第1話 ②

【アチーブメント:ユニーク認定10個を達成しました】


 !? なんか急にシステムメッセージが来たよ?!


「アチーブメントの達成? お、おお・・・シークレットプラチナレアとか意味不明なランクのアチーブメントを達成してるよ私」


 ゲーム内での活動指針ともなる、特定条件を満たすことで何らかの特典を得られるのがアチーブメント。同じターゲットを決まった数倒すとか、同じアイテムを何個作ったかとかが一般的かな。条件の難易度によってブロンズからプラチナまでの四段階に分けられていて、高難度のアチーブメントほどもらえる特典も良くなっていくの。


「えっと、運営報酬ボックスには・・・・・・なにこの【『品質:神』解放】って~!?」


 チョットナニイッテルカワカラナイ。


 神? ゴッド? 神品質って、なに? 最高品質より上なの? それとも評価としては別?


「あー・・・うん。取りあえず次を作ってみよう。神品質なんてどうすれば作れるのかわからないけど、出来たらどういうものかわかるでしょ」


 そう考えて次に取りかかろうと準備をしたのは桜花の籠手ね。


「ちょっ・・・この【神へ挑みますか?Y/N】って何よ?」


 って、見たまんまだよね。そして、生産職人としてこんなの見たらYES一択しかないでしょう!?


【GOD CHALLENGE START !!】


 うわ! 2個だったタイミングマーカーが4つに増えてるし、各ボタンのマークがついてる!? マーカーそれぞれがランダムなテンポと速度で流れてくるから一瞬たりとも集中を切らせられない!! しかもジャスト判定が超シビアだ!!?


 ・・・・・・・・・結果から言うと神への初挑戦は惨敗だった。物自体は完成したけど、最低品質という屈辱。どうやらこの神への挑戦は神品質になるか最低品質になるか完全失敗の産業廃棄物になるかのどれかしかない模様。でも、こんな最低品質の籠手なんてサラサちゃんに渡せないわ!


【アチーブメント:『初めて神に挑む』を達成】


 またなにか達成したーっ?!


「今度は何が起きるのよ・・・・・・?」


 恐る恐る運営報酬ボックスを開くと、そこには【『蘇る素材』:解放】という報酬が。


「素材が蘇る? 製品を分解して素材に戻せるってことかな?」


 だったら嬉しい。とりあえず、この最低品質の籠手がどうにかできないかな。


【素材還元を行いますか? Y/N】


「うわ、本当にアイテム分解だった。まあ、YESよね」


 最低品質の桜花の籠手をフォーカスするとコマンドが表示されたので迷わずYES。すると籠手が虹色の光に包まれ、不意打ちのようにポイントマーカーが飛び出してくる。しかしそこは【神への挑戦】で警戒心を全開していたので逃すことなく確実にマーカーをタッチしていく。そうしてタッチしていくこと20回。光が消えて手元には桜花の籠手作りに使った素材が戻っていた。しかも全て「記号付き」になっていた。記号は#・%・!の三種類。タッチのタイミングで光のエフェクトが弱い・普通・強いって感じで出ていたし、会心のタイミングで強く光っていたからいわゆる「OK・GOOD・EXCELLENT」みたいな感じだろう。そしてそれぞれの光具合の割合から!<#<%で品質が良いと考えられる。今までは検証ができるほどの差が確認できなかったから明確にどの記号がどのくらい良いのか明言できなかったのよね。採集特化の人からみせてもらった中には&とか@とかもあったけど、今回の中にはないわね。


「まあ、私は検証班じゃないし。取りあえず籠手を作り直そう」


 そう気持ちを切り替えて準備をする。けど、素材が記号付きになったからなー。生産ミニゲームの難易度がなー。あ、でも失敗しても素材に戻せるならついでに記号付き素材で神への挑戦をしてみよう。生産職にトライアル&エラーは当たり前のことだしね。


「お、おお? なんだかさっきよりマーカーの動きやタイミングが緩いというか、優しい感じ?」


 いきなりというか、なぜか生産ミニゲームの難易度が下がっていた。おかげでスイスイと各工程を成功していき、気が付けば神品質の桜花の籠手が出来ていた。ただ、神品質=ユニークアイテムというわけではないらしい。微調整も頑張ったんだけど、今回はユニーク認定は付かなかったわ。


「神品質だとユニーク判定がシビアなのかな? それとも根本的にユニークにならないのかな?」


【アチーブメント:神品質の作成成功を達成】


【称号付与“初めて神の領域に至りし者”:全プレーヤーの中で最初に神品質の作成に成功したことを称える称号】


 なんかとんでもないメッセージが来たよ!? というか、全プレーヤー中最速なの?! 私が!?


「生産ギルドのマスターさんくらいが初めての人になってると思ったよ・・・・・・」


 なんだろう・・・。運営さんからの高校合格祝いだと割り切ろうかな、うん。


 ちなみに神品質の作成成功による報酬は「神生産者の証」というアクセサリーだったわ。装備中は生産作業での会心の成功になりやすくなるという優れものよ。



 それから残りのサラサちゃんの装備を全部【神への挑戦】で仕上げていったら全部神品質で作れてしまったわ。あと、本来の完成品の画像と見比べたら微妙に配色や形状が違ったの。装飾が普通の物よりちょっとだけ凝ったものになっているし、色彩もちょっとだけ鮮やかになってる。それに何より、薄っすらとオーラっぽいエフェクトが付いていて驚いたわ。性能は最高品質のものから微増程度だったわね。増加値からみてユニークアイテムと同じくらいかな。とすると、神品質というのはユニーク品質の別パターンなのかもね。鬼のような数字いじりよりも超高難度でもミニゲーム工程の方が良いって人の方が多いだろうし。


「サラサちゃんとの約束までもう少し時間があるけど、完成報告のメッセージくらいは送っておこうかな」


 メッセージウインドを開いて、と。


『ご依頼の品が作成完了しました。いつでもお越しください。追伸:武器がユニーク認定となりましたのでご希望の名前がありましたらお知らせください』


 うん。こんなもんでしょ。じゃ、送信。


『今すぐ行きます! 全速力で駆けつけます!!』


 反応早っ!? 送信してから10秒くらいだよ?!


