12 Love, 昼下がりの雷

「うおらああっ」


 頬に、どでかい衝撃。


「眠りこくってんじゃねえぞぉばかが」


「おっす」


「仕事だ。仕事しろっ」


「おすっ」


 渡されたものを、運びに。


 さっきの夢の感覚。


 まだ、残っている。


 彼女は、別な世界の人間で。きっと、これからも。逢うことはないのだろう。


 きっと、鏡の向こう側、みたいな感じで。現実でさわることは、できない。それが、フライパンで叩かれたときに。なぜか、わかった。


 唯一。


 夢の中でだけ、逢える。


 だから、夢のために、がんばる。


 雷の音。




***




 アラームで起きた。


 ソファから、立ち上がろうとして。しばらく、立ち上がれなくて。それでも、がんばって。立ち上がる。


 心が壊れた理由は。自分がいちばん、分かってる。


 彼のことを、好きになったから。夢の中でしか逢えない彼を。求めたから。現実世界で一人きりの自分に、耐えられなくなった。


 鏡の前に立つ。


 顔を洗う。


 きっと彼は。この映された鏡の向こう側のようなところに、いる。どんなに手を伸ばしても、逢うことはできない。


 だから、現実のわたしは。心がおかしくなる。彼に逢いたい。彼と喋っていたい。彼にふれたい。


 繋がれた、手の感覚。思い出そうとしても、思い出せない。それでも。


 唯一。


 夢の中でだけ、逢える。


 だから、夢のために、がんばる。


 雷の音。

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