第7話 明るいフィオ

シャワを浴び終えて、

洗面台に置いてあった、一枚刃のT字剃刀が目に入りそれで髭を剃ることにした。


うまく剃ることができたかといえば、あまりうまくはそれなくてちょっと顎のあたりの皮膚を切ってしまった。

とりあえず、全体を剃り終えたら近くにあった紙で傷を押さえて血を止めることにした。


父に教えてもらったんだが、こういう場合は抑えてれば自然に止血されるという事をふと思い出したりした。


血が止まったのを確認して、今度はたまたま手に取ったものが整髪料だとわかり髪につけることにした。


「これポマードだよな」


蓋を開けるとすごくいい香料の匂いが漂ってきた。

髪を整えるのに少し使わせてもらうと感じとりあえず、髪の毛をセットした。


シャワールームを出ると、

ミレーヌが座っていたテーブルには三人分の食事が用意されていてフィオも座って一緒に食事をしていた。


「あら、意外とオシャレさんなのね」


そう、ちらっとミレーヌがこちらを見てそう言った。少々驚いた様子があったが...

それとは対照的にフィオはテーブルをパンと叩いて立ち上がってこう言った。


「え、本当に!全然イケメンじゃん。あたし好きよそういう感じなの〜」


キリュウはフィオの褒め言葉を聞いて思わず表情が緩み微笑んだ。

その表情を見たミレーヌはうっすらを笑みを浮かべてこう言った。


「やっと落ち着いたかしら。とにかく、食事食べたらどう?」


「あ、はい」


そう答えるなり、プレートに用意されたハンバーガーとドサッと乗ったフライドポテトが目に入ったあとその横に明らかに世界観にミスマッチなお椀に味噌汁が入っているのに気がついた。


どこか不釣り合いではあったが、

美味しそうな匂いが鼻に入ってきてた。


キリュウは席につき両手を合わせて普段通りにこう言った。


「いただきます」


すると目をキラキラさせたフィオはキリュウを見ながらこう言った。


「あ、やっぱり言った!アキラと同じくお祈りの言葉だ!

これが私がこのお店で出す最後のメニューだから、存分に味わってね」


キリュウどことなく、フィオを見ていてまだあって間もないが彼女は人と喋るとかそう言ったのが好きな人のように感じられた。


キャッキャと喋る横で、

クールに食事を取るミレーヌとは違うように感じられた。


「最後ってどういうことなんですか?」


フィオが口に出したその言葉が気になったので聞いてみるとフィオは少しだけ暗い顔をしてこう言った。


「引越ししなきゃ行けなくなって...旦那と子供達は先に行かせたんだけどね。

どうしても、このお店だけは最後までやりたかったの」


どうして引っ越しをしないといけないのかなと思ったらミレーヌがそれの説明をしてくれた。


「帝国の政策でこの区画に基地を作ることになったよ。それで、ここの住人は強制的に移住を余儀なくなったのよ」


キリュウはそれを聞いてこの世界が本当に自分がいた世界ではないのをまた実感する。

だからきっと、フィオどこか暗い表情を見せたのだろうと思えた。


きっとこの店に思い入れがあるのだろうーーー


ちょっとばかりそれを聞いて、キリュウは言葉を出せなかったからだろうか。

フィオが少しばかり重くなった空気を切り裂くように明るい声でこう言った。


「でもね。ミレーヌが手助けしてくれたの。

ほんとあと少しで一文なしで街を放り出されるところだったんだけどね!


ニューアムステルに移住できるし、あの街ならきっともっといい生活ができるって思ってるの。

アキラと子供達みんなでダイナーを開くって夢はそこでやろうって思ったのよ」


フィオはそう言ってウインクをして右手の親指を立てた。


「だから、ミレーヌには借りがあるから彼女の頼みは聞いてるのよ。

今回も料理と車用意したしね!」


キリュウはそれを聞いて彼女の機嫌が良くなったようでホッとして食事を始めようとした時だった。


「でも、よかったわね。ミレーヌに助けてもらって、帝国だと異世界人って捕まっちゃうらしいし」


キリュウはそれを聞いて手に取ったハンバーガーを皿に置いた。

どういうことなのか気になったが、ミレーヌがこう説明してくれた。


「帝国軍の一部では、異世界人を危険分子として捉えて捕まえてるのよ」


「捕まえて...」


キリュウ一瞬だけ何か気まずい感情を見せた後、首を振ってこう即答した。


「知らないわ」


ミレーヌはそうキッパリといった。

その言葉はどこか尖ったような感じでこれ以上はこの話はなしよともいうべき感じだった。


また少し空気が重くなる、ミレーヌは食事を終えて紅茶をすすりながらこう言った。


「今は詳しくは言えないけど、以前帝国軍の一部が異世界人の一人とトラブルになったの...


