ライトを上げて見えたのは

僕はすぐに足が止まった。動ける訳がない、目の前に噂の幽霊が現れたから。


本当に幽霊だと決まった訳じゃないし、それに幽霊がいるとも信じている訳じゃない。


頭の中ではそう考えているのに、自分の中にある恐怖心はその足元を幽霊の物だと信じている。


だからこそ、その恐怖心を払拭しようとライトを上げ、「あれ?…奈津子、お前なのか?」


『お前って、私の事を何だと思ってるのよ。いきなり目の前で止まって震えたと思ったら、顔にライトを当ててくるし。』


「ごめんごめん、こんなに夜が暗かったから幽霊と勘違いしちゃって。」


全く、どうかしてるよ。幽霊なんていないのに、目の前のクラスメイトを幽霊だと勘違いしてしまうなんて。


さっきまでビクビクしていた事を考えると、何だか急に笑いが込み上げてきた。


緊張感が抜けたからなのか、それともただのクラスメイト女子にビクビクしていたからなのか、口を抑えても笑いが漏れてる。


『ちょっと、失礼じゃない?』


「ごめんって、本当にごめん。それにしても、何でこんな所にいるの?」


『貴方と同じ、居残りよ。隣の教室も光が点いてたでしょ。


課題を提出し終わって帰っていたら足音が聞こえてきて、振り返ったらスマホのライトを構えた貴方がいたって訳。』


「なるほどね。」事情が分かって会話が終わり、同級生との間に沈黙が訪れる。


参ったな。隣のクラスだから会話なんてした事ないし、話を続ける方法が思い浮かばない。


偶然にもクラスの女子と話せる機会がやって来たのに、このまま帰るというのもな。


まぁ、家で母が待っているし早く帰った方がいいのは事実だけど、せめてなんか一言でも。


うーん…そうだな。


「それじゃあ、またね。」結局、何も思い浮かばずに別れの挨拶となった。全く、これだから。


『ばいばい。』返事が返って彼女も家まで帰っていく。僕の帰り道と同じ方向に。


別に一緒に帰ろうとか言ったわけじゃない。たまたま偶然、帰る道が一緒だっただけ。


歩いて歩いて、それでも帰り道は一緒らしい。何だか気まずくなって別の道から帰ろうとも思ったけど、これ以上、帰りが遅くなるのもちょっとな。


『もしかして、君も帰り道こっちなの?』


「うん、まぁ。」流石に気まずくなり過ぎたのか、彼女は僕に向かって話しかけてきた。

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