第8話 僕の初体験

「はあ、はあ、はあ、はあ・・・・・・・」息遣いが聞こえる。「まったく、手間を取らせて・・・・・・」詩織が疲れた顔で額の汗をぬぐう。


「しくしく・・・・・・・・」なんだか情けなくて涙が出てくる。もう。お婿さんに行けないかもしれない。


「おおお、これは思った以上の仕上がりだ」日暮先輩は拍手をする。一体何に対して手を叩いているのか俺には理解できない。


「あっ、鏡そっちだから」詩織は言いながら壁の方を指さした。俺はハイハイの状態で鏡の前に移動する。


「えっ・・・・・・・?」鏡の中を覗き込んで目を見開く。そこには見た事の無いような美少女が俺の顔を見ている。ピンクの薄いリップに頬紅、方まで伸びたセミロングのウィッグが自然に馴染んでいる。いつの間にか、制服まで女物に着替えさせられている。「ちょ、ちょっと・・・・・・・これは・・・・・・、なに?」右手がプルプルと震えてる。


「なんだ、騒がしいな」いきなり部室のドアが開く。入口には担任教師の松下の姿があった。


「先生、一応部室に入る時はノックをお願いします。一応ここは女子部なので」日暮先輩が長い髪をかき上げた。あの、俺男なんですけども・・・・・・・、


「ああ、すまん、すまん・・・・・・、今日は個人的ば依頼があって来たんだ」松下はバツの悪そうな顔をして頭を掻いた。


「そうですか。どうぞお掛けください。ご依頼でしょうかをお伺いいたします」日暮先輩が真面目な顔をした。松下は言われるままに席に座った。俺はすでに放置されている。


「実は、実家の両親から連絡があって、急に見合いをする事になったんだけど・・・・・・、まだ、僕には結婚を考える余裕が無くて・・・・・・・、ちょっと、彼女のふりをしてくれないかなと思って・・・・・・・」おいおい、それって生徒に頼む内容なのかと俺は呆れる。「きちんと報酬は払うよ」そりゃそうだろう。


「ちょうど良かった、それならうってつけの新入部員がいますよ」日暮先輩はお得意の笑顔を見せたかと思うと、俺の方を見た。それに釣られるように松下も俺の顔を見る。目が合ってしまい俺は思わずニヤリと笑ってしまう。


「見た事の無い生徒さんだな・・・・・・・・、君は?」松下は口元に手を添えると不思議そうな顔をした。


「あの・・・・・・・・、俺です・・・・・・・」言いながら俺は頭のウィッグを外す。


「あれ、君は・・・・・・・・、まさか、東京君か!?」いいえ、逢坂です。「君は、そんな趣味があったのか?」いいえ、違います。


「もう、せっかくセットしたのに・・・・・・・!」言いながら詩織が無理やり、ウィッグを被せてくる。


「でも、助かるよ。女子生徒にこんな事頼んで、へんな噂になったら困るかなとも思ったんだが、東京君なら安心だ」いや、どっかでレンタル彼女でも頼めよと俺は思った。「それじゃあ、さっそく今度の日曜日お願いするよ」そう告げると松下は、俺の肩を優しく叩いた。

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