「お邪魔いたします! マリアさん、私の装備をください!!」


「お客様、とりあえず落ち着きましょう。はい、鎮心茶です」


 見たことないくらいのヒートアップぶりだったので、とりあえず鎮静効果のあるお茶を飲ませる。これもれっきとした回復アイテムよ? クール草を熱湯で煮出して甘氷玉を入れて素早くかき混ぜるとほんのり甘くて爽やかな香りがふわんり広がる冷たい飲み物になるの。興奮、混乱、パニックなどの感情が昂る系の状態異常を治せるわ。水筒付きで1つ800グラン。標準サイズのカップで5杯分だからお徳だよ?


・・・・・・当然だけどゲーム内アイテムはリアルのプレーヤーに作用はしないからね?


「さて、と。落ち着いたようですね。では、こちらが装備一式になります」


 スピーカ越しに感じる雰囲気から判断し、私が指し示したのは布を掛けたディスプレイ用マネキン。まあ、心の準備は大事だからね。


「えー、こほん。ちょっと店員さん口調はお休みするね。この桜走竜装備なんだけど、いろいろとあって普通じゃないのよサラサちゃん。楽しみにしているユニーク化したレイピアもなんだけど、防具も含めてすごいことになってるから。だから心の準備だけはしっかりしておいてね。あ、一応悪いことじゃないから」


 しっかり念押しし、頷くのを確認してから私は掛けていた布を取り除いた。そして、薄っすらとオーラを纏う桜色の装備を見てサラサちゃんは絶句しちゃったわ。


「おーい、サラサちゃん? 聞こえてる~?」


 そう声を掛けながら肩を叩いたらサラサちゃんは我に返ったっぽい。凝視設定になるとキャラが揺れれば視界カメラも揺れるからね。


「凄すぎて取り乱してしまいました。来店早々から見苦しいところばかりお見せして失礼いたしました」


「全然、大丈夫だよ。それでね。レイピアの名前と防具の説明と、どっちを先が良い?」


 ユニークアイテムの命名は一度つけたら変更できないので落ち着いて考えたいだろうし、妙にキラキラしている防具は気になるだろうし。だけど命名しないとユニークアイテムは装備したり使ったりできないからね。


「それでは、その、防具の方からお願いします。こんな状態のものは初めてですからどうしても気になってしまいますので・・・・・・」


「まあ、そうだよね。ただ、これの説明をすると私のデータを一部教えることになるから拡散しないようにだけ約束してくれるかな?」


 サラサちゃんがそんなことしないってことはわかってるけど、一応の確認はね。


「結論から先に言うと、これ全部“神品質”っていう状態なの」


「神品質・・・ですか? 名前からしても凄そうですけれど・・・・・・」


「うん、まあ、性能的には最高品質のものよりちょっとだけ強いくらい。命名できないユニーク装備みたいな感じかな。サラサちゃんのレイピアがユニークになった時に条件を達成したみたいで、めちゃくちゃ大変だけど作れるようになったのよ。ただ、見ての通り一目瞭然で見た目が変わっているから注目の的だね、サラサちゃん!」


「そんな悪目立ちはとても遠慮させていただきたいのですか・・・・・・」


「じゃあ、この装備は諦める? 神品質のアイテム作ったことで完成品を素材に戻せるようになったから、分解して普通のものに作り直すのならアフターケアとして無料でしてあげるけど」


「いえ、この装備は絶対に欲しいです。街中では今の装備を着ておくことにします」


「うん。じゃあ、譲渡するからオーナー登録して装備してみてね。それじゃあ、レイピアに名前を付けてあげようか。なにかアイデアある?」


 そう尋ねるとサラサちゃんは『スプリングブロッサムレイピア』『桜花の細剣』『桜舞う花剣』というのを提示した。文字も字数も制限ないからいいんだけど、サラサちゃんは桜と花というのは入れたいのが本音かな?


「私としては、この3つまでは絞ったんです。一番気にいているのは『桜舞う花剣』なのですが、元のブロッサムレイピアという名前から考えた他の二つも捨てがたいなと」


「じゃあ、全部合体させちゃおうか。『“桜舞う花剣”桜花の細剣スプリングブロッサムレイピア』みたいに」


 ライトノベルやゲームではルビで異なる読み方を付けることは今や当たり前のこと。それにユニーク装備に限らず二つ名がついた装備品もあるしね。“烈日の刃”ヘリオスブレイドとか。


「とてもいいです! それでお願いします!」


 全部盛りの名前はお気に召してくれたみたい。じゃあ、パパッと命名を行って、と。


「んん。それではサラサさん。お受け取りください」


 なりきり口調に戻り命名を終えたレイピアを渡す。サラサちゃんはすごく嬉しそうにオーナー登録をして装備した。


「うんうん。やっぱり装備品はキャラクターに装備してもらってこそだよね。イメージ通り。サラサちゃんが装備してくれてやっと本当の『完成』だよ」


 装備したサラサちゃんが軽く歩いたり、その場でくるりと回ってみたりと動いて見せてくれた。そうしてやっと、装備品に命が宿った感じがする。新しい装備を手に入れて喜ぶお客さんの笑顔と、同じくらい躍動する装備品の表情を見られるから、生産職は辞められないんだよね!



                               【第1話・終】

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