第11話 お食事会

 父親の運転する車で、近くのレストランに食事に行こうという話になった。松下の兄も同行するということだ。なぜか彼の視線が、イヤらしくねちっこくまとわりついて来るようで気持ち悪い。時折、目が合うと一応愛想笑いをしてみる。ああ、早く帰りてえ。


「なぎささんは食べられないものとか無い?」母親が訪ねてくる。


「あっ、大丈夫です。好き嫌いは無いほうですので」


「そうね。いいことね。武司は好き嫌い多いのよね」母親は期限良さそうに話をしている。


「母さん、止してくれよ」松下は恥ずかしそうに制止する。生徒に知られるのが嫌なのであろう。


「まあ、なぎささんの前で恥ずかしいのね」母親はケタケタ笑う。


 スカートから出た足に、松下の兄の視線を感じるので持っていたポーチで隠す。


「それじゃあ、馴染みのステーキハウスにするか?」父親の提案。


「に、肉ですか!?」しまった思わず大きな声を出してしまった。


「あら、なぎささん、お肉大好きなの?それじゃあ、そこにしましょう」車はステーキハウス目掛けて走り出した。


「お、美味しい……」この間、学食でご馳走になったステーキも美味しかったが、さすがに専門店のそれは上回る。


「武司、学校のほうはどうなの?」母親が仕事の話をしてくる。


「ああ、なんとかやってるよ。最近やりがいも出てきたし」松下も器用にナイフとフォークを使う。食べなれているのだ。


「まだ、小説書いてるのか?」徐に兄が口を開く。


「あ、ああ……、少しずつだけど……」その横で俺は肉と悪戦苦闘している。松下は優しく微笑むと、俺のナイフとフォークをもって肉を細かく分けてくれる。これなら箸でも食べれるサイズである。


「あ、ありがとう……」俺は少し恥ずかしくなりながらお礼を言う。


「あら、武司優しいのね」母親は驚いたように声をあげる。


「い、いや……別に」松下は照れた顔を見せた。


「な、なぎささん、こいつ本当は駄目なヤツなんだ。勉強も中途半端だし、いい歳して小説みたいなもの書いてるし、もっといい人探したほうがいいよ」兄が気持ち悪い視線で俺を見ながら話をする。


「ちょっと、なにを……」母親は驚く。


「そ、その点、俺は一流大学出て大学の研究室にいるし、俺はみたいなのが、なぎささんと釣り合うんじゃないかな」この兄貴が何を言いたいのかよく解らない


「……」松下は言い返さないで黙っている。


「なぎささん……、こんな奴とは、別れたほうがいいよ」兄貴は執拗に言ってくる。


「お前、冗談になってないぞ」父親がたしなめる。


「じょ、冗談じゃないさ……、なぎささんには俺のような……」奇妙な薄笑いを浮かべながら、相変わらずイヤらしい視線で俺の顔を見る。


「うぜえ……」思わず口にしてしまう。


「えっ……」一同の顔がひきつる。


「うぜえんだよ!人が一生懸命やってる事を馬鹿にするんじゃねえ……わ!」なんだかスイッチが入ってしまった。


「ちょ、ちょっと東京……」松下がなだめようとする。しかし、その制止を振り払い俺は声を出してしまった荒げた。


「先生も先生だ……わ!あんた、いやあなたも言い返しなさいよ!あんなに嬉しそうに語っていた夢を馬鹿にされて!!小説書いて作家に成ることが先生の夢なんでしょ!!…………あっ」なぜかこの瞬間、怒りが覚めてしまった。


 俺の雄叫びは店内に響き、一同の顔は真っ青になっていた。たぶん、この家族がこの店に訪れる事は二度とないでしょう。






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