chapter:Absence

prologue

 あるバッドエンドの主人公


 いつも同じ物を身に着けてると、そのうちその物の名前で呼ばれるようになることがある

 それの典型例だった、毎日赤い頭巾を被っていたんだから


 ある日、ガレットとバターの壺を持ち、病気のおばあちゃんのお見舞いに行くことに

 途中で出会ってしまったは、皆様ご存知悪名高き獣のオオカミさん


「自分もおばあちゃんに会いたくなった。自分はこっちの道から、君はこっちの道から行って、どっちが先に着くか競争しよう」

 そんなあからさまに怪しいことを言って近道を走っていったのに、主人公は遠い方の道を何故か呑気に花を摘みながらゆっくり歩いていった


 何やってんだ! この後絶対大変なことが起こるぞ!

 でも大丈夫、最終的には猟師さんが助けてくれるからね!


 で、おばあちゃんちに到着したオオカミさん

 案の定、おばあちゃんをぺろりと丸呑み

 おばあちゃんに成りすまし、ベッドに潜り込む


 ほら言わんこっちゃない! 主人公も狙われてる!

 でも大丈夫、最終的には猟師さんが助けてくれるからね!


 やがてのこのこやって来た主人公、ベッドにいる「おばあちゃん」にびっくり仰天

 目だの耳だの口だのについて質問攻め


 そんなこと訊いてる場合じゃない! 早く逃げて!

 でも大丈夫、最終的には猟師さんが助けてくれるからね!


 食いしん坊オオカミさんたら、口についての質問に答えるや否や、主人公までをも丸呑みしちゃった!


 なんてこったい!

 でも大丈夫、最終的には猟師さんが助けてくれるからね!


 まだ来ない

 まだ来ない

 まだ来ない




 来ねえよ!


 これは「あいつら」が書いた話じゃない、「あいつ」が書いた話だ!

 待てど暮らせど、猟師さんなんてやって来ません! 残念でした!

 大体、助けなんて来たら「誰にでも耳を貸すべきじゃない」って教訓が薄れちまうだろうが!


 そうして結局、おばあちゃん共々オオカミさんのお腹の中で消化されてしまいましたとさ!


 めでたくなし、めでたくなし!







 一方こちらのバッドエンドの主人公


 おやおやこれは珍しい

 桃でも竹でもなく、瓜から生まれた子どもだなんて


 毎日毎日上手な歌を歌いながら、上手に機を織るのが日課だった

 その子の評判は広まりまくり、やがてお殿様と結婚することになった

 おやおやとんだシンデレラストーリーですこと


 必要なものを買いに育ての両親が出かけていったその日も、いつも通り、歌いながらぎったんばったん機織りしていた

 そこに現れましたは、皆様ご存知悪名高き化け物のあまんじゃくさん


「この戸を開けておくれな。一緒に仲良く遊ぼうよ」

 そんなあからさまに怪しいことを言ってやたらと家の中に入って来たがった

 でも、両親の言いつけを守って戸を開けない主人公

 偉いぞ! 君なら大丈夫だ!


 そしたら今度は、「そんなら、少し開けてくれるだけでいい。せめて指が入るだけ」って懇願してきた

 それならいいかとちょっとだけ

 それだけなら大丈夫だ!


 そしたら今度は、「もう少し開けてくれるだけでいい。せめて手が入るだけ」って懇願してきた

 それならいいかともうちょっとだけ

 それだけなら大丈夫だ!


 そしたら今度は、「もう少しだ。せめて頭が入るだけ」って懇願してきた

 それならいいかと最後にちょっとだけ

 大丈夫じゃなかった! 頭から家の中に入って来ちまった!


 むりやり山に連れ出された主人公、あまんじゃくさんに柿の実を取ってこいと木に登らされた

 がくがく震えつつも主人公、頑張って登っていった

 あと少しで実に手が届く、というところで、あまんじゃくさんが木を激しく揺らしやがった!

 必死でしがみついたけど、そんな努力なんて虚しいもんで! あっさり落っこって、命まで落っことしちまった!


 めでたくなし、めでたくな……

 え? まだ続きがある?


 欲張りあまんじゃくさんったら、主人公の顔の皮と着物を剥いで身に着けて、主人公に成りすまして主人公の家に行っちまった!

 そうして、みんなに祝われながら、カゴに乗ってお殿様のお城に向かっちまった!

 だあれも気付かないもんなんだな!


 けれどその道中で、空の上から小鳥の告発

 ようやっと真実を知り、そりゃもう怒髪衝天のご一行

 そば畑であまんじゃくさんを、そりゃもうボッコボコにしたんだとさ


 その時のあまんじゃくさんの血で、そばの茎は今でも赤いんだと

 由来がそんなんであっても、そばの美味さに変わりはないね!


 続きあっても結局、主人公は救われませんでしたとさ!


 めでたくなし、めでたくなし!



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