第26話模擬戦

 翌日、この日から座学、実技の授業が行われるため、魔法学校の生徒は各教室に集まる予定だ。

 もちろん俺やリア……アイラも来るはずだが、アイラとは昨日の一件以来少し気まずい。

 アイラと顔を合わせるのは不安だが、うじうじしていても始まらない。一緒に登校してきたリアと別れ、第20クラスと書かれた板がある教室の引き戸を引く。


「……全く。下位クラスながら合宿二位になったすごいクラスだって聞いたから担任を持つってきてみれば……女々しそうな子どもばかりじゃない! なんなのよ!」


 目に移るのは全員着席しているクラスメート。いや、教壇に立つ女性に座らされていると言った方が正しいかもしれない。先生かな?

 艶やかな黒髪を肩まで伸ばしたその女性は、メガネと気の強そうな顔つきをしている。

 生徒たちに向かって毒を吐きまくる様からあまりいい印象は受けない。

 唖然としていると、俺の存在に気づいた女性が俺に向けて指をさす。


「君! 早く席につきなさい!」


「あ、はい」


 教室に入ったのは俺が最後のようで、空席は一つだけだった。

 うわぁ……。

 隣の席の人物たちに思わず狼狽してしまう。


「どうしたの! 早く座りなさい!」


 怒鳴られたのでしぶしぶ席につく。左右を見ると、二人とも目を合わせてくれない。

 俺の左右の席に座っていたのは、ちょっと気まずいアイラと、だいぶ気まずいルージュである。


「あ、アイラ」


「ん?」


「その……昨日はごめんね」


「ううん。気にしてないよ」


 そう口にしているが、いつもとの態度の違いで気にしているのが丸わかりだ。

 会話が弾む気配もないのでちらっと反対側を見るとルージュがニヤニヤしていた。


「な、なに」


「痴話喧嘩してるなーって」


「……節穴かお前の目は」


 思ったより普通に話せた。

 今度はケラケラと声を出して笑うルージュだが、流石に目立ったのか、教壇に立つ女性に注意されていた。


「まともに話も聞けないのかしら! ……まあ、このくらいにしといてあげる」


 女性は不機嫌そうに腕を組む。

 本人に聞くとめんどうくさそうなので、ルージュに尋ねることにする。


「あの人誰?」


「ウチの担任らしいよ。……ていうか、私とあんたは対立してるんだから話しかけんな!」


 ぷいっとそっぽを向くが、覇気がないどころかその動作に可愛さすら見いだせる。

 ま、これ以上話す気はなさそうなのでちょっかいを出すのは勘弁してやろう。


「……あなたたちは今日初めてこの教室に来ただろうけど、早速今日から授業を始めるわ。えっと、このクラスはまず実技に充てられているわね。十五分後、グラウンドに集合ね」


 と長めの時間を取り、先生は出ていった。

 まだ幼い子が多いクラスへの配慮かもしれない。

 休み時間になった教室は当然ざわつく。

 気になったのは、クラスの女子の大半がラークの元へ集まっていることだ。

 確かにラークは顔も悪くない。手柄も押し付けたし、クラスメートを指揮し、支えたのも彼だ。

 だが、少しくらい俺の頑張りを認めてくれてもいいんじゃないか?

 ……俺もちやほやされたい。

 意識を戻すとアイラがジト目で俺を見ていた。

 そんなに羨ましそうな顔をしていたのだろうか。


「……私はシアンの頑張り知ってるもん」


「え?」


「なんでもないっ」


 聞き逃したせいか、アイラもまた顔を背ける。

 左右の女の子にそっぽを向かれ、なんだか虚しくなってきた。自分の存在価値すら疑って……あれ、視力落ちたのかな、急に視界が霞んで……。

 俺はひっそりと机を濡らした。


 ★


 グラウンドはとても広く、サッカーのスタジアムくらいはあるように思えた。

 その端っこの方にうちのクラスと担任が集まっている。


「全員揃ったわね。まずはあなたたちの実力が見てみたいから模擬戦を行うわ」


 にわかに騒がしくなるが、先生は気にした様子もなく続ける。


「組み合わせはこっちで決めたから、呼ばれたら返事するように。……一組目、バジー、ターレン。二組目、サント、ルージュ……」


 ルージュは短剣を持った男の子との試合のようだ。その男の子は露骨に嫌そうな顔をしている。

 確かに、初日にラークと喧嘩した血気盛んな女の子と戦うのは嫌だろう。


「……十組目、アイラ、カルト」


 アイラの相手もまた、天を仰いだ。

 アイラは攻撃的な魔法は見せていないが、合宿でクラスの生命線だった彼女とやるのは良心が痛むのかもしれない。


「十三組目、ラーク……」


 戦うとなって、みんなそれぞれ自分のことに意識を向けていたが、ラークの名前が呼ばれたことに視線が集まる。


「シアン。十四組目……」


 どうやら、俺とラークが模擬戦を行うらしい。

 視線をラークに向けると目があった。

 俺の力の片鱗に感づいていそうだが、その目には強い意思が宿っているように見える。戦意は漲っているようだ。


「……よろしく頼む」


「うん。力不足かもしれないけどよろしくね」


 それ以降、言葉を交わすことはなかった。

 一組目の模擬戦が終わり、二組目が始まった。

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