第310話 自立への道

 そんなこんなで議長様からも色好いお返事をいただいた私は、勿論王妃様とお父様、お母様にもしっかりと話を通すことにする。


 いくら経済的に自立できているからって、年頃の娘が勝手に家を出て一人暮らしを始めますっていうのもどうかと思うしね。



『いいんじゃない? もうアメリアも一人前なんだし、魔法王国にこだわることもないと思うわよ』



 相変わらず軽い調子のお母様だけど、そこには確かな信頼が感じられる。


 王都の学院に入学するまでは、お祖父様やアルトさんとずっと旅暮らしだったお母様に、王国に対する帰属意識は無いしね。



『なっ!? 何を言っているんだい、アリッサ? アメリアが他国に行ってしまうなんて……。

 旅行とは違うのだよ? 他国へ行ってしまったら、もうそう簡単には会えなくなってしまう……。

 そ、そうだ! 私もアメリアの国に帰化すれば、』


「いえ、お父様。魔法王国が私の作る国との関係を拒絶すれば別ですけど、そうでなければ、今よりもむしろ会う機会は増えると思いますよ。

 お父様は魔法王国の宰相で、私は一応国家元首になるわけですから、色々とご相談する機会も増えるかと思います」


『むっ? そうか……』


「ええ、ご相談に乗ってくれますよね?」


『ああ、勿論だ!』



 これでお父様の宰相辞職は回避かな。



『……話を聞く限り、長い目で見れば我が国にとっても悪い話ではないと思うわ。

 もし実現するなら、陛下の説得は引き受けましょう。

 ただ、こちらにも条件があるわ。

 これをアメリアの方で何とかしてくれるなら、後のことは私の方で引き受けても構わないわ』



 私が魔法王国を出てお隣に新たな国を構えるにあたり、王妃様から出された条件。


 それは、王家の政敵であり反アメリア派でもある保守派貴族の徹底排除。


 王家としては、全てを魔力量ではかる今の王国の在り方は時代遅れであり、現実に即していないと考えているらしい。


 魔力があれば何でもできる、なんて時代ではないからね。


 特に最近は連邦や倭国との付き合いも増えているから、尚更魔力以外の能力が必要とされる機会も多くなっているみたい。


 今回の経済攻撃にしても、政治や経済に明るい人材が揃っていれば、もっと早くに対処することができたはずだ。


 魔力量で賃金が決まり、それ以外の能力は全く評価されないなんて、そんな社会制度の中で真面目に勉強しようなどと考える者はいない。


 結果、他国では誰も騙されないような単純な手に簡単に引っかかるお馬鹿な国民が量産される。


 これを早急に何とかしなければ、魔法王国の将来は危ない。


 これが王家上層部の見解だけど、それこそ国の在り方さえ変えてしまうような大改革だ。


 保守派貴族という膿を徹底的に取り除かねば、改革は覚束おぼつかない。


 王妃様は、この戦争を利用してそれを実行したいらしい。


 転んでもただでは起きないというか、つまずいた石を武器にして相手を殴り倒そうという姿勢が流石というか……。


 保守派貴族の方は王妃様や国王陛下、王太子殿下が情報操作して、王都前に集結させるように誘導する。


 私の方は事前に帝国側に話を通し、帝国軍には保守派貴族の殲滅に協力してもらう。



『あぁ、できれば救援にやって来る軍の指揮官はレジーナにしてちょうだい。

 指揮官が魔力量の少ない平民の娘の方が、後々の話し合いで保守派貴族を追い込むのが楽になるから』



 はい、レジーナさん、ご指名ですよ。


 一人だけお留守番を頼むのは心苦しいけど、さすがに映像の中継は魔道具だけでは無理だし、私かレジーナのどちらかは王国に残る必要がある。


 そして、私は帝国に行ってみたい!



(ごめん、レジーナ。これは王妃様からのご指名だから!)



 こうして連邦、王国に話を通した私は、意気揚々と帝国へ向けて出発したのだった。





 そして話は、帝国女帝マリアーヌとの会談の夜に戻る。



『ほ、本当に、石板無しで魔法の習得が可能なのか!?』


「はい。知識のある指導者が発音の矯正指導を行えば、直接石板の声を聞かずとも魔法を覚えることはできます」



 そのノウハウも、新たに作る学園では指導するつもりだ。


 学園で学んだ指導者が増えれば、直接学園まで来て学ぶことのできない帝国の辺境に住む平民でさえ、気軽に魔法を覚えることができるようになる。


 帝国に、魔法が復活する!


