第13話 セシリア姫の夜のお仕事

「ささっ、セシリア様。今宵はこちらのお召し物でよろしいでしょうか?」

「こちらの淡いピンクのレースが付いた物も、よろしゅうございますねぇ」

 先ほどから、侍女たちが何を選んでいるのかと言うと、私の寝間着である。


 あれから毎日フレデリックが私の部屋で過ごすようになったので、異例の事に驚きながらも、『我が姫はそれ程までに陛下のご寵愛を賜っているのか』と浮かれまくっているのだ。

「レースが多いと寝られない」

 と以前言ったら、こぞって侍女たちから反論されてしまった。

 いや、だから寝られないって。


 フレデリックが毎夜やって来ると言っても、多分みんなが想像しているような感じじゃない。

 実際は、お茶を飲んでのんびりお話をして、健全に(ここ重要)ベッドで添い寝してるだけだもの。最初こそ、緊張したけれど、今ではぐっすり眠れている。

 なのに、実状を知っているはずのアンやセルマまで浮かれて選んでるんだもんなぁ。


 なんとか召し替えが済んだ頃にフレデリックがやって来た。

 まだ、侍女たちはお部屋の隅で控えている。


「ご公務お疲れ様でございます、陛下。こちらでごゆるりと、お過ごしくださいませ」

 私は礼を執り、型通りの挨拶をする。

「姫には、今日一日変わりは無かったか?」

 フレデリックも部屋に入ってきながら型通り寵妃を気遣う言葉を言っている。

 まだ、妃では無いけど……。

「はい。これも陛下のおかげでございます」

「うむ」

 私のお礼の言葉にうなずき侍女たちに向かって言葉を続けた。

「もう下がってよいぞ」

「では、朝にお支度に参ります」

 アンがそう言って礼を執ると、侍女たちはそれぞれに礼を執りするすると退出していった。


 初日に、自分がいる時、退出命令を出したら逆らわぬ様にと、きつく言い渡したので、みんな留まらずに退出していく。

 残っているのは、扉の外。廊下で護衛をしている近衛騎士たちだけだろう。



「疲れたな……」

 私の方に来て、こつんと私の肩に頭を乗せる。

「お忙しいのですか? どうぞ、座ってお茶でも」

「いや、しばらくこのままで……」

 身長差があるので、体制的にはきついだろうに。

 精神的にも疲れているのかしら。

 私は、そっと背中に手をまわした。すると、フレデリックも私を抱きしめてきた。どれだけ、そうしていただろう。

 フッと力が抜けてフレデリックが私から身体を離した。


「すまない。お茶をもらえるかな?」

「ええ」

 力なく笑うフレデリックに、私もにこやかに答える。

「セシリアは、今日は何をしていた?」

「わたくしは、最近はのんびりしてますわ。最初の何日かは、臣下との謁見もありましたけど、特に公務を言い渡されることもないのですもの」

 私はお茶を入れながらそう答えた。本当に、退屈なほどのんびりとしている。

「それは、そうだな」

 少し考える素振りをして言う。

「では、そなた。この王宮内の散策でもしてみるか」

「良いんですか?」

 私は自分でもわかるくらい、ぱぁっと笑顔になる。

「かまわんぞ。表におる者もそなたの顔は覚えただろうし……。ああ、雑用の召使どもは、わからんがな」

 っそう言いながら、笑っている。


 初対面の少し前に、私が部屋を抜け出した事を知っていて思い出し笑いしているんだわ。

 私は、ぷくっと頬を膨らまして怒った顔をしたんだと思う。

「そういう顔も可愛いけどな。まぁ、公務で表に出る事もあるのだから、王宮内の様子を知っておくのも悪くはあるまい? ジェシカ……いや、そなたはクライヴと言っておるのだったな、その者には俺から言っておくから」

「ありがとうございます」


 さあ寝ようと手をとられた後、フッと思いついたように訊かれた。

「そなた、クライヴが苦手か?」 

「いえ。ただ……」

「散策の事をどういおうか考えていたか?」

「はい」

 私は図星をさされ、テヘッと笑って見せた。

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