぎたいことがあるそうです」

「ああ。ここに呼ぶがいい。多分、あのことだろう」

 心当たりがあるのか、フレデリックが面倒くさそうに言っている。

 でも、伝令兵へ手紙を持たせるのではなく、大臣自ら謁見を申し出てまで指示を仰ぐなんて。

「かしこまりました」

 宰相は、礼を執り退出をする。


「わたくしも席を外した方がよろしいでしょうか」

 部外者がいたら邪魔だろうと、私も退出を願い出た。だけど……

「いや、いてくれ。……と言うか、ギャバンが来れば分かるさ」

 フレデリックは、私には少し笑って見せてくれた。


 ギャバン陸軍大臣が入室してきた。

 なんだかいかにも軍人といった武骨さが目立つ中年の男性だ。現場から直接来たのか、鎧を付けたまま扉を少し入ったところで礼を執っている。


「国王陛下には、ご機嫌麗しゅう存じ上げます」

「挨拶はいい。用件を言え」

 フレデリックは、にべもなく言う。

 ギャバン陸軍大臣は、不愛想な顔でチラッとフレデリックの机の横に立っている私の方を見る。なぜ、私が退出していないのかと言いたげだ。


「リクドル王国との国境付近で、我が国の行商を行っている商人たちとアダモフ公国の商人たちが小競り合いになっています」

「ああ。それはこちらにも報告が入っている、最近目に余る程横暴らしいな。だが、その件はセシリアに言ってくれ。外交は彼女に一任している」

「は?」

 フレデリックが言った事に対して、ギャバン陸軍大臣が驚いている。

 そんな間抜けなお顔も出来るのね。……じゃ無くて。


「先日の外交の際にアダモフ公国側には抗議をして、行商の時期をお互いずらすことで合意をしたのですが」

 時期だってアダモフ公国に有利な方を譲ったし、公式文書にまでしたのに。

 今の時期は、我が国の行商隊が優先でいけるはず……って、あれ?

 何でこの報告が軍部から上がってきているの? リクドル王国の国境付近まで行くのには、結構な距離があるのに。


「納得出来なかったのでは、ないですかな? あちら側には正規軍が護衛についていますからな」 

 なん……ですって?

「正規軍が? 民間の傭兵ではなくて? こちらから、何か仕掛けたわけでは無いのよね」

「当たり前です。納得できないからと言って、民間の行商隊にどこの国も正規軍が関わることなど考えられません。だから、おかしいと言っているのです」

 ギャバン陸軍大臣は、憮然とした顔で、私にそう言ってきた。

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