 巨大なゴーレム兵や未知の魔法を見せられ、帝都の喉元に剣を突きつけられた状況に半ば帝国の敗北を覚悟していたマリアーヌは、その後伝えられた新たな学園の話に呆然と立ち尽くす。


 感情が振り切れたのか、知らず頬に一筋の涙がこぼれ落ちた。





(女帝マリアーヌ視点)


 王都郊外で行われた王国軍との戦闘の後、数日前にアメリア公爵の使者が現れた前線基地まで撤退した私は、改めてあの夜のことを思い出す。


 あの夜、アメリア公爵によってもたらされた提案について、改めて思考を巡らす。


 あの時は見るもの聞くもの全てが予想外のことばかりで、今思い出してもあれは夢だったのではないかと疑いたくなるほどだ。


 現実離れした薄く光輝く少女と、その少女の後ろに並ぶ鋼の巨兵。


 巨大な岩を打ち砕く未知の魔法。


 文字通り、見せられたそれは全て幻で、後から冷静に考えればそれが実在する保証はどこにも無い。


 全てが絵物語のまやかしである可能性もゼロではなかったが……。


 実際に先日の戦闘で見せられたゴーレム兵や使者殿レジーナが使っていた魔法は、確かにあの幻で見せられたのと同一のものだった。


 先の王都軍の動きといい、全ては事前に伝えられた通りのもので、実際あれほどの戦闘だったにも関わらず、こちらの被害は軽微。


 撤退の際にも、王国軍側からの追撃や妨害は全く見られなかった。


 事ここに至っては、あの夜の話も現実として受け入れざるを得まい。



『今の魔法王家に、帝国と敵対する意思はありません』


『魔法王国を含めた帝国以外の3ヵ国は、できれば帝国とも対等な友好関係を結びたいと考えています』



 そして何より、



『新しく作る学校では、石板無しで魔法を覚える方法についても指導するつもりです。

 やる気のある生徒は大歓迎です。勿論、帝国の生徒も受け入れますよ』



 最初にアメリア公爵の計画とやらを聞かされた時は、何を馬鹿なと一笑に付したが……。


“お試し授業”だと言われて半刻ほど受けた使者殿レジーナからの指導で、私は初級の火魔法をその場で会得した。



「Превратите магическую силу в огонь」 

 


 ボッ!!



 私の唱えた呪文に応えるかのように、私の掌に真っ赤に燃える小さな炎が現れる。


 確かな熱を感じる正真正銘の炎。


 それでいて、その炎が術者である私を燃やすことは決してない。


 たんなる自然現象で生み出されたものではなく、他の誰かが生み出したものでもない。


 私自身が、私の魔力を使って生み出した、私自身の魔法。



「……完敗だな」



 あの戦闘自体は打ち合わせ通りの茶番であっても、あそこで見せられた戦力は本物だった。


 あれと同じものが何の戦準備もしていない帝都の喉元に突きつけられている事実。


 それに加えて、石板無しでの魔法の習得を可能とするノウハウの提供。


 どちらか一つでも降参するしかない特大のアメとムチ。


 アメリア公爵の語る独立学園都市国家を基軸とした平和な世界の構築?


 少女の夢物語か帝国を滅ぼす悪魔の誘いか……。


 ともあれ、今の帝国に、いや、私に拒否権など無い。


 石板に依存しない魔法の研究などという特大の餌をぶら下げられて、私の知的好奇心が抑えられるはずがないのだ。


 まずは幹部どもの説得。モーシェブニ王家との平和条約の締結。


 帝都の安全を確保する意味でも、こちらの兵はさっさと引き上げさせるべきだな。


 ダルーガ領の学校に人を送り出すなら、キール山脈を越える方法についてもアメリア公爵から情報を得たいところだ。


 もし可能なら、私も新しくできる学校で学べるよう交易路の整備も進めたい。


 よし、善は急げだ!



「誰か! 至急側近を集めろ! 帝国の今後について、緊急会議を行う!」

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