そこから、方針転換で訪問者がいるのを察知すると帝国陸軍の一部隊が極秘裏に動くのよ」


ミレーヌはそう言ってカップをテーブルに置いて話の話題を変えた。


「だから、キリュウ君にはこの帝国領から脱出してもらうのよ。

保護するっていたけど、それはニューアムステルって街で生活してもらうイメージをしておいて欲しいわ。


最低限度の生活保障はするけど、仕事は探して欲しいわ。

車の運転できるからいい仕事斡旋はしてあげれるわ」


それを聞いたフィオはポンとキリュウの肩を叩いて笑顔でこう言った。


「私たちがホストファミリーになるのよ。慣れない異世界生活だろうからお手伝いするわ。

生活が安定したら、独立していってもいいからね」


キリュウはそれを聞いてうんと頷いてどこか今後が見えた気がして、ほっと安心することができた。


「よろしくお願いします」


キリュウはそうフィオを見つめながら軽く会釈をしてそう言った。

明るくフランクにフィオはよろしくねって言って食事を始めた。


キリュウも食事を始める為にハンバーガーを手に取った。


「美味しい」


思わずそう声が漏れるとフィオはニコッと笑って


「でしょ。とっておきなんだから」


と嬉しそうに言った。


食事はなんだかんだでたわいのない話をフィオとミレーヌとした。

主な話はニューアムステルという街についてだった。


フィオ曰く、

その街は世界一の都会で、世界中から人が集まって、自由があって誰でも不自由なく生活できるチャンスがあると言われている街だそうだ。


それとは対照的に帝国では締め付けが強く、

フィオとアキラのように強制移住をさせられたりと言ったことをされるそうだ。


アキラはこの前まで、

このポートタウン唯一の保安官をしていたらしく、町長とも仲が良く、町の人からも信頼が厚かったようで....

家族はそれなりに豊かに楽しく生活はできていたそうだ。


「うち子供5人いるからね〜。町が取り壊しになって旦那の仕事無くなっちゃうのはからなり痛手だったのよ....

帝国は何も補償してくれないしひどい話」


フィオはそう言って唇を尖らせていた。

キリュウはそれを聞いて目を見開いてこう言った。


「5人もいるんですか!?」


フィオの年齢はおそらく、

多く見積もっても30代にはいかない年齢だろうし、体型も肌艶も良くちょっとファンキーな雰囲気を出していてそんな子沢山な母親には見えなかったからだ。


強いて言うなら、明るいお喋り好きなギャルだなとイメージを持っていた矢先だいぶ違ったイメージがキリュウの頭の中に入り込んできた。


「アキラすごいお盛んだからね。なーんてね。そういえば、キリュウ君はいくつなの?」


「17歳です」


「若いねぇーいいね、青春だねーってアキラなら言いそう」


フィオはそう言ってニコニコし始めた。

ミレーヌはそれを見てうっすらと笑みを浮かべた。


「キリュウ君。食事が終わったらフィオを乗せて港に行くわよ...

多分朝一の便に乗れるだろうから、また運転よろしくね」


キリュウはそれを聞いてふと疑問に思ったことを聞いてみた。

今落ち着いて見てみるとミレーヌは明らかに自分よりも年上で多分年齢的には5、6歳上そうな感じに見えた。

だから...


「そういえば、ミレーヌさんは運転は...?」


フィオがその言葉を聞いて大声でお腹を抱えてこう言った。


「彼女運転ダメダメよ。

この前だって、ブレーキとアクセル間違って植木にぶっ込んだり、その前なんて酷いの〜ギア入れ間違ってるの気がつかないで池に落っこちたりしたし」


それを聞いたミレーヌは顔を赤くしてこう言った。


「もー言わないでよ...人間誰にでも得意不得意ってのがあるでしょ」


一見クールでどこかなんでもできそうに見えたミレーヌにも不得意なこと若干ドジっ子な気質があることを知ったキリュウはどこかほっと安堵した。


テイションの高いフィオと赤面するミレーヌを横目にキリュウはこの世界に来て初めての食事に舌鼓した。

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